令和六年三月場所も無事に千秋楽を迎えた。

今年初の地方場所となる俗称、大阪場所である。

筆者自身も大阪出身であるので心苦しくもあるが、やはり苦言を申し上げさせていただきたいと思う。

大阪場所の観客の掛け声はやはり品がないのである。

呼出しが四股名を呼び上げて土俵に上がった時の掛け声は問題ない。

しかし、最後の仕切りに入ってからはご法度だと思うのである。

四股名以外の掛け声もあり、非常にみっともなく、大相撲の品格が落ちるような気がして

筆者としてもとても悲しくなるのである。

特に溜席で観戦している時にはそれが顕著に伝わってくるのだが、最後の仕切りを終えて

両力士が手をつく前の瞬間が最も緊張感のある時で、力士の集中力は最高潮に達している。

そんな中での掛け声はせっかく緊張感のある最高の舞台を台無しにしてしまう。

張り詰めた静謐な空気の中で行われる対戦前の雰囲気もぜひ味わうべきだし、

大相撲ならではの文化と魅力であると思うのだ。

 

『荒れる春場所』…という言葉をよく耳にすると思うが、今場所は正にその通りであり、

しかも場所前から土俵以外でも例の宮城野部屋問題で荒れていたのである。

最終的には伊勢ケ濱部屋への全員の転籍で落ち着きそうだが、受け入れる方としてもかなり

難色を示していたことが伺える。さて、今後どうなっていくのであろうか。

そんな土俵外のゴタゴタを忘れさせてくれるくらいに今場所を引っ張ってくれたのは二人の

若い力士であった。

今場所が新入幕となった幕尻(東前頭17枚目)の尊富士が大正三年(1914年)夏場所

の両國勇治郎(元関脇、第九代武隈)以来110年ぶりとなる新入幕優勝を遂げたのだ。

筆者も幕下時代から注目の力士として見ていたが、その快挙は想像を遥かに超えていた。

しかも先場所は新十両での優勝で連続優勝でもあるし、伊勢ケ濱部屋としても先場所の

照ノ富士に続いて連続優勝となっている。

 

下は青森から駆け付けたお母さまとの1枚。

千秋楽は席がなくて観戦出来なかったそうだが、そこは考慮してあげて欲しかった。

足のケガが心配だが、無理せずに早く治してもらいたい。

更に尊富士がすごいのは、入門してから10場所目での幕内優勝ということだ。

これは群を抜いて歴代1位の記録である。これまでのベスト10を見てみると、

1位:尊富士(10場所)

2位:貴花田(のちの貴乃花)、朝青龍(24場所)

4位:照ノ富士(25場所)

5位:曙、貴景勝(26場所)

7位:武蔵丸(30場所)

8位:若花田(のちの若乃花)(31場所)

9位:白鵬(32場所)

10位:豊昇龍(33場所)

平成の大横綱、白鵬は勿論、あのスピード出世の貴乃花でさえ凌駕している。

 

髷は結えているが、まだ大銀杏も結えないほどの早い出世だということがわかる。

2022年九月場所に前相撲の初土俵を踏んで以来、

序の口優勝(7-0)、序二段優勝(7-0)、三段目19(6-1)、

幕下41(6-1)、幕下17(6-1)、幕下6(5-2)、幕下筆頭(6-1)、

十両優勝(13-2)、幕内優勝(13-2)ときており、まだ負け越しがない。

来場所は上位と当たる位置まで昇進することが予想されるが、次はどんな活躍をして

どこまで上がっていくのか今から楽しみである。

 

