(44)「今の人間が悪化している原因」
アナウンサー:先生、今朝は「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、最近の世の中を見てみますと、必ずしもそうとは言えないようなんですが、これについてお伺いしたいんですが。
総裁: それはですな、明治中期ごろぐらいまでは、衣食がだいたい中心になっていた。だから、徳川幕府なんかは、食べ物を中心にして、金よりも持っていたのであります。
金にすると、金の価値が多くなったり少なくなったりする。徳川家康というのはなかなかよく考えておれれたから、人間はまず食べることを先にして、祿高と言って、米荷を武士の権威を決めておられた。
だからその当時は、衣食が足ればだいたい人間の生きる上の安定が得られた。ところが今は、社会組織が変わってしまっている。その徳川時代には「人物」が中心になって、人物に対する祿高を米を計っておって、今はなんですよ、社会が人物中心でなくて「経済」が中心になり「物」中心になって、そうして「人」は従(じゅう)になってしまっております。
それで、いかに食べ物や着るもの、衣食が足っておっても、価値の標準が「物」になっているから、それで人間の軌道を外(はず)れてしまっている。
だから、大きな今の社会の矛盾はそこにあります。人間の社会は、人間を中心にした社会組織になっていかなかったら、いかに倫理道徳を説いてみても、成り立たないんです。
大きな間違いは、人を中心にせずして物を中心にしていることです。そこに人間が悪化している。だから、却(かえ)って未開なところの方の人間が純朴ですよ。質素な生活をしておる。田舎に行くほど、支那でも蒙古でも、田舎に行くほど純朴で、都会の栄耀栄華(えいようえいが)して満ち足り余っているところの者ほど悪化しているのは、重点を間違えているからです。そこに人間の素質が悪化した原因があるのです。
アナウンサー:大塚寛一先生、今日も貴重なお話、誠にありがとうございました‼️