44冊目
「光待つ場所へ」
辻村深月
講談社ノベルズ
- 光待つ場所へ (講談社ノベルス)/講談社
- ¥945
- Amazon.co.jp
大学の課題。
抜きん出た作品として紹介されるのは、自分の絵だと確信していた。
なのに…。
清水あやめは、田辺颯也が製作した三分間のフィルムに、生まれて初めて圧倒的な敗北感を味わう。
「私は何になりたいのだろう。どこへ行きたいのだろう」
やるせない感情に襲われた彼女の耳に飛び込んだのは、底抜けに明るい田辺の声だった―。
(「しあわせのこみち」)
恥ずかしさと、息苦しさと、駆け出したくなるような衝動。
あの頃のすべてが詰まった、傑作青春小説全4編を収録。
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「しあわせのこみち」
「アスファルト」
「チハラトーコの物語」
「樹氷の街」
の4編収録の短編集です。
とはいえ、この本はハードカバーでも読んで感想 も書いてるんです。
なのになぜ買ったのか、読んだのかというと、ノベルズ版になって「アスファルト」が追加収録されたからにほかなりません。
ということで、「アスファルト」の話を。
「冷たい校舎の時は止まる」の登場人物・藤本昭彦が語り部。
あれから数年後、大学生になった彼の話です。
中学時代に取り返しのつかない過ちを犯してしまった昭彦。
否、それは昭彦だけが悪かったとは到底言えないし、昭彦ひとりが踏ん張ることで打開できた問題でもなかったのだが、昭彦はそれを己の罪として胸に刻んだ。
その結果、新たな悲劇の芽に気付くこともできた。
しかし、そんな昭彦の「人との距離感」は、新しい人間関係の中でちゃんと受容されているとは言い難くて・・・という話です。
「冷たい校舎」に登場した仲間たちのその後を描いた作品はいくつかあって、それぞれが新しい環境で新しい悩みを抱いているわけですが、今作では「偽善」というのが悩みになるのでしょうかね。
過去の出来事を慮ればさもありなんという感じなのですが、昭彦は他者の痛みに敏感で、その痛みの自分のことのように感じてしまえて。
言い方は悪いけれど、昭彦ほどつらい過去を背負っていない同級生たちは、それが偽善に見えてしまって。
自分を含めたそんな状況に嫌気がさした昭彦は、己の矜持に反するような行動をし、その行動を心地よいものと感じてしまうのですが・・・って内容をあらかた語ってしまいそうなのでこの辺でやめときますが、うん、地味でしたけど良い掌編でした。
「冷たい校舎」の登場人物はあと幾人か残っていますが、全員分書いていただけるのでしょうかねぇ。
是非とも全員分(先生を含めて)を書いていただきたいものです。