令和六年七月場所も無事に千秋楽を迎えた。

同時に愛知県体育館(ドルフィンズアリーナ)での七月場所も今場所限りで終焉を迎えた。

1965年以来59回にわたり、七月場所の会場として務めてきたのである。

本来は今回が60回目だがコロナ禍で一度だけ七月場所を両国開催した経緯がある。

その時の幕内最高優勝を決めたのが、当時序二段から復帰中だった幕尻の照ノ富士だ。

照ノ富士にとっては名古屋の地で初めての優勝であったし、

しかも10回目のアニバーサリーな優勝となった。

最後の愛知県体育館で横綱がきっちりと締めてくれた気がする。

 

それにしても相変わらず大相撲人気は高く、七月場所で即日完売は本当に異常なほどだ。

地方場所はそれほどチケットが売れないのが普通であったのにも関わらずにだ。

来年には新しいIGアリーナが完成し、このこけら落とし公演が大相撲七月場所となる

ので、そこでもこけら落とし公演ということも加味してチケットは完売するのではないか

と筆者は見ている。

 

■横綱の責任感

さて、今場所は横綱の強さが光った場所となった。

十一日目に大の里に敗れるまで一人10連勝と白星を重ね、筆者も安定した巧さの

横綱相撲を見て、早くも中日には(今場所の優勝は横綱だな…)と確信していた。

十一日目に黒星を喫したものの、翌日、翌々日と白星を重ねて依然有利なのは

間違いないところだなと思っていたが、事態はどう変わるか本当にわからないものだ。

十四日目に隆の勝に寄り切られ、千秋楽の結びでは大関・琴櫻に上手出し投げで

敗れてついに追う隆の勝と並び、優勝決定戦までもつれ込む展開となったのだ。

てっきり結びの一番をきっちり決めて気持ちの良い優勝になると思っていたが…。

ここまでを見て横綱の膝が限界、それこそ土俵際ギリギリの状態だったかと思う。

後半、下半身の重さが感じられず、ひょっとしたら隆の勝の逆転優勝という

劇的な幕切れもあるのではないか?とも思わせてくれた。

ファンにとっては最後に面白い展開になったなと…。

しかし、やはりそこは横綱の責任感だろう。

照ノ富士の横綱としての責任感が最後に見られたと思う。

そこはやはり横綱なのだ。

言葉では説明できない何かなのだ。

表彰式の時もずっと立っているのがツライのかしきりに膝を気にする横綱の姿があった。

あれこそ限界を超えて戦った証ではないかと思うのである。

 

■実力を充分に発揮した隆の勝

優勝決定戦を戦った隆の勝も今場所は実に強かった。

もともと関脇経験のある実力のある力士。

あの元祖オニギリくんの笑顔に騙されて(?)はいけない。

優勝決定戦後に花道を去る際に見せた悔しい顔が印象的

だったが、本当によく頑張ったと思う。

横綱を追い詰めてあわや!?と思わせてくれた。

自身三度目となる敢闘賞も受賞した。殊勲賞も条件付きで

なく、あげれば良かったのにな…。

十四日目の横綱戦本割では、完璧な相撲を見せてくれたのではないだろうか。

鋭い立ち合いの当たりのあとは、ほぼ電車道のように一気に横綱をもっていった。

とにかく出足の鋭さが光る相撲だったのだ。

この相撲は金星となったが本来は金星を取る力士ではない。

三役以上で取っているのが本来だと思っている。

(三役以上は横綱に勝っても金星ではない)

それにしても座布団を投げるのは本当に危険なのでやめましょうね。

(※上の写真は隆の勝の頭部に座布団が直撃したシーン)

隆の勝も膝に故障は抱えていると思うが、同部屋の大関・貴景勝が励みになって

いたようだ。(大関があんな満身創痍で戦っているのに膝が痛いなんて言えない…)

という感じだろうか。

 