今場所は新入幕で初日から11連勝と、あの昭和の名横綱・大鵬と並び歴代1位。

ちょっと情けないなと思うのは割崩しであてられた上位陣だ。

大鵬の時も新入幕で初日から11連勝。だれか「止め男」を出さなければならない。

今から64年前の昭和35年初場所12日目、白羽の矢が立ったのが当時小結の柏戸

(のちの第47代横綱)。

いずれの日か、二人で争覇するだろうと目されていた両力士の対戦が早くも実現したのだ。

柏戸はその時のことをこう述べている。

『みんな大鵬、大鵬って騒いでいるが、俺、見たことも稽古したこともないんだ。

 だけど、こりゃ負けられない、負けたら大変だと思ったね。』

この対戦は24秒の激闘の末、柏戸が大鵬をねじ伏せたが、二人ともしばらくは立ち上がれ

なかった。

止め男の役目を果たした柏戸は、

『あの時ほど勝てて良かったと思ったことはない。』と述懐している。

いかに大事な相撲を托されていたかを十分にわかっていたからこそ出た言葉だろう。

そして今場所、同じ状況となったわけだが、最初に「止め男」として出てきたのは九日目の

小結・阿炎。

ここはその役目を果たすことなく、十日目の大の里戦を挟んで、十一日目には何と新大関・

琴ノ若との対戦が組まれたが、これも撃破される。

十二日目の大関・豊昇龍がやっと止め男の役割と果たしてくれたが、その後も関脇・若元春

も敗れ、尊富士は三役陣4人に対して3勝1敗としたのである。

この中でも平幕ではあったが、元大関・朝乃山はこの新人をきっちり抑えて、その強さを

改めて見せた一番ではなかっただろうか。

成績は9勝で終わったが、来場所はまた三役復帰が濃厚。

今後の大関復帰に向けてもいい足がかりになったと思っている。

 

そして、上位陣を差し置いて共に優勝争いを展開したのが、まだ髷すら結えていない

ザンバラ髪の大の里である。

千秋楽も星を落とし、結果的には尊富士に2つの差をつけられたが、堂々と優勝争いを

繰り広げたのはアッパレである。

もう近い将来、この2人が綱を張っている姿さえ想像できる。

やはり強い横綱が東西に揃っていると雰囲気も場所も締まるのである。

尊富士は三賞を総なめ、大の里も先場所に続いて敢闘賞受賞、そして初の技能賞も受賞。

 

この二人は学生時代から対戦があり、4回戦って2勝2敗の五分だ。

下の写真は学生時代の2人。

左から2人目が尊富士、日大の石岡、左から3人目が大の里、日体大の中村。

左端に現在鳴門部屋の欧勝馬の姿も見える。

 

これから幾度となく対戦が組まれるのであろうが、対戦を重ねるたびに大相撲の歴史が

紡がれていくような気がして筆者も期待感が大きい。

もう今年の三役昇進は間違いないところであろう。

先輩たちに遠慮することはない!どんどん駆け上がっていけ!

 

大活躍の後輩に対して、横綱・照ノ富士は残念な場所に終わった。

筆者も場所前に無理はしてほしくないな…と言っていたがやはり先場所の疲労も残っていたのだろう。

金星をかなり献上してしまったが、やはり万全な状態でまた場所に戻ってきてほしい。

 

霧島はどうした?と言わんばかりの場所になってしまった。

先場所が綱とり場所だとは到底思えないくらいの絶不調だった。

しかし、15日間出場し続けたのはきっと今後の糧になる。

千秋楽の琴ノ若戦はいい相撲で勝った。あの相撲が来場所に繋がればいいのだ。

 

豊昇龍は11勝と大関の面目は保ったが、最後まで争いきれなかったな。

やはり安易に勝とうとしているのが良くなかったし、宇良、翔猿、翠富士といった分の悪い

力士に敗れているのが目立つ。

翠富士の肩透かしはもはや芸術的で鮮やかに決まっていたが、

やはり笑うしかなかったのか!?ここは今後の課題だろう。

 

貴景勝も、なぜいつもあんなに痛々しいのだろう…

何とか勝ち越して大関の座を守ったが…。

しかし、大関の地位を守り抜いているのは貴景勝のすごさでもあると思う。

何とか報われてほしいものだが…。

 

そして、琴ノ若は新大関の場所で10勝を挙げ、まずは及第点だろう。

欲を言えば、もっと優勝争いの先頭を切っていてほしかった。

来場所からは祖父の琴櫻の四股名を名乗るのではなかろうか。

 

大栄翔は残念ながら三役の座を明け渡すことになってしまった。

やはり押し相撲であるがゆえに好調、不調の波が激しいのであろうか。

実力者なので、また戻ってきてほしいところだ。

でないと、尊富士や大の里に置いていかれるだろう。

若元春も最初は連勝していい感じかなと思っていたが、最終的には9勝に終わって大関を

狙うにはあともう一歩だな。

小結の阿炎も引く相撲が随分と減ってきた。それでいい。

得意の突っ張りを磨いて師匠以上の地位を狙っていこうよ。

錦木は再小結の場所、大敗に終わってしまった。

酒好きの錦木で、飲まないと勝てるかな?と酒を断ってみたものの変わらなかったので

また飲み始めたそうだ。また頑張ってもどってきてもらいたい。

 

宇良は負け越したものの、ご当所大阪の場所を盛り上げてくれた。

連日の宇良コールはすごかったな。

同じ寝屋川市出身の豪ノ山も二桁勝ち星。もっと上を狙っていける。

髙安も久々に11勝と気を吐いた。

もう髙安の優勝って見ることは出来ないのであろうか…いやいや!いつかきっと…!

