現代語の俳句作品集です。

現代語・新仮名・現代的切れ字を基本にして詠んだ句のなかから、現代詠作品を中心に集めました。

よろしければご覧になってみてください。


*作品はすべて既発表句です
*順次改訂していきます




BGM
YouTubeより

MATSU 様

動画の長さ:1時間1分51秒

曲を聞きながら
楽しんでいってください



現代俳句 作品集
~現代詠~

◇ 春 ◇

春立つかひがしに筑波にしに富士

大ぞらを描いている画家春が来る

一つ一つちいさな地球木の芽吹く

スマートフォン人々の手に春光よ

イヤホンにぽんと触れれば春の歌

かもめとぶ沖にまで春およんだか

船でゆくおおうなばらという余寒

さえずりがさえずりをよぶ島々よ

かけてゆくじゆうな子らよ春日傘

コンビニがうつくしい夜ぼたん雪

さす傘につもりつもらずぼたん雪

ロケットが飛びたった空まさに春

原子力はつでん所ごとかげろうか

ふるさとがみえてくるのは春炬燵

家族写真とおいむかしの春のまま

ふえていくいっ冊ずつよ春の書架

輪郭がだんだん富士よ春あけぼの

窓また窓都市また都市を鳥かえる

切りながら過ぎゆくはるよ美容室

ペルシャ猫ふわりと立上がる恋か

飾り雛流行りやまいもなんのその

自動運転木の芽の道をまっすぐに

路じょうでも屋じょうでもよ春茜

バンクシーの絵を飛立った風船よ

世をつつむはるゆうやけの安心が

アフリカ象アフリカ知らず春の雪

木々の芽のひとしずくずつ雪解よ

そうぞうがそのまま都市に春の月

旅客機よおおきなはるの月のなか

家建ててそれからながい春のゆめ

あかん坊がはっと泣きやみ春の雷

この町よ春そのままにコーヒー店

鳩の空いのち見あげるあたたかさ

侵攻といちりんの黄のたんぽぽと

たたずんでこれが平和か花の都市

どの人も花とふぶいていることよ

花見してはるばると時こえゆくか

無になってながめる花よ花のなか

エイプリルフールと青い地球儀と

千ねんとむきあう京ののどかさよ

春ショール天の香久山とおく見て

絮とばすたんぽぽいくつ城のあと

カンバスよえがく桜もちるさくら

古代碑の一つしずかにかげろうか

都市の空はるばると越え黄砂降る

地球から借りたからだで野に遊ぶ

一重咲き八重咲きすべて牡丹の芽

オカリナか山河にひびく春のおと

田の蛙かおだけだしてゆうばえて

家いえよいちおくにんにはるの月

義手にみらい義足にみらい風光る

じてんしゃに鳩に都会にはるの空

たからづか歌劇場じゅう春のうた

指揮棒もはずむオーケストラよ春

おおさかを出ておおさかは春夕焼

船旅よみなとみなとのはるかもめ

草もちのよくのびてこそひとり旅

マネキンのとわの静止よぼたん雪

コーヒーのかおり千年おぼろの夜

ポーカーのそれぞれの顔どこか春

マンションの春灯やがて星のなか

春満月そうつぶやいてしまうほど

平和さよ雨あがるたびしゃぼん玉

少年という春雲よジャングルジム

海女ひとりふたり歴史の波の間に

はるのうみいのち創造してしずか

灯台よ瀬戸いっせいにはるのくれ

バス停がしずまるたびよ落つばき

さいげつのひとつひとつよ落ち椿

たがやすか夕日のなかに影ひとつ

豊じょうのゆめひとにぎり春の土

うみ越えて映画がやってくる春よ

さえずりにはじまりおわる週末か

あなたとのけんかもいずれ春炬燵

春ゆうやけ三人ほどは見ているか

おもいだすあの灯あの町おぼろ月

釣りびとも大きな海ののどかさよ

かえりくるふねいくつもよ蜃気楼

このほしもほしぞらのなか蛙鳴く

ほしぞらよちきゅうひとつが遠蛙



◇ 夏 ◇

顔あげていた夏ブルーインパルス

東京よオリンピックとせみしぐれ

開放感ミントのアイスクリームよ

若草か野はらから立ちあがるひと

山頂よどこから見てもこいのぼり

踏切りがかんかん鳴って夏来るか

街じゅうをわれにかえらす落雷よ

世のなかをあらい流して梅雨の月

星のさいげつ人のさいげつ蛍とぶ

雲だけが自由ほんぽう田植えどき

咲きみちてあじさいいろの鎌倉か

家二軒ひびきあうかにふうりんよ

おおぞらをとおくきよめる風鈴よ

アイスティー喜怒哀楽の街あるく

あおぎ見るひとのかずだけ夏の月

銀天街灯のすずしさのきわまって

そのなかに揺れるみらいよ香水瓶

まいにちがかおりはじめる香水よ

伊予鉄道たかはま線の果てよ夏至

