20年前にニューヨークで 9.11 の衝撃的な出来事が起きてから、
日本でも宗教について割と話されてるようになったと思います。
一般に、日本人は特定の宗教に入信していないと言われることが多く、
何かの会合でも 「私たち日本人は、信じる宗教を持っていないので…」
と言われることが多いですが、そんなとき、
「いや、俺は、釈迦の教えに深く帰依しているよ」
と発言すると意外な顔をされることが多いです。
お釈迦様の教え=仏教と短絡的に考えられてしまうのですが、
一口に仏教と言っても、様々な教えがあります。
私が言う 「釈迦の教え」 とは、いわゆる原始仏教と呼ばれるもので、
日本の殆どの寺院が属する大乗仏教とは、かなり異なるものと言えます。
16~17歳の高校2年で受けた社会科倫理の授業で、割と高名な老齢の教師が
古代ギリシア哲学からキリスト教スコラ哲学まで東西の哲学・宗教について
1年かけてじっくり教えてくれました。今振り返っても貴重な時間でした。
その中で釈迦や、その後の教団の分裂の経緯、大乗への流れについても学び、
「もともとの仏教は、宗教と言うよりは、哲学そのものだな」 と感じるようになり、
本来の釈迦の教えは、現在の日本のいわゆる葬式仏教とは全く別物だと分かりました。
そんな原始仏教の内容は、日本人には、あまり馴染みがないので、
他人に説明するのは、なかなか骨の折れることなのですが、
先日、佐々木閑 教授の新刊本
「宗教の本性 誰が 「私」 を救うのか」 を読んでいたら、
コンパクトに原始仏教の真髄を説明されていたので、
少し引用しておきます。
「仏教は本来、釈迦を超越者として崇拝するのではなく、
釈迦が修行の末に発見した 「この世の真理」 を信じる宗教として誕生しました。
釈迦というのは、その真理を発見し、私たちに教えてくれた偉人ですが、
あくまで、インドに実在した私たちと同じ普通の人間なのです」
「釈迦は 「人間の苦しみの原因となっているのは欲望(煩悩)であり
縁起の法則を理解し、法則を踏まえたうえで正しい生き方を選択すれば、
欲望は消滅し、心の安寧が得られるはずだ」 という結論にたどり着きました」
こういう性質を有する仏教は、当然ながら、
キリスト教やイスラム教などの
一神教とは一線を画すものです。
この点、佐々木閑 教授は次のように述べられます。
「キリスト教やイスラム教では、欲求が叶うことが人間の幸せだと考えます。
(………中略………)
しかし、仏教はそれとは逆に欲求を消し去ること、すなわち、
本能とは逆に向かって進むことが幸せになる唯一の道だと考えます。
要するに 「幸せとは何か」 という問いに対して、
仏教はほかの宗教とまったく逆の方向を見ているのです」
「「釈迦の仏教」 は、外部の誰かに祈れば願いが叶うといったものではなく、
修行の中で自分の価値観を少しずつ変えていくことがすべての基本となるため、
ある程度の時間と体力がどうしても必要になる」
「仏教は、仏道修行によって涅槃を目指す道ですが、それを言い換えれば、
自らの心を鍛えて煩悩を消し、輪廻から逃れることを目的とする道です」
自らの心を鍛錬することを一つの行動の柱とする本来の仏教は、
当たり前のことですが、神秘的体験や超常現象とは無縁です。
佐々木閑教授も分かりやすく次のように説いています。
「仏教における瞑想の目的は、癒やしや神秘体験ではなく、
自分の価値観・世界観を徐々に変えることにあります。
価値観を変えると言っても、瞑想中に突然ピカッと光のようなものが見えて、
一瞬にしてそれまでの価値観や世界観が変わるわけではありません。
瞑想に神秘体験を期待する気持ちもわからなくはありませんが、
古代インドに伝わる仏教の文献を見ても、神秘体験をして
一瞬にして悟りを開いたという話は見当たりません。
釈迦の場合も、菩提樹の下で悟りを開きましたが、
いきなり瞬間的に真理が見えてきたわけではなく、
悟りはあくまでも長い修行生活で瞑想を続けた結果であり、
智慧の力でじんわりと真理が見えてきたと言われています。
(………中略………)
どこにも電撃的、神秘的体験などありません」
だから、仏教系の新興宗教などが憑依とか神秘現象を売りにするのは、
荒唐無稽なことであり、ハッキリ言って噴飯もののはずです。
そういうまやかし・まがい物に、もし心ひかれそうになる人がいたら、
是非、釈迦が説いた原始仏教の教えによく耳を傾けてほしいです。
何事もまずは 「本物」 を知ることが大切であると切に思います。
今から約30年前に受けた高校の授業で、釈迦の教えに感銘を受けて以来、
自分の心の中に軸のようなものを持てるようになり、こと宗教的な事柄に関し、
ふらふらと何かに心を吸い寄せられたり、ブレたりすることはありませんでした。
今でも、あの1年にわたる倫理の授業を受けられたことに心から感謝しています。
[上記引用:2021年6月10日 NHK出版新書 P76~77、P82、P135、P138、P179 ]
[ 2021.11.17(水)日刊 ]