51冊目
「タイムスリップ忠臣蔵」
鯨統一郎
21世紀初頭。
「イヌともっと仲良くなりたい」という欲求は、歪んだ形で結実することになる。
遺伝子操作による、イヌの能力向上である。
言語を解し言語を話し寿命すら伸ばすことに成功したイヌたちの中には、更なる能力を持つものが現れた。
それは人間を操るテレパシーを発する能力。
しかしイヌたちはその能力を人間には知らせなかった。
そして能力を持つイヌが多くを占めるようになった時、イヌは人間に反旗を翻しその争いに勝利する。
そして時は22世紀。
世界はイヌが支配し、人間は地球の支配者たるイヌの最良のパートナー「ハンド」としてイヌに仕える身分となっていた。
過去の歴史は捏造され、ある者は記憶を消され、人間たちは「過去では人間がイヌをペットとして支配していた」という事実すらも知らされず、今の立場に疑問すら持たなくなっていた。
その世界では食糧不足が深刻化しており、遂に「ヒトの食糧化」が議会で可決されるに至る。
脳内にイヌのテレパシー能力を防ぐチップを埋め込み、イヌの支配する世界に抵抗する人間達のレジスタンス組織「HIT」は時を越える船・タイムシップを作り、歴史を変えようと画策する。
向かうはイヌを遺伝子操作し始めた時代、ではなく1702年。
時の将軍・徳川綱吉が発した「生類憐れみの令」。
推進派の吉良上野介が『天寿を全うした』ことで400年以上続いたこの悪法が全ての元凶であり、イヌの遺伝子操作もイヌを崇め奉っていたが故の所業だというのだ。
そのため「HIT」の隊員達は、赤穂浪士に仇討ちをさせるため、タイムシップに乗り込む。
しかし戦闘に特化されたイヌたちが続々とその後を追っていた・・・
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タイムスリップシリーズの…、えーっと6作目かな、多分。
これまでのタイムスリップシリーズでは、過去の偉人が現代にやってきた「タイムスリップ森鴎外」「タイムスリップ水戸黄門」と、主役である女子高生・うらら達が過去に行く「タイムスリップ明治維新」「タイムスリップ釈迦如来」「タイムスリップ戦国時代」という2パターンだったので、こういうタイムスリップする「前」の世界がパラレルワールド設定ってのはちょっとびっくりしてしまいました。
相変わらず凄い設定。
その設定だけでも充分引っ張っていけるのに(実際ぐいぐいのめり込みました)、脱力必至の小ボケをちょいちょい挟んでくるのが鯨クオリティー。流石です。
あと気付いたからどうということはないのだけれど、登場してくるイヌの名前もある意味ネタだよなぁ。
しかも意外と(失礼)忠臣蔵に忠実に作られていたんじゃないかと思います。「第何段」とかついてたし。
ま、読んでるこちらが詳細を知らないのでなんとも言えませんが「仮名手本忠臣蔵」か何かをベースにして書いてあるんだろうと思います。
もうぼちぼちマンネリ化してきたな、と思ってた矢先のこの作品。
おみそれしました。
ただ、ひとつ言わせてもらうとするならば、ストーリーにまでユルい小ボケが絶妙に絡みあったシリーズ史上私的最高傑作の「タイムスリップ釈迦如来」はこんなもんじゃなかった。
あの作品を超えるようなものを再び、お願いします。
そう祈りながら新作を待ちたいと思います。