88冊目
「SOSの猿」
伊坂幸太郎
ひきこもり青年の「悪魔祓い」を頼まれた男と、一瞬にして300億円の損失を出した株誤発注事故の原因を調査する男。
そして、斉天大聖・孫悟空。
――救いの物語をつくるのは、彼ら。
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悪魔祓いの「私の話」と、株誤発注の「猿の話」が交互に描かれて、徐々にリンクしていく、というような構成の物語です。
「猿の話」での冒頭で語られる『これから語るのは、因果関係の物語だ』という言葉が、物語全体のテーマになっているように感じました。
あとは『想像力』というのもテーマのひとつになるのかな?
物語なんだからある程度予定調和がなければ話は進みも解決もしないんだけれど、その予定調和を出来るだけ少なくしている印象がありましたね。
だから実行したことが良い方向にばっかり作用したりはせずに、悪い方向に転がったり、何の影響も与えなかったりもするんですが、それでも何とかしようとする人たちが居て色々と試みることで、事態が良い方向に進むというか。
その泥臭さが何か好きでした。
そのぶん、伊坂作品特有のスタイリッシュさみたいなものは若干影を潜めてる感があるので、そのへんで評価が別れるのかもしれませんが。
あと、「猿の話」の文体が、「あるキング」と似た寓話風な語り口なので、そこに抵抗を感じる人もいるかも。
そういえばこの作品と世界観を同じくした「SARU」(五十嵐大介)というマンガがあるんですが、両方読むことによって面白さが増しますので、片方しか読んでいない人は、もう片方も読むことをおすすめします。