27.「この世でいちばん大事な『カネ』の話」西原理恵子 | 町に出ず、書を読もう。

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物語がないと生きていけない。社会生活不適合者街道まっしぐら人間の自己満足読書日記です。

27冊目
「この世でいちばん大事な『カネ』の話」
西原理恵子



これから大人になる少年少女へ向けて様々な作家さんが工夫を凝らして書いている理論社「よりみちパン!セ」の中の一冊。



あんまり詳しくは知らないけれど、多分中学生あたりを読者層にしてるんだと思います。



そんな中で、マジメにいきたいなら法律とか職業とかそのあたりをテーマにするのが無難。ちょっとアウトロー系だと、酒タバコとか性的な話とかそのあたりが、自分の中学時代とか考えると「秘された情報」なのでいいんじやないかな、と思う。



そんな中、もちろん一筋縄ではいかないサイバラさんのテーマは「カネ」。



骨太です。ストレートはストレートでも、重い豪速球です。中学生にカネの話しろなんて言われても、普通できんよ。
世界トップクラスの金持ちのおもしろエピソード(ワイドショーとかが好きそうなやつ)を披露して、子供心になにひとつ残さず無難に締めるか、卑近でリアルな話をして嫌な印象を残して終わるか、その辺が関の山になりそう。



さて中身。タイトルだけ見るとどこの守銭奴かとおもいますが、内容はそんな話じゃありません。



生まれ育った貧しい田舎での暮らしを通じて、「カネがないというのはどういうことか」を。



義父の死後、なけなしの百万円を母から渡され上京し、予備校生・美大生を経て漫画家になるまでの話では、「自分でカネを稼ぐということ、そしてやりたいことと食うため稼ぐことを両立させるということ」を。


夫婦で途上国へ取材に行った話では、「地球で一番貧しい人たちの暮らしと、彼らがそこから抜け出すために必要なこと」を。



他にも色々あるけど一貫しているのは、カネをカネとして、何の奇もてらいもなく見ることが大切だということ。



カネが人生で、カネのために生きて、楽して儲けたいとか、結婚するなら高収入の人がいいとか、そんな風にカネを高く見ない。



かといって、カネの話をするなんて品がないとか、カネで買えるのは本当の幸せじゃない、なんて言ってカネを低く見るのも間違っている。



要はバランス感覚を持つこと。
それも、他人から聞いたり指示されりしたものじゃなくて、自分で経験して、自分の心とも折り合いをつけて、その上で決めたバランス感覚を大事に持つことが大切だってことなんだと思います。
非常に乱暴な解釈ですが…。



三十路も目前になって読んだこの本だけれども、もしできることなら、今の半分くらいの年齢の時に読んでおきたかったな、と思いました。
もしその頃に読むことが出来ていたなら、今とは違う自分になれているかもしれないし。なんて後ろ向きなこと言ってるようじゃ、この本を読んだ意味がないんだろうけど。



ヤングアダルト向けだからといってあなどるなかれ。大人にとってもとても含蓄のあるいい本でした。



最後に蛇足にはなるけど、この本にあった故郷での暮らしや上京してマンガで食べていけるようになるまでの話は、「女の子ものがたり」「上京ものがたり」などで語られているエピソードもあり、西原理恵子ファンとしては、知っている話が多かったです。
でもそれは、マンガの中の「私」が体験したことだと(体験談と分かっていても)ついつい思ってしまいます。
けれどこの本では、そういう作品としてのフィルターを取り払って100%の体験談として語っていることが、読者(ようするにこれから社会に出るこどもたち)に対する真摯さや誠意なんだろうな。やっぱりこのひとはすごいなー、と心から思いました。