46冊目
「追想五断章」
米澤穂信
叔父の経営する古書店に住み込みで働いているアルバイト・菅生芳光が店番をしていると、古書店に似つかわしくない女性が入店してきた。
北里可南子と名乗ったその女性は、昨日古書店で買い取った大量の個人蔵書の中から、とある同人小説誌を見つけて欲しいと依頼する。
労せずして同人小説誌を見つけることが出来た芳光に、可南子は更なる依頼をする。
今回の同人小説誌に入っているものを含め、少なくとも五編はあるはずである父の小説を探してほしい、というのだ。
高額な報酬に目が眩んだ芳光は、叔父には内緒でこの依頼を受けて、独自に動き出すのだが・・・
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これはかなり面白い。
緻密で淡々とした文体が、次のページ、また次のページへと手を進ませる腕は流石です。
オチは途中である程度は見えてきます。
でもそんなことで興が削がれたりはしません。
むしろ先が読めるからこそ、哀しい結末が透けて見えてしまうからこそ、『出来ることなら予想通りであってほしくない』という僅かな願いが先へ先へと進む原動力になるようでした。
中盤明らかになってくる可南子の父の波乱に満ちた生涯。
かたや、家庭の事情で休学中とは言え、只の大学生である芳光。
小説の行方を探す過程で、芳光は可南子の父の波乱に満ちた人生を知り、羨望や嫉妬に似た複雑な感情に囚われます。
それは読者のほとんんどが感じることでもあると思います。
平凡であり普通であることは、本来は立派で貴重なことです。
けれども平凡であるが故に、どうしようもなく波乱に満ちた人生というものに憧れを抱いてしまうのは、平凡人としての哀しい宿命です。
そんな芳光に共感できるかどうかが、この作品を評価できるかどうかに繋がっていくような気がします。
平凡な人生を送っている方。
そんな人生に嫌気がさしている方。
けれども平凡な人生を捨てるほどのエネルギーが自分にはないと諦めている方。
そんな方には胸に刺さり、痛くも心地良い作品になるかもしれません。
年末のランキング企画で上位にランクインしていることが、圧倒的多数である平凡人による支持を得られた結果なのではないかと思いますね。