77冊目
「極北クレイマー」
海堂尊
北海道・極北大学の外科医今中は、教授の不興を買い、道内の田舎町である極北市にある極北市民病院へと非常勤扱いで出向させられてしまう。
これまで働いていた大学病院と比べ、新天地はあまりにもひどい状況だった。
人手も足りなければあるべきはずの薬も無い。文句を言えば帰ってくるのは資金不足だという答えばかり。
人材的な面でも、何かといえばいがみ合う院長と事務長、怠慢で横柄な研修医、指摘をしてもこれまでの作業手順を変えようとしない師長を始めとする看護師たちと、強烈な個性がひしめきあい、しかも院長と市長の間にも何やら確執がありそうでげんなりする今中。
伏魔殿であるこの市民病院で唯一、病院の良心と言えるのが産科医の三枝だった。
昼休みや深夜の急患にも進んで対応し、もちろん本職の産科でも患者からの信頼が厚い三枝を見て、出来ることから徐々に改善していこうと決意する今中。
そんな中、新任皮膚科医としてやってきたのが桃色眼鏡のデカ女・姫宮だった。
どこかが致命的にズレているのに反論できず、しかも従っていると何やら事態が良い方向に転がってしまう姫宮の言動で、市民病院は急速に改善されていくのだが、彼女が派遣されてきたのには別の理由があった。
院内に医療事故調査委員会を設立し、今後の事態に対応すること。そう要望した姫宮。しかも医療過誤死として訴えられると予測されている事案は、三枝の執刀した帝王切開手術だった…。
…………………………
元々海堂さんの書く医療テーマは、現代の日本が抱えている問題をそのまま切り取っているのですが、今作は、
・自治体の財政難のあおりを受け、経営が成り立たない市民病院。
・ミスを犯していない手術で刑事罰を受けかねない産科医。
という実際に最近起こった出来事がメインにあるので、少々不安になってしまいます。
最後らへんはドタバタといろんなことが起きますが、途中までは比較的地味な出来事しか起こらないのに、病院内外のアクの強い登場人物たちによって飽きずに読むことができました。
田口・速水・清川・斑鳩と、これまでの小説で出てきている人たちの名前がちょいちょい出てくるのも「桜宮サーガ」の魅力ですね。
今後、どう展開していくのかとても楽しみになりました。
ただ、最後の最後に出てきた人物が、他の作品でも出てきた人なんですが、いつの間にそんな肩書きの人になったんだろう?しかもだいぶキャラも変わってたし…。
またどこかで語られるのかもしれません。楽しみが増えますねー。