53.「私と悪魔の100の問答」上遠野浩平 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

53冊目

「私と悪魔の100の問答 Questions & Answers of Me & Devil in 100 」

上遠野浩平

講談社




私と悪魔の100の問答 Questions & Answers of Me & Devil i.../講談社
¥1,470
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「いや吾輩は君には全然興味がないけど、世の中の正義にはもっと興味がないから」


どん底だった私に、あいつはそう言った。


親の事業が失敗して、マスコミに叩かれ、世界のすべてが敵に回っていたときに。


助けてもらう代わりに、私はそいつと契約することになった。


それは100の質問に答えろっていう意味のわからないもので―――


追い詰められた少女と、尻尾の掴めない男が出逢うときに生まれる、奇妙で不思議な対話の先に待つものは…。



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「講談社の100冊」企画で出版されたこの本。




おそらく100つながりでこういう作品になったんでしょうね。




なんていう裏話的な話は兎も角、なかなか特異な作品でした。




目次を見ると、




FIRST SESSION「何となく、嫌悪することについて」―――17P

SECOND SESSION「おおむね、威張ることについて」―――53P




なんていう、いわゆる章立てはしてあるものの、その章と章の間に、




Q 01 青空と聞いて連想することは

Q 02 自分と他人どちらを軽いと思うか

Q 03 簡単でないことはなぜ簡単でないのか




というように100個の質問がずらーっと並べられているのです。




あらすじから判断して、少女と悪魔が密室で一対一で対峙して、ひとつひとつ質問に答えていくような内容なのかと思っていたのですがそうではなく、いつもの上遠野作品同様、日常の中に突然非日常が現れ、その境目が曖昧なまま進んでいくような物語でした。




章自体は区切られていましたけど、質問は物語に沿って区切ることなく出されていて、たまに目次を見返さないとどれが質問なのか分からないくらい。




まあ、分からなくても問題は全くないですけど。




感想を言うとすれば、「上遠野さんだなぁ」というのに尽きます。




ブギーポップシリーズでもペイパーカットシリーズでもしずるさんシリーズでもいいですけど(事件シリーズはちょっと設定が特殊だから除外するとして)、上遠野作品に流れる、「常識」とか「当たり前」とか「そういうものだから」とか、そんなものに対するアンチテーゼというか疑問というか、そういうものを凝縮したような作品でした。




だからこそ、シリーズものではない今作は、若干初読の方には敷居が高いかもしれません。




とはいえ、目から鱗な箇所はいくつか見つかると思いますけど。




問いはあれども答えはない。

あるいは、答えはあれども、それが最適解かどうか分からない。

という浮遊感は、なかなか良いなと思いました。




全くのノンシリーズかと思いきや、それでもやっぱりリンクしてくる上遠野ワールドはいいなぁ、なんて思いながらレビューのようでレビューでないかもしれない文章を終えたいと思います。




最後に、プロローグにある一文を抜粋。




ここには神も悪魔もいない。

救済もなければ堕落もない。

あるのはただ百の問いだけだ。

ただ――百の答えがあるかのかどうか、残念ながらそれは保証の限りではない。