57.「獣の木」舞城王太郎 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

57冊目
「獣の木」
舞城王太郎




福井県西暁町にある川原家の中の縁側と裏山の間にある裏庭で、どこからかやってきたメス馬が人間の子供を産み落とした。
しかも身長138㎝体重33㎏で背中にたてがみの生えている中学生くらいの子供を。
それが僕だ。



町の診療所に連れていかれ、名前がわからないので「西暁太郎」名義で僕のカルテがつくられる。



最初はみんな僕を記憶喪失だと思っていたようだが、様子を見ているうちに僕が全くのゼロだということに気づく。
そりゃそうだ。僕は産まれたばかりなのだから。



僕は診療所でトイレを憶え箸の持ち方を習い言葉を学び、親の居ない子供たちの施設・湯引野児童園に預けられることになっていたのだけど、僕が産まれた河原家の人たちが僕を引き取るという話になる。
そして「西暁太郎」という名前は駄目だからと、僕は「河原成雄」という名前になる。どうしてわざわざ名前を変えなくてはならないのだろう。僕が僕であるのなら名前なんて関係ないのに。



僕は河原家の一員となり学校に行き始める。そこで色々と騒動を起こして、僕がまだ分かっていないルールとか常識がたくさんあることに気づく。どうやらテレビや本だけでは分からないことが多いらしい。



僕はまだまだこれからも色々と学ばなければならないことがたくさんある。周囲の大人たちが揃って僕をたしなめるような事は、きっと僕が間違っている可能性が高いし、少なくとも僕の周囲の大人たちの考えとしては間違っているのだろう。ヒトとして生きる僕は、ヒトとして正しい生き方をしなくてはならない。
僕がヒトなのかウマなのかは、僕自身もよく分からないけど。



ヒトとしての生活に少し慣れ始めてきた頃、僕は蛇に乗った少女・楡と出会う。
楡と話をすることで、家と学校とテレビと本で完結していた僕の世界が広がる。



楡は言う。
「あんたの本当の人間の親、誰かに殺されたんやで」
そして僕を両親の殺害現場へと誘う。



僕の冒険がここから始まる、のかな?
産まれたてだからよく分からないけど…




・・・・・・・・・・・・・・・




うん、あのね、説明がしにくい。
あらすじもしにくけりゃ感想も言いにくい。
話がはちゃめちゃすぎるから。



まあ要するに、産まれたらいきなり中学生で普通の人間がそれまでの間に自然と身につけていくいろんなことを何一つ身につけていない成雄の成長物語です。



自分はナニモノなのか?
なんてのは多感な十代少年少女にとっては通過儀礼みたいな常套句で、しかもほとんどの人間が「ナニモノでもない」と気づくことになるのだけど、成雄の場合は「ナニモノ」なのかの前にヒトかウマかという大きい問題があって、その上出産状況ひとつ取っても「ナニモノでもない」なんて結論が出そうにないぶん根が深い。



そんな状況の中成雄が前へ前へと突っ走ってはない悩んで学んで更にまた突っ走っていく様は、無軌道な若者を苦々しく思いながらも応援してしまうような青春小説を一段上へと昇華したような清々しさがありました。




とはいえ、これまでの舞城作品と比べると疾走感が少なかったな、とは思いました。
産まれて精々4年か5年くらいの成雄が主役だから敢えて疾走感を少な目にしてるのかもしれませんが、旧来のファンとしては巧いなぁと思いつつもちょっと不満ではありました。



今年の夏は舞城作品が四つも発売されるのであと三冊もあります。ファンとしてはとても暑い夏になりそうです。
早く読まなきゃな。
とりあえず次は「NECK」を読みます!




ぐるッポでも色々とこの作品について話してますので、興味のある方は是非参加してください。


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