令和六年五月場所も無事に千秋楽を迎えた。

かつて白鵬のような看板力士は現状ではいないものの、依然として大相撲の人気は異常なほど高い。

今場所も一般販売が開始されると即日完売となったほどだ。

筆者も向正面のイス席しか購入出来ずに閉口した。

マス席には外国人観光客も目立つ。コロナ禍が明け、円安の影響も相まってインバウンドも増えている。

こうしたツアーの中に大相撲観戦も含まれているのかも。

 

先場所総括で申し上げたのは、大阪場所での観客の声がけのマナーの悪さであったが、

それにしても両国での悪さもかなりなものになっている。

下品なヤジ等はないのだが、大相撲を理解していない観客の声がけは非常に気になるものだ。

最後の仕切りに入ってからの大きな掛け声が目立った。これは筆者的にはご法度だと思っている。

逆の立場になって考えてみるがよい。

自身が集中したいときに大きな声を何度もかけられたら「うるせぇな…こっちは集中してんだよ…!」と、なるでしょう。

大きな声で声援を送りたい気持ちもわからなくもないが、立ち合いに入ったらもうやってはならない。

結果的に応援する力士の集中力を削ぐ行為になる。要するに力士に対する配慮なのだ。

AbemaTVの実況と解説でもこのことに言及されていた。

最後の仕切りを終えて両力士が手をつく前の張り詰めた静謐な空気の中で行われる対戦前の雰囲気を

ぜひ味わってもらいたいし、それが大相撲独特の文化でもあるのだ。

 

さて、今場所は衝撃的な幕開けで始まった。

関脇以上の役力士が全員初日から黒星。要するに全滅したのだ。

筆者も思わず…「ひどいな…これ…」と呟いてしまった。

結びの一番で横綱に勝った新小結・大の里の姿が千秋楽で初優勝を決める予兆だったのかもしれぬ。

横綱・照ノ富士、大関・貴景勝が二日目から早々に休場すると、霧島、若元春も相次いで休場となり、

初日から休場を決めていた朝乃山も含めると、役力士9人中5人が休場するという異常事態となった。

これならやっと髙安にも優勝のチャンスが!と思っていると髙安まで休場…よくよく運のない力士だな。

大の里や琴櫻の初優勝のチャンスは大きいと筆者は思っていたが、意外にも?(失礼!)宇良が初日から連勝。

宝富士や湘南乃海、新入幕で敢闘賞を受賞した欧勝馬らが気を吐いて白星を重ねていったのが印象的だった。

終盤に差し掛かるとさすがに役力士が優勝争いにも名を連ねる。

豊昇龍も初日から2連敗した時はどうなるかと思っていたが、結果的には優勝争いに加わってきたのは

さすがだし、大の里戦で見せた相撲は見事だった。あの大の里が宙を舞うとは…。

 

しかし、やはり最後まで大の里強し!のイメージ通り、優勝を決めたのは大の里だった。

幕下付け出しでは、故郷の大先輩でもある元横綱・輪島の所要15場所の記録を塗り替え、史上最速の7場所で初優勝を飾った。

今年1月は地元の石川県での震災があり、大の里の優勝は故郷の方たちを元気づけたことだろう。

日体大1年で学生横綱、3、4年ではアマチュア横綱と将来を嘱望されて鳴り物入りで角界へ入ってきたが、

意外にも幕下2場所、十両2場所でも優勝には届いていない。

これが角界に入って初めての優勝となったわけだ。

また、初の殊勲賞、2度目の技能賞も受賞した。

今場所からようやく「ちょんまげ」が結えたが、このまま順調に出世すれば、初の「ちょんまげ大関」誕生となるだろう。

幕内では新入幕から11勝、11勝ときて今場所12勝で優勝。来場所は三役2場所目だが、朝乃山の例

もある。12勝でもすれば大関昇進の話が持ち上がってもいいのではないかと筆者は思っている。

壁になるべき上位陣が休場や不甲斐ない成績であるが故に、先場所は尊富士、今場所は大の里と、

若い力士が活躍してきているが、基本的に2人とも強い!