■貴景勝の真摯な姿勢

その貴景勝だが、首に爆弾を抱えて15日間を取り切ったのは賞賛に値すると思うし、

もうカラダは力尽きていただろうに、気力は十分だった。

結果は大関として決して満足のいく結果ではないし、来場所は関脇への降下が

決まってしまったが、勝負結果はさておき、貴景勝は貴景勝らしく本来の押し相撲を

突き通した。決して変化などで安易に勝とうとしなかった。

一説では二所ノ関一門である先日退職した元・大徹の湊川の年寄株を入手したという

情報もあり、そろそろ引退も視野に入れているのかと思っていたが、既に来場所も

出場する意向を示している。

来場所10勝すればまた大関に戻れる。過去に大関昇進後すぐに休場で同様のケース

があって大関への再昇進を果たしたことがあったが、前回と今回では状況が全く異なる。

従って、実現するのは簡単なことではないが、今場所の貴景勝を見ていると気力や

気概でまた何とかしてしまうのではないだろうかとも思わされた。

また大関に戻れることが出来るよう見守りたいと思う。

 

■起点すら作れなかった霧島

霧島は10勝すれば大関に戻れるという状況で今場所に挑んでいた。

序盤は好調でこれならいけるかな?と思っていたが、

終わってみれば8勝7敗と勝ち越しが精いっぱい。

10勝出来なくとも9勝であれば大関再昇進に向けて起点も作れていただけに残念だった。

とはいえ、まだ取り戻しの出来る力士だ。

またあの強い霧島を見たいと思うし、その実力もあるはず。

 

■横綱を止めた大の里

先場所初優勝を飾り、今場所は「大関昇進」も期待のかかる大の里だったが、

やはりそれほど甘くはないということだ。

序盤黒星スタートで最初はどうなるかと思ったが、しっかりと修正をしてきたとも言える。

9勝を挙げて大関昇進への足固めとして繋ぎはしたので及第点と言えるが、

まだまだこれからだろう。

そういう意味ではいい勉強が出来た場所ではないだろうか。

横綱に対していい立ち合いで巧い相撲が取れたと思う。

この相撲で後半戦の流れが変わったと言っても過言ではない大の里のいい相撲だった。

この相撲が評価されて自身2度目の殊勲賞を受賞した。

大物であることは確かなので、また今後に期待したい。

 

■平戸海の強さ

新小結として今場所を迎えた平戸海だったが、堂々の二桁の10勝を挙げた。

「ただ土俵で暴れているだけ」と見られかねないほど縦横無尽に土俵を

動き回る相撲だが、やはり何と言ってもスピード相撲が光っている。

この磨き上げた巧い相撲で自身初の技能賞も受賞した。

この技能賞はきっと平戸海の自信にもつながるだろう。

この相撲に更に磨きをかけていくと大関候補に急上昇してくると思っている。

 

その他の三役陣だが、

大関・琴櫻も横綱を2敗で追っていたが、後半失速したのは残念だった。

この力士はもっと上位に上がれるし、上がらなければいけない力士なのだ。

豊昇龍も同じく横綱を負う展開だったが、9勝までしたものの途中休場は

残念な結果だった。

大栄翔は無難に勝ち越しを決めて三役の座を守った。

三役は何となく安定した成績で平幕力士との入れ替えはなかったが、

その分平幕上位とは実力伯仲。油断できない状況だ。

そういう意味では筆者としては隆の勝を小結に再昇進させたいと思っているが…

これも番付運…。

 

平幕上位は軒並み負け越しが多かった。

若元春も三役から降下し、再昇進を図っていたが怪我の影響は避けられなかった。

足の親指に全くチカラが入っていなかったものな…。

髙安も上位に上がっては休場…と本当に運に見放されている感じだ。

西筆頭の熱海富士もまだあと少しのところで三役にたどり着かない…もどかしささえある。

準ご当所場所の御嶽海も前半いい相撲を取っていただけに負け越しは残念。

人気者・宇良も連日館内を沸かせる相撲を取ってはいたが、9敗と負け越した。

西5枚目の湘南乃海も前半は良かっただけに負け越しは残念だが、

時折見せる変化はいただけない。

特に千秋楽の貴景勝戦は最悪だった。

既に負け越しているのだから、開き直って全力で大関に当たったほうが良かった。

そうすれば何かつかみ取れるものがあったり自信につながったりしたはずだ。

変化は何も与えないよ。

 

