特別支援学校で重要な考え方は「基礎的環境整備」と「合理的配慮」です。
今回は、授業の中における「合理的配慮」に焦点を当てます。
そもそも「合理的配慮」とはなんでしょうか。
簡単に言うと「変更と調整」です。ひとりひとりの生徒さんに合わせて、変更と調整をすること。手順書があれば活動できる子には手順書を準備する。立つことが難しければ椅子を準備する。文字を扱うことが難しければ、絵や写真で視覚支援をする。様々なことがあげられます。
この合理的配慮がひとりひとりの生徒に合ったものであるとき、活動は非常に質の高いものになります。言い換えると、この合理的配慮は、「授業のねらい」を達成するための重要な手立てになります。
特別支援学校の授業は、チームティーチングがメインになります。
メインティーチャー(以下MT)とサブティーチャー(以下ST)がいて、MTは授業全体の構造を考える司令塔の役割をします。STは、生徒ひとりひとりに必要な支援をしつつ、MTの意図を汲んで、授業を作り上げます。
よく課題にあがるのが、「MTとSTの連携」です。MTの意図とは異なることをSTがしてしまうこと、MTの意図がわからずに、STがうまく動けないことなど、特別支援の現場では「連携不足」に悩まされる教員が多数いると考えています。教員同士の知識量やモチベーション、考え方など、様々な観点において、「連携する」というのは難しいことであると私は考えています。
自分がMTである授業で、もっと連携をよくすることはできないだろうか?
自分の中での問いに、ひとつの答えを見つけました。
その答えは、「授業のねらい」をシンプルに明示すること。
原点をいま一度見つめなおすことでした。
次の図を見てください。
これをゴールデンサークルと言います。
世界的に有名なサイモン・シネック氏が提唱している考え方です。
人々は、「WHY」にインスパイアされるというもの。円の内側から考えをスタートさせるというものです。
つまり、「なぜ?」に人は動かされる。反対に言うと「なぜ?」のない提案に、人の心は動かないのです。
(詳細は省略します。)
このゴールデンサークルの考え方を授業作りに応用できるのではないか。
と僕は考え、次のようにしました。
「WHY」のところに、「授業のねらい」を置きます。
つまり、「授業のねらい」から思考をスタートさせるということを確認します。
円の内側から、次のようになります。
「WHY」…この授業の“ねらい”
「HOW」…“どのように”ねらいを達成するのか
「WHAT」…授業で“なにを”するのか
内側から外に向けて考え方を説明します。
「授業のねらい」からスタートして実際に授業ではどのようになにをするのか。
実際に使う場面は、「授業の打ち合わせ」です。短時間で授業の打ち合わせをする際に、ポイントをわかりやすく伝えることができます。
MTとしての意図をSTにうまく伝えることができるようになります。
またSTは、「授業のねらい」を意識して、授業に取り組むことができます。
これだけでチームティーチングの質は大幅に向上すると考えています。つまり「MTとSTの連携」を高めるツールとしてゴールデンサークルを活用できると考えています。
では、なぜ「授業のねらい」を意識してSTに共有する必要があるのでしょうか。
「HOW」や「WHAT」ではダメなのか?
それは、冒頭で触れたように「合理的配慮」に関係します。
間違いなく「合理的配慮」についてはMTよりもSTの方が気付きを得やすい状況にいます。
生徒ひとりひとりの様子を見て、その場面に応じて「合理的配慮」をしやすい環境にいるのはSTなのです。授業のねらいを達成する手立てを講じやすいのはSTです。
「STが授業をつくる」とはよく言われますが、まさにそう思います。
ゴールデンサークルは、MTにとっては「授業のねらい」を明示するツールになり、STにとっては「合理的配慮」の質を高めるツールになるのです。そして、「授業のねらい」を達成するために必要な「合理的配慮(手立て)」が講じられる「連携」を深めるツールになるのです。
僕は毎回、指導略案の裏面に「ゴールデンサークル」を書いています。
質の高いチームティーチングを目指して、導入してみてください。