4.「南極(人)」
京極夏彦
売れないハードボイルド作家・赤垣廉太郎は何かと言えば面倒なことにまきこまれてしまう。
心霊写真に未確認生物、涙を流す仏像に除霊をするウニ。
そんな胡散臭いものを取材されに行くのだから騒動に巻き込まれないはずはない。
しかし、昔ホラー雑誌に記事を書いていたという過去を編集者・椎塚有美子に知られているため「あんたにピッタリじゃない」なんて言われてしまい、断ることができない。
そして騒動の末結局は、あの男がすべてかっさらってしまうのである。
男の名は南極夏彦。
「まだらの肉塊に黒い縦筋が十数本。その不気味な肉質が蛇腹のように縮んで、にゅう、と眉毛が八の字になった。南極夏彦五十六歳。通称簾禿げ。頭頂部が額にかけて、完全にすっかりつるりと禿げ上がっているのに、後頭部に僅かに残存する毛髪を伸ばして前に回し、前髪に見せかけるべく垂らしている。というより貼りつけている。もちろん額を覆い隠す程の量はないから、それは幾筋かに振り分けられ、結果黒い縦筋となる。見苦しい。簾禿げと異名をとる所以である」(原文ママ)
南極が「わ・し」といって出て来るその時、演者も読者も脱力感に見舞われる。
これぞ京極夏彦が作り出した「ギャグ小説」だ・・・
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収録作品(掲載順)
「海で乾いていろ!」
「宍道湖鮫」
「夜尿中」
「ぬらりひょんの褌」
「ガスノート」
「探偵がリレーを・・・・・・」
「毒マッスル海胆ばーさん用米糠盗る」
「巷説ギャグ物語」
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以前に出版された短編集「どすこい」内の「すべてがデブになる」をスピンオフした南極探検隊シリーズ、とWikipediaあたりにはかいてあるものの、読んだのはだいぶ前だから覚えてない(汗)
たまたま以前(「どすこい」よりかはだいぶ最近)出版された「こちら葛飾区亀有公園前派出所トリビュート短編集」で「ぬらりひょんの褌」を読んでたから南極夏彦という簾禿げのおっさんのことは覚えてたけど、それがなかったら絶対覚えてなかった。
そもそも「どすこい」で覚えているのは、
『頭捻りです』
という一文くらいしかないんですが。
とはいえ、「どすこい」を読んでなくても十分楽しめる内容です。
多いに笑える、かどうかは人によるかとは思いますがメタでギャグな設定が好きな方には堪らないと思います。
逆に、「百鬼夜行」シリーズや「百物語」シリーズが大好き、という人の中にも無理な人は多数居そう。
一編立ち読みするのはちょっと大変だとしても、少なくとも何ページか読んでみて、自分に合う合わないを判断したほうがいいと思います。
「海で乾いていろ!」と「巷説ギャグ物語」が好きでした。