島村ギルガメッシュと雑種の物語

島村ギルガメッシュと雑種の物語

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ここと同じ人。fateに感化され、ブログのリンクシステムを使って疑似fate作ってみる

1日目

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 痛みをこらえ、うっすらと右目を開けて様子を見てみる。

 地面に仁王立ちしている島村ギルガメッシュのスカートがなびいている。彼女の右手には鍵のような、しかし鍵にしては大きすぎて異様な、金色をしていること以外何だかよくわからない、太さに対して短い棒が握られていた。

 彼女の制服のなびき方や周辺の木々の揺れ方から察するに、この耐えがたい強風は恐らくあの棒から吹いているものだろう。いや、察する必要なんかない。理由はわからないが、あの棒を見ているだけで畏敬の念が勝手に感じられる。ただの金の棒じゃないかと言い聞かせてみても、やはり敬いや恐怖は拭えず、次第にあの棒を拝謁させていただいているという念すら沸き上がってくる。何だあれは。


 彼女がその棒を持つ右手を下ろした。

 それに伴い強風もさっきまでのことが嘘みたいにぴたっと止んだ。

 戦車と死んだ魚の目の男もすっかり姿を消していた。


「?」

 先ほどまで威風堂々と仁王立ちしていた彼女が途端にしゅんとした雰囲気をかもし出している。

 彼女は疑問の目を短いままの棒に向けた。


「何故だ、何故エア、その姿を現さぬ。なぜ真名の呼び声に応えぬ」

 ぼそりと呟かれる文句。

 それっきり時間が止まったのかと錯覚するほど無音の時間が流れる。






 刹那、


 それはね、その鍵がこの世界をこじ開けられなくなったからだよ。


 おおおおお? 何だ今の声。どっから聞こえた。正直に申すと私の脳みその真ん中から聞こえた気がするぞ。更に申すと戦車が跳ねたり島村さんが変な棒出したりした直後にこんなことされてももうツッコミが追いつかないよ。

「誰だ。姿を隠して王に忠告するなど不敬であろう」

 島村さんも声の主がわからないのか周囲をキョロキョロ見渡している。

 そしてまたしても脳内からの声が、


 私はサーヴァント、キャスター。カプ・テテフ。戦車長ノンナを代わりに倒して欲しいと望むもの。


「ほう、その短い文量でとてつもない情報量だな。愉快だ。疾く続きを述べよキャスター」


 ……。アーチャーのサーヴァント、ギルガメッシュ。あなたはもう英霊ではない。なぜならこの世からギルガメシュ叙事詩が消えたから。そしてアーサー王伝説も無い。ハサンという暗殺者も語られていない。ジャンヌ・ダルクを含む魔女裁判の歴史も無い。フィアナ騎士団が語られていなければケルト神話さえ無い。征服王の武勇伝も無い。

 でも、私には歴史がある。アローラの守り神として異世界からの侵略を防ぎ、ファッキンアローの暴走を止め……、いえ、これはファッキンアローの自滅です。ともかく、私は人類を守ったという歴史がある。しかしあなたは背景が何もなくなった。言うなれば、あなたは体内に魔力を有するただの人間です。あなたという背景の残骸だけがあなたの中に遺っている。

 対して、あの戦車長も私と同様歴史をもつ。ソ連重戦車IS-2を駆りカチューシャという人類の希望を守護したノンナ。


 今なんかかなり偏向的な説明がなかったか。

 おっと、ちなみに、これは私、プロデューサーの心の声だ。わざと紛らわしくしている。


 ノンナは衛宮切嗣の魔力供給によって格段に強化されたIS-2で、衛宮切嗣と同様に魔術師殺しを仕掛けてくる。そして私、カプ・テテフは魔術師の英霊、キャスターのサーヴァント。いつ、どこから一撃必殺の弾丸が飛んでくるともわからない。だからただの人間に堕ちたアーチャーを手助けするという名分の元、ライダーの撃破を手助けしてほしい。

 そうさせるためにライダーとそのマスターの脅威が身に染みるよう、今まで無視しておいて今あなたに声をかけた。


 カプ・テテフと名乗るものの声がここで終わる。返答を待つという意味だろうか。

「……、つまらぬ。疾く失せよ」

 彼女の返答は、ひたすらに味気なかった。

 流石のカプ・テテフもこのような返答は想定外だったのか、続く返事がしばらく来なかった。


 ……、……。……。そう。わかりました。あなたは私と対等、もしくはそれ以下の関係に持ち込まれるのに嫌悪感を感じたのですね。ではそのつまらない義理を通してそのつまらない義理に殺されてください。さようなら。


 嫌み100%の声色を脳内に響かせてカプ・テテフの脳内語りかけは終了した。どう考えても怒らせちゃいけないようなのを怒らせちゃったでしょ。

 いや、まぁ、それにしても、

 果たして何からツッコむべきなのだろうか。

 私がIS-2の榴弾に楕円形にえぐられた地面を覗くと、その楕円形の地面も私の目を覗いてこう語りかけるのだ。

「どう足掻こうとこれが現実だ。これが島村ギルガメッシュが持ち込んだ回避できない問題だ」

 と。

 頬をつねると痛かった。