70冊目
「御手洗潔対シャーロック・ホームズ」
柄刀一
五作からなる連作短編集。
御手洗二作。ホームズ二作。そして御手洗・ホームズ夢の競演が見られるラスト一作、という構成です。
「青の広間の御手洗」
『龍臥亭事件』から五年。馬車道の自宅近くで、石岡和己は御手洗潔と再会する。
突然帰ってきた御手洗は、在籍していたストックホルム大学の研究チームが受賞するノーベル賞受賞式に受賞者として出席してほしいと誘われていた。
受賞者としての参加は固辞した御手洗だったが、受賞式の参加には積極的な様子。
何か企みがあるようだが…。
「シリウスの雫」
『暗闇坂』の事件が縁となり、イギリスへと赴いた御手洗と石岡。
重力が逆転しないと使えない天地が逆転した階段がついている巨石遺跡で、近所に住む老人が頭を下にして胡座をかいたような姿勢で死んでいるのが発見された。
遺跡の近くで酔いつぶれた上、道端にある石で頭を打って気絶していた石岡は容疑者として地元警察に連行されそうになるのだが…。
「緋色の紛糾」
時は現代、舞台は日本。
二子玉川221番地Bに住むホームズとワトスンのもとには今日も依頼人がやってくる。
研究所の所長が密室で射殺されていた。自殺の疑いが出るほどの至近距離からの銃撃だったが、現場に凶器はない。
部屋の鍵を持っていたのは、研究員の玉川と王。
しかも現場には玉とも王とも読める血文字がのこされていて…。
「ボヘミアンの秋分」
友好国の王族筋の女性との再婚を間近に控えた駐日スペイン大使・ベガから依頼が入った。
愛鈴・アドラーという昔交際していた女性から、当時の手紙や写真をネタに恐喝まがいのことを行われているというのだ。
花嫁の一族はたいへん厳格で、過去の事とは言え愛鈴のような身分の低い女性との交際が発覚すれば、場合によっては国家間規模で関係に亀裂が走るかもしれない、と懇願するベガのため愛鈴の邸宅に潜入して(もちろん変装です)、手紙や写真のありかを探し始めるホームズ。
しかしそこで殺人事件が起き、しかも愛鈴は書き置きを残して姿を消してしまい…。
「巨人幻想」
日本で解決した事件の縁で、ニューライル大学学長、アンバー・シュプレンドール氏宅へ招待されたホームズとワトスンは、故郷イングランドへの帰郷を果たしていた。
そんな中、シュプレンドール氏の孫息子が誘拐された。
脅迫状の内容や、警察への通報を渋るシュプレンドール氏の態度に、誘拐犯達の中に身内の者が居ると推理したホームズは、同居している氏の弟・マニングを疑う。
シュプレンドール家で次なる犯人からの要求を待っている矢先、二メートルはある巨人の顔が突然、部屋の窓いっぱいに出現した。
しかも黒々とした虚ろな眼窩が白く光り、部屋の中を覗いているように見えたため、シュプレンドール家の人々やワトスンは大混乱に陥る。
一方その頃、同じ町のホルバイン家に逗留していた御手洗と石岡だったが、家の外からずしん、ずしんと巨人が歩いているような地響きが聞こえたかと思うと、庭の樹木が踏み潰されたように折れ始めた。
家をかすめるように通り過ぎていった地響きの後、怖じ気づくホルバイン夫妻や石岡を尻目に外へ出ていく御手洗。
庭の樹木は上方からの強い力に耐えきれなくなったような折れ方をしていて、折れた樹木の跡は、まるで巨人が歩いていったように一直線に進んでいた。
巨人(?)の進んだ方へと追跡を始めた御手洗たちだったが、その先にはシュプレンドール家の屋敷があった。
御手洗とホームズが夢のタッグを組んで、巨人騒動と誘拐事件の真相を暴く…。
…………………………
はじめの二編を読んだ感想は、
「うわぁ、御手洗だ!」
でした。
まるで島田荘司さんが書いたような御手洗。
ホームズの方は、遥か昔にちょろっと読んだだけ(しかも短編しか読んだことないし…)の上、なまじいろんなパロディーを知ってるせいであんまりピンと来なかったのですが、まあ、普通のホームズだな、という印象。
ちょっとワトスンがアホっぽ過ぎる気もしますが、こんなもんなのかな?
御手洗側は犬坊里美の名前が出てきたり、脳の蘊蓄を御手洗が語りまくったり、御手洗がギター引いたり、石岡君はあいかわらずおずおずしてたり。
ホームズ側は結構見逃してそうだけども、分かるものだけでも、ホームズとワトスンの出会いのシーンが「ワトスンさん、あなた湾岸戦争に従軍してましたね」というエピソードだったり(現代のホームズとワトスンですからね)、階段を昇ってくる足音だけでホームズが年齢や体格や性格を当てたり、日本の格闘技・バリツで犯人を取り押さえたりとサービス満点。
「巨人幻想」の真相は、本家の御手洗シリーズを彷彿とさせる大仕掛けかつ緻密なもので、かなり満足しました。
しかも巻末には、石岡とワトスンが書簡のやり取りをして、それが段々相方自慢と相手への悪口大会になっていく「石岡和己対ジョン・H・ワトスン」を島田荘司さんが寄稿。
かなり盛りだくさんの一冊でした。