そして中位以下では正代が気を吐いた。

序盤、やっぱり正代か…と思っていたが終わってみれば10勝を挙げた。

まだまだ正代は強いというところを見せてくれた。

来場所も頼む!これは遠藤もしかり。

美ノ海が終盤まで横綱を負う形になり、自身初の幕内二桁10勝を挙げた。

敢闘賞あげても良かった。

若隆景はこの地位だとさすがの11勝。来場所は上位での戦いになるので期待したい。

 

朝乃山は残念な場所に終わってしまった。

勝負が決した瞬間、(あ!ヤバい!)と叫んでしまうほどのヤバい倒れ方だった。

「左膝前十字靭帯断裂」「左膝内側側副靭帯損傷」「左大腿骨骨挫傷」

の診断を受けて休場。

1年近くはまた戦列から離れることになりそうだ。

せっかく戻ってきたのに…(涙)

 

来場所はこの朝乃山、途中出場したものの大きく負け越した千代翔馬、

幕尻で9敗した錦富士が十両への降下の見込み。

代わりに十両優勝した白熊。(※写真下)

西筆頭で9勝を挙げた阿武剋の2人の新入幕、

そして東3枚目で8勝勝ち越しの北の若が幸運な再入幕の見込み。

 

優勝次点となったウクライナ出身の獅司、伯桜鵬も11勝を挙げて、

来場所は大きく番付を上げるだろう。

島津海も二桁10勝を挙げて幕内復帰が見える位置まで戻りそう。

尊富士は途中出場して「オッ!」と思わせてくれたが、

再度の休場は残念だった。

まだ怪我の影響もあろう。早く復帰してほしい。

再十両の藤青雲は9勝と勝ち越したが、新十両の嘉陽は負け越し。

ただ、星の数により、十両残留が濃厚。

この番付運を来場所は味方につけたいところ。

 

十両からの降下は新十両の場所だった生田目。

大きく負け越した對馬洋、東11枚目で10敗した栃大海が降下見込みだ。

栃大海も行ったり来たりだが、春日野部屋の関取としてもっと頑張ってほしい。

 

代わりに幕下からは優勝した東2枚目、荒汐部屋の大青山が文句なしの新十両。

西筆頭の木竜皇も6勝を挙げてこれも文句なしの新十両だ。

木竜皇は先代時津風親方のご子息、長男だ。待ちに待った関取だ。

そして先場所大きく負け越した欧勝海が西3枚目で5勝を挙げてこれも再十両濃厚。

 

三段目は尾上部屋の23歳、伊波が優勝。

序二段は伊勢ヶ濱部屋の23歳、聖白鵬が優勝。

序の口は境川部屋の23歳、清水海が優勝を決めた。

3人とも今年に初土俵を踏んだ期待の若手だ。

これからどんな風に上がってくるか楽しみに見守りたい。

 

そして、今回は場所前に七月場所担当の元・木村山の岩友親方が

42歳という若さで他界。

協会の中でもいろんなアイディアを出す、明るくて面倒見のいい親方だった。

筆者も親方の笑顔しか思い浮かばない。

それゆえに葬儀で目にした親方の姿はあまりにも変わっていて

(こんな姿になっちゃって…)と本当に残念でならなかった。

でも最後にお別れが出来て良かったと思っている。

春日野部屋の力士は親方の思いに報いるためにも頑張らないとね。

 

今場所は序盤から中盤まで横綱の安定さ、強さを感じ、

終盤はあわや逆転もあるのか!?とざわつき、

でも最終的には横綱がきっちりと場所を締めた形になった。

そんな横綱中心の場所だったように思う。

優勝決定戦まで実は横綱が演出していいたのではないか?

(実際にはそんなことはないが…)と思うそんな見ごたえある場所だった。

大関復帰ならなかった霧島、来場所は大関から関脇に降下する貴景勝。

三役陣も変わらないなかでも微妙に力関係が変わってきていることを

感じさせてくれた。

それ故に平戸海の活躍は今後の期待だ。

隆の勝も本来のチカラを出して三役復帰が見えてきた。

若隆景もそろそろ元の位置に戻りつつある。

そんないろんなことがまた来場所への期待という形になる。

来場所もまた期待して、九月場所を待ちたく思います。

今度は両国。チケット取れるかなぁ…心配…。

 

令和6年7月29日(文・呼出 民男)