早く上位に上がって自らが壁となって次世代の若手のお手本となっていってほしい。

 

場所前は土俵外で、新弟子に対するイジメともみられる飲酒強要のニュースが出て協会から師匠と共に

厳重注意を受けたが、そのゴタゴタを忘れさせてくれるくらいに今場所を活躍してくれたのは良かった。

これを機に謙虚な姿勢で自覚をもって更なる高みへと進んでほしい

 

横綱・照ノ富士はまたも残念な場所に終わった。

もう満身創痍というような感じだが、また万全な状態で土俵に上がれる日は来るのだろうか。

本人も目標にしているが、あと1回は優勝を決めて花道を飾ってほしいなと思っている。

 

貴景勝も抱えている怪我が完全には治らない状況だ。

こちらも満身創痍。カド番になっては気力で勝ち越し、大関の座を何とか守っている。

やはり万全な状態と比べてもチカラが衰えてきているのがわかる。完璧に相手を押し切れていない相撲

もあるのだ。

引退するにもまだ早いし、何にせよ貴景勝には年寄名跡入手困難の苦労もつきまとう。

おそらく、かつての貴乃花の弟子ということで、手に入りづらいのではないかとみている。

それよりも再び万全な状態とはいかないまでも、やっぱり貴景勝の押しは強いな!という相撲をまた見せ

てほしいものだ。

 

霧島もいったいどうしたのか?

先場所からの不調を引きずるような形になっており、ついには関脇への陥落が決まってしまった。

来場所は10勝すれば大関への返り咲きができる。負のスパイラルから抜け出すことはできるのか。

 

豊昇龍は序盤苦しんだものの後半は調子を上げてきた。

キレのある技はさすがだと思うのだが、大関としてもう一皮むけなければいけないだろう。

 

祖父の四股名・琴櫻に改名して初の場所となり、優勝の可能性もあったが、湘南乃海戦で安易に勝ち

にいった相撲で歯車が狂ったような気がする。

もっと当たって押し込んでいく相撲を磨いてほしい。

祖父は「猛牛」と言われたが、このままでは「仔牛」だ。更なる精進を期待したい。

 

若元春もせっかく返り咲いた関脇の座を1場所で明け渡すことになってしまった。

やはり怪我した親指の影響もあったろう。来場所また期待したい。

その若元春と手が合う阿炎も終盤は優勝争いに加わり、存在感を見せた。

以前のように引く相撲がないのは評価できる。

千秋楽の大の里戦も立ち合いからよく手が伸びた突きだったが、大の里の方が1枚上手だったという

ことだろう。

 

西筆頭の大栄翔も今場所は好調だった。

結果的に11勝を挙げて来場所は三役返り咲き当確。

やはり三役常連だけに11勝挙げても簡単には三賞をくれない

ようだ。

熱海富士は千秋楽の相撲で負けて負け越し。三役を目の前に

なかなか昇進できない。

番付が下の隆の勝に負けたが、ここは勝たなければいけない

勝負だった。

逆に東2枚目の平戸海が自身最高位で9勝を挙げて来場所の三役昇進を確実にした。

この平戸海という力士、筆者も注目の力士だ。

長崎県平戸市出身で昔の千代の富士や琴錦を彷彿とさせるスピード相撲。

この相撲に磨きをかけていくと大関も視野に入るのではと思っている。

 

湘南乃海は一時、優勝争いのトップに立ったが、時期尚早ということだな。

後半は連敗で9勝6敗で今場所を終えた。

幕内下位では竜電、欧勝馬が二桁勝星を挙げて好調だった。ベテラン宝富士も前半は好調だった。

 

