4冊目
「太陽の塔」
森見登美彦
新潮文庫
私の大学生活には華がない。
特に女性とは絶望的に縁がない。
三回生の時、水尾さんという恋人ができた。
毎日が愉快だった。
しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!
クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都を、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。
失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
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初森見作品です。
女っ気が無くて男連中とバカなことばっかりやってる大学生活、なんて言うとどこにでもありそうな感じだし、かく言う私にも同じような時代があったのだけど、これだけは言っておきたい。
こんなに変な奴等はなかなかいないよ!
少なくとも私の周囲には居なかったよ!
…失礼。つい声を荒げてしまいました。
ちゃんとこう明記しておかないと、現在進行形で酸っぱい学生生活を送っている非リア男子大学生達が、あらぬ迫害を受けてしまうのではないかと少々危惧を抱いてしまったのでね。
なんて言うのは半分くらいは冗談ですけど(もう半分は!?)、そんな危惧を抱いてしまうのも、ひとえに主人公を始めとする酸っぱい野郎共が、生き生きと描かれているからかもしれません。
こんな奴等はなかなかいない。
いくら向こう見ずな学生時代とはいえ、ここまでのことはしなかった。
そう胸中でツッコミを入れながらも、心は彼らと同じ学生時代に戻り、気づけば郷愁に近いような、なにやら懐かしくも恥ずかしい気持ちになっていました。
あと、個人的な好みになるのだけれど、彼らが結局何事も成し得ていないというストーリー展開が、とてもよかったです。
こんなに残念な彼らだからこそ、
こんなにアクティブな彼らだからこそ、
こんなに真剣な彼らだからこそ、
よくぞ何事も成し得ずに物語に幕を引いてくれた、と嬉しい気持ちになってしまいました。
だってねぇ、学生時代なんてのは、学生だったというそのこと自体に価値があるんですよ。
そこに成功だの達成だのと言った不純なものが加わると、何だか価値が薄まるような気がするんですよねぇ。
そういう意味では、決して清くも正しくもないけれど、とても理想的な青春小説だと思いました。