29冊目
「われはロボット 決定版」
アイザック・アシモフ
ハヤカワ文庫
ロボットは人間に危害を加えてはならない。人間の命令に服従しなくてはならない・・・これらロボット工学三原則には、すべてのロボットがかならず従うはずだった。
この三原則の第一条を改変した事件にロボット心理学者キャルヴィンが挑む「迷子のロボット」をはじめ、少女グローリアの最愛の友である子守り用ロボットのロビイ、ひとの心を読むロボットのハービイなど、ロボット工学三原則を創案した巨匠が描くロボット開発史。
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第一条・ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条・ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りではない。
第三条・ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
この三項が、アシモフの創案したかの有名な『ロボット工学三原則』です。
ロボット製造を一手に担うUSロボット社に長年勤め、引退を目前にしたロボット心理学者スーザン・キャルヴィン博士が、絶対的でありながら抽象的でもある「三原則」に翻弄された人間やロボットについて回顧する、という体裁をとった短編集です。
9つの短編が収められているのですが、後半になるにつれてロボットの性能が上がっていき、問題が深刻かつ複雑になっていくのが興味深いですね。
というわけで、印象に残ったものを幾つか挙げていきます。
1.「ロビイ」
子守り用の無声ロボット・ロビイは、8歳の少女・グローリアの大のお気に入り。人間の友人たちとは遊ばずに、いつも自宅の庭でロビイと遊んでいた。
しかし、ロボットに対する近隣住人たちの理解は低く、それに感化された母親のグレースはロビイを廃棄しようとするのだが・・・。
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ひとつめの話ということで、ロボットの性能としても大したことのないロビイなのだけど、妙に人間味があるのが何か複雑ですね。
この話以降に出てくる、自ら思考して発語するロボットとは違い、恐らくは眼前の人間の様子を見て、求められている的確なリアクションをしてみせるだけのロボットなんだとは思うんです。
例えば怒られたら悄気てみせる、得意気に話をしていたら興味があるように耳を傾ける、なんていう感じに。
それは、外国人と何とか意思を疎通するのに似ていて、言葉が通じないからこその人間味「らしきもの」なのかもしれませんが、だからこそ印象的というか考えさせられる話でした。
5.「うそつき」
ハービイは、原因は不明だが人の心を読むことができてしまうロボット。
その原因を探るためにハービイと言葉を交わすキャルヴィンは、その口ぶりから胸に秘めていた同僚への恋心を読まれていると気付く。
年齢や容姿を言い訳に想いを告げることを諦めていたキャルヴィンに、ハービイは「彼はあなたを愛しています」と言うのだが・・・
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「三原則」というルールを上手く使ってるなぁ、と感服。
ハービイの言葉に右往左往するキャルヴィンたち人間の様子が滑稽で喜劇仕立てな物語なのですが、でも人の心が読めるキャラクターに話を聞くことができたとしたらこうなるんだろうなぁ。
キャルヴィンが急におめかしをし始めたけどその化粧がヘタクソ、という描写とか痛々しすぎる。
ラストシーンでのハービイの「ええ!ええ!」というセリフが切ない。
8.「証拠」
USロボット社に、『市長選に出馬予定のスティーヴン・バイアリイ氏は、食事や睡眠を摂る姿を誰も見たことがない。ロボットの疑いがあるので調べてほしい』という依頼があった。
何の根拠もないデマだ、と否定するバイアリイ氏だが、X線で体内を調査することは断固として拒否して・・・。
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技術的には人間と見分けがつかないロボットが作れてしまうまでに至った世界。
そこで声高に叫ばれるのは、ロボットを政治家にすることへの拒否反応でした。
昔からSFでよくあるロボットが為政者となっている世界だと、極端に合理的で、感情がなくて、融通がきかない、なんていう設定がよくあるので、それを考えると分からなくもないな、とは思います。
しかしロボットが更に進化し、「三原則」をベースにして人間的な感情の機微までも理解できるようになるのなら、理想的な為政者となりえるのではないか。
穿ち過ぎかもしれませんが、そんな深いテーマがこの作品にはあるのかもしれません。
この本ではロボット同士が会話するシーンがほとんどないので判断しかねますが、もしロボット一体一体に個性と呼べるような性格の差異がないのであれば、世界の管理全てをロボットたちに任せ、一律に管理した方が効率がいいように思えます。
逆に個性があるのであれば、自分が良いと思う個性をもつロボットに票を投じるという行為は、人間の選挙と何ら変わりのないことになります。
この「証拠」と次の「災厄のとき」を読む限り、どうやらキャルヴィンはその境地に至っているようですが、まあなかなか普通の人間がそこにまで至るのは難しいんだろうなぁ。
他の作品も面白かったのですが、特に上記の3つが良かったです。
ドノヴァンとパウエルのも好きですけどね。
トップ3に入ってないだけで。
しかしまあ、一番古い「ロビイ」が発表されたのは70年以上前、1940年だというから驚きです。
全然色褪せてないし、最近の小説ですなんて言われても全く疑いなく読めます。
他のも読んでみようかなー。