目つむれば好きな人びと風鈴聴く

空よりもとおくを見つめソーダ水

ハードル走次つぎと夏こえゆくか

みずくさもゆらりゆらりと金魚鉢

せみしぐれ「こころ」一冊机の上

来る河のながれは絶えず鮎がとぶ


おのみちは会釈の町よせみしぐれ

寝ころんでうちゅうに一人夏座敷

君がえらぶあおいかおりよ香水店

アイスティー氷からんと静かさよ

日本じゅうおなじじだいを夕涼み

手花火よ一人消えまたひとり消え

ベランダよこよい大きな月のなか

じんるいのはんぶん眠るなつの月

柔らかにふれればともる夏の灯よ

このあたりすでになつぞら熱気球

衛兵がすっくすっくとあるく夏至

教会のひっそりとして薔薇のなか

きらきらと清濁の世にふんすいよ

夏の海すべてゆるしてきらめくか

さざなみのいくせんまんよ浜日傘

アロハシャツ戦争平和なみのおと

戦争よとおのいてゆくせみしぐれ

ハンモックわかる地球の大きさが

聴くまではきこえず坂の蝉しぐれ

蟻の列すすむいのちのものがたり

交番をけぶらせているゆうだちか

東京タワー灯が朝焼にかわるまで

富士の山すえひろがりの涼しさよ

京ふうりん一代ごとのものがたり

すずしさのまんなかにたつ銀閣か

通天閣おおさかいちのすずしさよ

なにおもうなにもおもわず大夕焼

わか葉してむかしをいまに東大寺

せんねんがきこえくる寺蝉しぐれ

そのはてに都市いくつもよ夏の河

蟻いっぴき葉のさきに立つ大自然

飛びこんでちいさなしぶき太平洋

平およぎ海をひらいてゆくことよ

巻き波よサーファー斜め四十五度

サーファーに妻と子がいて暮の浜

とびうおが飛んできらきら一億年

やわらかに日焼を洗いながす手よ

一人一人孤独でアイスコーヒーで

アイスコーヒー氷残してまた街へ

もてなす日おおきくひらく冷蔵庫

茹で洗う水また水よ冷やそうめん

ひるがおがつぎつぎに咲き海の音

かぶと虫角ふりながら生まれるか

いちぞくとそらへだててよ夕涼み

世も人も変わりかわらず夏まつり

ひとびとがうつくしいのは祭の夜

みずからを懐かしみつつ手花火よ

かみなりよポポととびだす鳩時計

登山杖かつかつと行くおおぞらよ

ケルン積んで山のむこうも青い山

玉落ちてなにかが終わる手花火よ

人類のまつえい一人キャンプの火

ハンモックほしのせかいは無限大


うちゅうにもある物語ふうりんよ

アルバムの最後のページやがて秋



◇ 秋 ◇

大ぞらのどこからとなく小鳥来る

スカイツリー空新涼ということか

秋風鈴かぜになりつつあることよ

都市たかく灯ともってこそ流星群

月を見て三日こころのしずかさよ

原爆ドームその日を語り続けるか

ひとにみちじぶんにみちよ墓参り

いつの世もまえへまえへと阿波踊

生きわかれ死にわかれてよ盆の月

そのしたにかおかおかおよ大花火

顔照らす花火きえてはまたひらく

あかるくてこの世あの世の大花火

千々の灯がとおくひとつに流灯よ

虫鳴いて生死の果てのかぜのおと

さまざまななやみのこたえ朝顔よ

ひとり行く花野いつしか夢のなか

菊いちりん今へとつづく香りこそ

屋根屋根に日ざしがしみて峡の秋

船に風まったくもってさわやかよ

千光寺千々のひかりのつゆむすぶ

しずけさのきわみに夜の団扇置く

ほんとうはしずかな地球虫のこえ

生きること死ぬこと天の河のした

コーヒーに紅茶にふかみゆく秋か

秋光のひとつひとつよくだもの籠

菊の香よふる里よりもなつかしく

自転車のひとりひとりがあきの雲

飛鳥寺そのむかしからあきのくれ

静かさのはじめの夜よたなばた竹

大宇宙をものおもいして灯の秋よ

再会よだまっていてもほしづき夜

星あかりたたずむ橋の名もしらず

スカイツリー真ん中に置き流れ星

靴のおとどのじんせいも霧のなか

新幹線なごやおおさかあまのがわ

それぞれの絵にものがたり美術展

図書館のさいげつ黄葉してゆくか

工場をうつくしくしてあかとんぼ

えんとつよあがるけむりも秋の空

あかとんぼダムの放流とどろくか

また一人あかるみに出て十五夜よ

古じんらのおもいのこしの名月よ

母のこえ子のこえ虫のこえのなか

灯の家よあかるくくらく地虫鳴く

応援団長天よりたかいこえを出せ

バス発って落ちてきたのは桐一葉

親のことおもいはじめる十六夜よ

奏上のこえに夜明けてあきまつり

宮神輿ほうじょうの秋そのものか