 

尊富士や大の里が活躍しているのに対し、かつて活躍したベテラン勢のチカラの衰えも

感じた場所だ。

新旧入れ替わりというのを非常に感じた。

妙義龍、遠藤の来場所の十両降下は避けられない。

永谷園のCMもいつのまにか遠藤に代わって熱海富士。これも新旧交代か。

 

来場所は欧勝馬、時疾風の新入幕が濃厚。

水戸龍も十両優勝して幕内に戻ってくるし、宝富士も1場所で幕内返り咲きだ。

 

十両では実力から言ってもっと若隆景が活躍するとみていたが、ここは残念だった。

宮城野部屋のゴタゴタがあったせいなのか、伯桜鵬も勝ち越したが8勝と一時の勢いは

影を潜めている。

おそらく、手術後の体のバランスがまだ悪いのだろうな。もう少しかかるかもしれない。

 

琴恵光が大敗してついに幕下降下が決定的だ。

毎年筆者が演奏に出かける延岡の出身。

結婚したばかりだが、また頑張ってもどってきてほしい。

北磻磨も大きく負け越して幕下に逆戻り。

これでまた十両復帰したらすごい記録になるのだが…。

 

西幕下13枚目の風賢央が幕下優勝を果たし、満を持して来場所は新十両だ。

元関脇・豪風の押尾川が師匠になって初めての新十両誕生。

親方も本人もうれしいことだろう。(下写真)

春日野部屋の塚原改め、栃大海も新十両だ。(下写真)

埼玉栄高校の出身で、王鵬や琴勝峰と同学年。

同期に先を越されて悔しい思いもしてきただろう。

約5年幕下にいたが、うれしい新十両だ。

湘南乃海の例もあるので、新十両での活躍も期待だ。こんな笑顔も出来るんじゃん!いい笑顔ダゼ!(笑)

そしてまだこれもザンバラ髪の阿武剋。(下写真)

筆者も注目していたが、新十両を射止めた。

この力士もドンドン上がっていく気がしている。

期待の若手が幕内に揃うと、それこそ「役者がそろった!」という感じになる。楽しみだ。

 

今場所は引退力士も発表された。

苦労した慶天海、そして塩まきで一世を風靡(?)した照強。

阪神大震災の日に生まれた照強の福岡クン、なんか最初から最後までいろんな意味で

やんちゃ坊主だったな。

他に海龍、隠岐の富士、弓取りの勇輝も引退したが、この3人は世話人として引き続き

大相撲を支えてくれることとなった。

ニュースでも取り上げられた春日野部屋の栃神山も引退となってしまって残念だ。

高田川部屋の櫻も引退。

今後、高田川部屋のちゃんこは誰が作るんだ?という心配を筆者はしているが、

櫻さんあっての高田川部屋のおいしいちゃんこなのである。

何だかそれ専門で部屋に残りそうな気もしているのである。

 

幕下以下、三段目は木瀬部屋の長村が優勝。

序二段は元十両、春日野部屋の栃丸が優勝。

手術して番付を落としていたが、ようやく戻ってきてくれて筆者もうれしいよ。

序の口は九重部屋の千代大牙が優勝した。

 

今場所は場所前から大相撲界を揺るがす問題も発生し、どうなるかと思っていたが、

なんと二人の若い力士がそれを救ってくれた。

協会幹部はこの二人に感謝だよ。

そして、不甲斐ない成績の上位陣は猛省だよ。

もう上がってくる若手と上位陣との差がないに等しい。

これではいけない。

番付が存在するのであるから、上位陣は地位に見合った成績、戦いを見せてくれないと。

しかし、将来的にすごく明るいなと思わせてくれた場所ですごく楽しめた。

やはり勝つべき地位の力士が勝たねばならぬ。

しかし、若手の躍進も脅威で楽しみではある。

そんな新たな局面となるだろう来場所もまた期待して薫風の五月場所を待ちたく思います。

 

今回は千秋楽以降も関西方面におり、

執筆が遅くなりましたことをここにお詫び申し上げます。

 令和6年3月29日(文・呼出 民男)