26.「東京ヴァンパイア・ファイナンス」真藤順丈 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

26冊目
「東京ヴァンパイア・ファイナンス」
真藤順丈
電撃文庫




真夜中に出没し、超低金利で高額融資をする『090金融』を営む万城小夜。
今夜も獲物=融資客を求めて蠢く。



送り狼をめざす“ひのけん”


性転換手術をしようとしている“美佐季”


振り込め詐欺グループに復讐を目論む“やえざくら会の老人たち”


ドラッグ・デザイナーを辞めたがっている“しずか”



都会のアンダーグラウンドで息する彼らは小夜に出会い、融資をうけるかわりに自身の問題に首を突っ込まれるが・・・。



債務者それぞれの衝動や欲望をフルスロットルにし、ひしめきあって無限に増殖する狂騒のハードスケジュール群像劇。




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送り狼希望の“ひのけん”は『狼男』

身体の作り替えを望む“美佐季”は『フランケンシュタインの怪物』

復讐を目論み深夜に活動する“やえざくら会の老人たち”は『ゾンビ』

既存のドラッグを配合して、より良い効き目のクスリを生み出す“しずか”は『魔女』



4つのアイコンで書き分けられた4つの物語は、万城小夜の登場とともに徐々にひとつになっていく。



と言うほど各々の物語がクロスオーバーするわけではないのですが、同時期に4つの金貸しを行って、4つの事情すべてに顔を出し口を出し手を出していく小夜はあっちに行ったりこっちに行ったりと大忙し。



そのスピード感が楽しいです。



技巧に走らず、ただただ真っ直ぐ、ひたすらスピーディーに物語が進んでいくので、読んでる方としても細かいことは気にせずにずんずんどんどんページをめくっていけました。



小夜の手助けがまた、基本的には綿密なんだけども所々荒くて、そんなドタバタな展開が物語の雰囲気とうまく調和していて、すごくいい読み心地でした。



エピローグ部分は蛇足だろう、なんて意見も見受けられましたが、やっぱりあった方がいいだろうと個人的には思いました。



著者の真藤さんと言えば、この作品を含めて4つの作品で4つの文学新人賞を受賞するという偉業を成し遂げているのですが、他の3つもいずれ読んでみたいなと思いました。