空よりもしずかに銀杏散ることよ

秋遍路すべてを過去にして行くか

あきの雲旅はなににもこだわらず

たびびともすすきの穂わた草千里

ずっしりとあきのそらとぶ熱気球

踏切りのおともしずかか秋のくれ

関東よたくさんの灯といなびかり

住む街が問いかけてくる秋の灯よ

ゴスペルにブルースレゲエ長い夜

ウイスキーはるかな国の秋のいろ

まんてんの星きよめるか虫のこえ

釈迦の弟子るいるいとして鐘の秋

ほんもののひびきか奈良の秋の鐘

既視感のなかにたたずみ赤とんぼ

大ぞらを引っぱりつつよ林檎もぐ

うなばらを船ひとつゆく露けさよ

たくさんの船たくさんの秋の暮れ

露踏んで西へひがしへじんるい史

そのしたは旅びとばかりいわし雲

飛騨のバス霧にあらわれ霧にきえ

いちにちの余情のなかよ赤とんぼ

待たされて月スクランブル交差点

横断歩道のまんなかあたり秋の風

マンションよ夜風のおとに残る虫

甲州のそらずっしりとぶどう狩り

おむすびよおおぞらだいち今年米

フライパン火にかけどおし豊の秋

明けるまで銀河の島よなみのおと

じぶんへのいのりしすかに星月夜

まどの灯をけしてねむるか銀河系

夜顔よかたりつがないものがたり



◇ 冬 ◇ 

冬かもめ花咲くように飛びたつか

瀬戸内のひとりひとりが冬かもめ

ホットティーホットコーヒー婚話

いちりんよへいわ通りのかえり花

からからと鳴りだす絵馬よ神の旅

日本史を吹き抜けてきた木枯しか

一日をまっしろにしてしぐれるか

高層ビルのいただきまで灯冬の月

コンビニの一灯ふゆにまむかうか

ボイジャーは今どのあたり冬銀河

今日までの旅今日からのかえり花

踏みしめてひとりのおとの落葉道

あしもとにとどく日ざしよ冬木立

この星をあたたかくするしら息か

ちんもくが初雪になるふるさとよ

てのひらへなんどきえても雪の花

駅長にストーブだけがしんしんと

はつゆきよ筑波は筑波富士は富士

釣鐘は打つもの雪はたまわるもの

世の中のなにかが変わり降る雪よ

地の底のおととどろかす除雪車か

山みちのあしあと凍りついていた

村長のかげとひかりの日なたぼこ

飛びたってむすうのかげよ浜千鳥

雨やんで足あとまみれラグビー場

湯ざめして星がかがやきだす故郷

ホットワインむかしは昔遠くなれ

ただの灯か信仰の灯かクリスマス

部屋猫にまどあかるいぞふゆの月

たい焼きとかわりつづける日本と

アメリカがひとすじ冬の飛行機雲

空港はちきゅうとひとつ冬夕映え

さいげつをみおくることが落葉焚

さっそくに空を晴らして門松立つ

手にとって日々のおもさよ古日記

年の瀬に立つスクランブル交差点

ゆったりとたどりついたか大晦日

灯にれきし国にれきしよ除夜の鐘

あおぎみてひとりひとりが雪の花

よこたわる八重雲からよ初日の出

一人一人世にあらわれて初日の出

絶えまなく鳴る大鈴よはつもうで

パスポートひとりのこらず初空へ

てっぺんに富士あるそらよ正月凧

らい年へさらいねんへと餅伸びよ

焼芋屋うしろすがたがあるだけか

いちねんにいちどの雪か街のこえ

ヘッドフォン雪舞う空の静かさよ

だれひとりたどりつけずよ寒夕焼

アルプスよざわわざわわと水仙花

夕映えてアルプスというスキー山

プロキオンカペラシリウス庭焚火

AIが見つめている世雪降りだす

寒灯よはたらくひとのつくえの上

火のようにひろがる街の大風邪よ

風邪生むか風邪ほろぼすか試験管

だれも行くマスクの白を盾として

そしていまつむじ風吹く風邪の町

窓口よだれかのためにふゆの薔薇

消防車おとたててゆくひろい世よ

夜明け空咳がこんなにひびくとは

ぜんいんは僧にならずよ京しぐれ

五重の塔五重をつたうふゆのあめ

寒がらす人の世もっとさびしいぞ

ひとひらのふたひらのゆめ風花よ

母というひかりがそこに日向ぼこ

ほっかいどう零下四度の冬ぎんが

人工衛星見あげてみえず夜々の冬

噛みあててさびしい芯よ冬りんご

白鳥がいて暮れのこるみずうみよ

マンションのいっ戸いっ戸が春隣

子らのうたアレクサのうた春間近

ロボットがはたらきだした街よ雪

寒つばき島とひとつに日あたって

犬がきえ犬小屋がきえふゆすみれ

だんだんとへいわになる世雪達磨

焚くひとも落葉も地球しずけさよ

早梅よ二階のまどのきょうあした

いっぽんのまんねん筆も春を待つ

あるく鳩羽ばたきがちよ明日の春