一枚のコピー
九州厚生年金病院小児科の土岐真司先生から、
一枚のコピーをいただいた。
「役に立つかどうか分りませんが、こんなものがあったので……。
しかし、これがどの書物の一ページなのかは分らないのです」
と言って手渡されたものは、
【ワクチンによる急性散在性脳脊髄炎(多発性硬化症)は起こりうるか】
内容は、五実の発病とワクチンが無関係ではないことを思わせた。
私は、このコピーを持って、
すぐ小倉市立病院の同じ敷地内にある医学図書館に向かった。
図書館の中は薄暗く少しカビ臭かったのを覚えている。
私の背丈より高く積まれた本の間を一回りしたが、
土岐先生にもらった一枚のコピーがどの本の一部か、
医学の知識のない私には、探そうにも検討がつかない。
そんな私の様子に、図書館の人が声をかけてくれた。
コピーを差出し、どの本の一部か調べていると言うと、
コピーを見ながら自分にも分らないので、
図書館にこられる先生に聞いてあげようと言った。
数日が過ぎて、図書館から探していた本が分ったと電話が入ったので、
私は仕事を中断して駆けつけた。
係りは付箋のついた本を出して、
「この本だそうです」
私は手渡された本の中ほどに、
コピーの原文が載っているのを確かめると、
嬉しくて思わず本を抱きしめてしまった。
「助かりました。ありがとうございました」と頭を下げると、
表紙と最後のページの著者名、
発行所などをコピーして図書館を後にした。