65.「魔界探偵冥王星O デッドドールのダブルD」 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

65冊目
「魔界探偵冥王星O デッドドールのダブルD」
原作・越前魔太郎
小説・舞城王太郎




【冥王星O】という使い捨ての使い走りをやっていて消耗した俺は酒に逃げてアル中になって身体がイカレてきて幻覚まで見るようになった。



これはかなりヤバい。そう思い断酒して今日で6日。吐き気も悪寒もして体調は最悪だ。
酒が飲みたい。
死ぬまで。
死んでもいい。
……、いや、やっぱり死にたくない。



そんな最悪づくしの上にアルコール性てんかんまで起こして床に倒れて白目を剥いている俺の前に雇い主の【窓をつくる男】がやってきて依頼を告げる。



「至急、吸血鬼一家の一人娘を保護してもらいたい」



至急、って俺ぶっ倒れて白目剥いてるんだぞ。
しかも【彼ら】の中でもかなり上位に位置するヴァンパイアの家に乗り込んで一人娘を拉致って来いと?



俺に死ねってことかよ。



とは言うものの依頼を拒否した時点で死は確実だ。だったらやるしかない。



【窓をつくる男】の「窓」で吸血鬼一家の屋敷に放り込まれた俺が目の当たりにしたのは、血まみれの部屋と血まみれの大量の死体。そして、その血を吸い尽くす吸血鬼の姿だった。



慌てて隣の部屋に避難すると、そこには別の吸血鬼の死体があって【人狼】の刑事たちが調査をしていた。



想像を絶する状況だが呆然としている暇などない。俺はこの化物だらけの屋敷から娘を連れ出さなければならないのだ。



とはいえ吸血鬼にしろ人狼にしろ人間が正面から戦って勝ち目のある相手ではない。
隠し持っている拳銃もこいつらには通用しないだろうし。



ならば嘘でも何でも語って騙ってすべてを誤魔化しながら行動するしかない。



生き残りを賭けて戦う【冥王星O】の長い長い夜が幕を開ける…




・・・・・・・・・・・・・・・




おおおおぉっ!
遂に真打が登場!!



えーっと、ごめんなさい。先に謝っておきます。



これまでの【冥王星O】で設定が舞城っぽいとか文体が舞城チックだとか色々言っていたのだけれど、うん、やっぱり本物は別格だわ。



何が起こるかわからない、というのを超越して常に予測と違う方向に転がる展開に魅了されっぱなしでした。



それと、やっぱり奥底に流れる『愛』というテーマ。ちょっといつもより露骨な感じはしましたが、そこは究極的に天涯孤独な【冥王星O】の一人称小説だけに仕方がないところだと思います。



それともうひとつのテーマが『以前の自分と今の自分は同じなのか』というもの。



もともと人間だったのに【彼ら】に目と鼻を奪われ【冥王星O】の助手をしている【顔のない女】や、吸血鬼に血を吸い付くされ【死体人形師】に死体人形として甦らされた人間たち、そして【冥王星O】が夢で見た『ヴァイオリンの少女』を人間に戻すという行為。



もちろん普通に人間として生きている以上ありえないシチュエーションですが、そのありえないことがいくつも存在するこの物語を貫くテーマとして何かとても良い感じに機能していました。




これで、魔界探偵冥王星Oシリーズの第一部が完結となったようです。



となると、もちろん第二部を期待してしまいますが、今のところ詳細は不明。



刮目して待ちたいと思います。