来場所は全休した尊富士、大きく負け越した水戸龍、剣翔、友風、

そして新入幕で負け越しと跳ね返された時疾風の5人が十両への降下となるだろう。

剣翔は見ていて可哀そうだった。膝の怪我で膝が全然使えていない。全く相撲になっていなかった。

代わりに5人の再入幕が予測される。

十両優勝した若隆景。二桁勝星で優勝争いもした遠藤、千代翔馬。そして輝、武将山だ。

遠藤の活躍は大の里同様に地元石川県の方たちを勇気づけただろう

千代翔馬は帰化して日本国籍を取得済。

あとは親方株入手だが、まだまだ現役で頑張ってくれるだろう。

 

十両からの降下は新十両の場所だった風賢央。最後は入れ替え戦のような感じだったが、

これに負けて、1場所で十両から降下見込み。

他に大きく負け越した欧勝海、千代丸が降下見込みだ。

千代丸も行ったり来たりだが、早めにまた十両定着しないと幕下上位は激戦区でなかなか戻れなかったりする。

もう一度頑張ってほしい。

 

来場所の再十両には幕下優勝の藤青雲が確定。幕下15枚目以内で全勝優勝した場合は文句なしで十両昇進なのだ。

そして、新十両に西筆頭で5勝を挙げた嘉陽。

二所ノ関部屋で大の里の1年先輩にあたるが、ようやく関取の座を手にした。

 

そして二子山部屋の生田目。

狼雅に続いて現師匠で2人目の関取誕生だ。

 

十両降下の力士が少なかったため、昇進はこの3名とみている。

東3枚目で5勝を挙げた木竜皇は状況次第では昇進していてもおかしくない。ここは番付運といったところだろうか。

東4枚目の北磻磨も勝ち越して来場所はまた十両が狙える位置にくる。

この年で(花のロクイチ組で今年38歳!)十両から降下、若手が躍進してくる幕下上位で戦うのは凄いことだと思う。

来場所再十両を決めてまた記録を作ってほしいものだ。

 

東幕下で勝ち越しをかけた一番で天空海は伯桜鵬と対戦。

入れ替え戦のような感じでもあったが、立ち合いつっかけたり、張り手をかましたり、あの天空海の行為はいけないよ。

伯桜鵬を怒らせたのか、惨敗で関取再昇進を逃した。

元大碇の甲山親方のご子息でもある若碇にも筆者は注目している。楽しみだ。

 

今場所は引退力士も発表された。

佐渡ヶ嶽部屋の琴恵光だ。

あの小さい身体で今回の休場以前は連続出場しており、コツコツと真面目に努力してきた力士だ。

 

筆者が毎年訪れる宮崎県延岡市の出身で実家はご両親が切り盛りされている「ちゃんこ松恵」

いつ行っても優しくお母様が対応してくださる。

元琴風の尾車親方が延長定年を待たずして退職したのも琴恵光に年寄株を渡す目的があってのことだった。

同じような力士にこれからはしっかりと指導していってほしい。

引退相撲は駆けつけるよ!

 

幕下以下、三段目は大島部屋の旭海雄が優勝。

序二段は高砂部屋の朝東が優勝。

序の口は手に汗握る決定戦を制した藤島部屋の野田が優勝した。

先場所が初土俵の18歳だが、この力士はいい相撲を取っているので、将来が楽しみでもある。

 

今場所は場所前から宮城野部屋の伊勢ヶ濱部屋への移籍。

大の里の新弟子への飲酒強要発覚。

毎度のことながらいろいろあるが、理事長はもっときちんと締めてほしいものだし、師匠もしっかりと教えていかなければいけない。大の里は学生時代の延長のノリだったんじゃないかなと筆者は思っている。

また、上がってくる若手と上位陣との差がないに等しく、番付というものが崩れつつある。

しかし、先場所優勝の尊富士、今場所優勝の大の里が将来的にそこを戻してくれればよい。

ちょっと時代が変わってきたなと、そんな局面をかんじさせてくれたが、来場所もそれに拍車がかかるだろう。

来場所もまた期待して、熱い名古屋、七月場所を待ちたく思います。

 

令和6年5月27日(文・呼出 民男)