53.「まほろ市の殺人」 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

53冊目
「まほろ市の殺人」
倉知淳・我孫子武丸・麻耶雄嵩・有栖川有栖(掲載順)



「真幌(まほろ)市」という架空の街を舞台に起こる春夏秋冬の事件を、こんな豪華なメンバーによって編んだ連作短編集。



「まほろ市」ってのは以前にも使われてるテーマ・シティみたいですね。
全然知りませんでしたが…。



他の作品ともちょろっとリンクしてて楽しいです。




春・「無節操な死人」
倉知淳



昨夜から女四人で朝までカラオケに行っていた美波に、昨日のカラオケメンバーのカノコから電話が掛かってきた。



家に帰ったらベランダに男がぶら下がっていて、恐怖のあまり棒で突き落としてしまったのだという。



カノコの部屋は七階、落ちればただでは済まないが、そんな形跡はまったくない。



一応警察にも相談したが、何しろ事件の形跡が何もないのだから対処しようがない。



「身辺に気をつけてください」とだけ言い残した警察だったが、翌日になって捜査一課の刑事や鑑識班まで引き連れて綿密に捜査し始めた。
警察は何を掴んだのか…。


・・・・・



倉知さんの短編らしく、推論で終わらせるゆる本格。


犯人のおかしな行動についても、「状況さえ整っていたら自分でもやるかもしれん」とちょっとでも思わせられたら作者の勝ちだわね。



夏・「夏に散る花」
我孫子武丸



デビュー作が文芸賞にノミネートされたものの酷評され、次回作の目処も立たない作家・君村のもとに四方田みずきという十九歳の女性からファンレターが届く。



何度かメールのやりとりをした後、直接会うことになったのだが、やって来たのは十九歳の姉と小学生くらいに見える妹の二人。



警戒されているのかとしょげる君村だが、話は盛り上がり、笑顔での別れとなった。



しかし、また会いたいとメールを送った君村への返答は、明らかな拒絶だった。


友人の小山田に尻を叩かれ、みずきの真意を確かめるため四方田家を訪れようとしていた君村と小山田は、近くの駐在さんにみずきにはさつきという双子の姉と、つばきという歳の離れた妹がいると聞かされる。



駐在所を出た後、偶然道端で再開をはたした君村だったが、当の彼女は、以前会った後に送ったメールについて曖昧な返答しかしなかった。



しかし、直接携帯番号を教えてもらい、ふたりは交際を始める。



順調に交際が進んでいたある日、小山田が海辺で死体となって発見されたと警察から知らされ、呆然とする君村。



しかも、小山田の部屋には「みずき」や「さつき」と書いたメモが散乱していたという。



小山田と彼女達にどんな関わりが関わりがあるというのか…



・・・・・



おー、おもしろーい。
古き良き、新本格全盛期の香り漂う展開にドキドキ。


そして、ページを戻り伏線確認。
ミステリの醍醐味ですな。


我孫子作品久しぶりだったけど、大満足です。



しかしこの話、あらすじを三人称で書くのに非常に気を遣う…。一応、アンフェアにはなってない筈だけども…。
既読のかたは、この苦労を少しでも分かってくれたらと思います(笑)



秋・「闇雲A子と憂鬱刑事」
麻耶雄嵩



捜査一課の刑事・天城憂は非番の日に偶然、売れっ子ミステリ作家で現実に事件を解決もしている闇雲A子と出会い、一悶着を起こす。



その後、A子は巷を騒がせている「真幌キラー」という連続通り魔殺人犯の捜査協力を警察に申し出て、協力者に天城を指名してきた。



「真幌キラー」には殺害した死体の耳を焼き、死体の右横に戌や丑の置物・木材・山や谷のジオラマ模型などをひとつ置いておく、という不思議な犯行手口があり、その目的や意味の解釈を知ることが不可欠だという方針のもと、A子は様々な推理をする。



しかし犯人逮捕には結び付かず、殺人は続く。



そして天城は、賭けともいうべき作戦を提案する…。


・・・・・



麻耶イズム全開。
謎解きの切れ味は作中随一です。



しかもオチがまたすごい。見立て殺人だってのは見るからに分かるのだけど、こんなに「見立てる理由」が(偽装以外で)しっかり書かれたミステリってなかなかないんじゃなかろうか。


突っ込みどころとして、瞳と鼻と口が大きい美人というA子の造形を称して『若かりし京唄子のごとき美女』と表現したのは、麻耶さんの経歴(40歳・三重出身・大学は京都)ならではだなと、くすりときました。


冬・「蜃気楼に手を振る」
有栖川有栖



山岡満彦は、同年同月同日生まれの兄・史彰と食事をした帰りに、バイクの転倒事故に遭遇する。



すぐに救急車を呼ぼうとした満彦だったが、事故を起こした男は首の骨が折れておりどう見ても助からない。



バイクのそばに三千万円もの現金が入った鞄を見つけた満彦は、助手席の史彰が眠っているのをいいことに、通報もせず鞄を持ち逃げしてしまう。



しかし帰宅後、鞄の持ち逃げに気付いていた史彰から詰問され、口論の末満彦は史彰を殺してしまう。



死体は誰にも見つからずに森に埋めることができ、三千万円の使途を思案する満彦だったが、思いもかけない不運に見舞われる。



空き巣を警戒して金を保管していた駅前のコインロッカーが、爆弾魔の犯行予告のため警察に捜査され、現金が見つかってしまったのだ。



札束に残っていた史彰の指紋から警察は満彦へも事情聴取に来たが、満彦は知らぬ存ぜぬで通した。



しかし、その後暫くして満彦は街中で史彰そっくりな男の姿を見掛けて戦慄する。しかも電話ボックスを殴るなどの奇行を行っているにも関わらず、周りの人たちはまるで何も見えないかのように振る舞っている。



史彰はこの手で殺したのだから他人の空似に決まっている。周りの人たちには見えていないとなるとあれは史彰の幽霊か?そんな馬鹿な話があってたまるか!と自分に言い聞かせる満彦だったが、それからというもの何度も同じ男を目撃し、次第に冷静さを失っていく。



そして満彦は、あることを決意する…



・・・・・



そうきたか(笑)、という感想。
結構無理矢理なきらいもあるけど、伏線はきっちりと張ってあるしフェアではあるかな。



ちょいちょい出てくる蜃気楼の話が幻想的でいいです。



それにしても満彦の不運さには同情してしまう。
窃盗犯で殺人犯なのに何か応援したくなってしまった(笑)