名探偵コナンから、平和×新蘭×CHを
過去作品改訂で


東西名探偵とスイーパーの遭遇_9仮題

第3章 記憶


ゆらゆら揺れた気がして、不意に目を覚ます

毛布にくるまっている私は、平次に抱えられて
車に乗せられたところやった

「へーじ?」

しっと言う平次に頷くと、平次が私を隠すよう
に頭まですっぽりと毛布を被せる

「服部、和葉ちゃん、大丈夫か?」
「工藤、姉ちゃん、大丈夫か?」

お互い、大丈夫、と言う声がして、どうやら
同じ車内に工藤くんらも居る事がわかった

そして、車が走り出して暫くして、検問のよう
な場所に差し掛かった様子

車内をガサゴソ覗く物音や、人の声に焦ったけ
ど、ぎゅっと握られた手に集中した

また車が走り出し、猛スピードで何処かへと向
かい走り出す

じっとしとる間に、更に気持ちが悪くなった

(かずは、かずは!
後少しの我慢やで、大丈夫やから、眠っとけ)

ぎゅっと握られた手に、わかったと合図して、
私は目を伏せた

どれくらいの時間が過ぎたんかはわからんけど
気がついたら、急に呼吸がしやすくなった

平次に抱えられて、車外に出た様子

出来るだけ、揺らさんように歩いてくれとんの
はわかった

冴羽さんの、教授、と呼ぶ声や、香さんの声が
遠くに響いていた

何処かのベッドに寝かされると、白衣の女医さ
んが揺れる視界に現れた

かずえさんと呼べと言う女医さんが、診察をし
てくれて、私は点滴をされて寝かされる

「和葉、もう大丈夫や」

オレも居るから、少し寝ろ、と言う平次が、私
の頭に氷枕をしてくれたりする

「なぁ、工藤くんと蘭ちゃんは?
冴羽さんや香さんは?冴子さんは??」

工藤くんは、カーテン越しのベッドで治療を受
けとるらしい

「あっちは、ちゃんと姉ちゃんが付き添うてる
から、大丈夫やで?」

野上刑事は、事件処理に向かい、香さんと冴羽
は、野上刑事を送りながら手伝いに行ったみた
いやな、と言う平次

何があったん?と言う私に、平次は後でちゃん
と説明するよって、まずは身体を休めなアカン
から、頼むから寝てくれへんか?と、苦笑され
た私

「眠れへんか?」

頷くと、しゃーないな、と言うて平次はベッド
に入って来た

ケガした方の腕をマッサージしてくれて、強張
りをゆっくりと解してくれる

オマエ、胃炎もあるみたいやから、刺激のある
もん食うなや?とか、何とか言う平次に、うん、
と言うてる間に眠くなってくる

平次の腕が伸びて来て、抱えてくれた
入院中、痛みで眠れへん時には、ようこうして
添い寝してもろうてん

大丈夫やから、と言う声に安心して、意識をゆ
っくりと手放した

翌朝、平次が仕切りのカーテンを開けてくれる
と、隣のベッドに工藤くんが寝かされとるのが
見えた

蘭ちゃんは、香さんの手伝いで席を外しとる、
と言うてた

昨夜、と言うより明け方、アパートの真向かい
にある、RN探偵事務所が爆破されたらしい

非常ベルが鳴り響き、冴羽さんの指示で、私ら
はこのお屋敷へ秘密裏に運ばれたそうや

「爆破の衝撃波でな、工藤と姉ちゃんが寝てた
部屋も窓ガラスが割れ、煙が入り込んだんや
姉ちゃん庇って、工藤、煙吸い込んでしもうて」

工藤くんは、まだあの毒薬の解毒治療を受けて
いるため、一般の病院に搬送するわけにもいか
ず、

博士の知り合いの教授が居るここに搬送された
と平次は言うた

取り敢えず、私は納得した

平次も、蘭ちゃん迎えに行きながら、部屋の片付
けを手伝うてくると言うんで、送り出し工藤くん
と私が部屋に残された

「和葉ちゃん、納得、してないだろ」

「せやねぇ、平次にしては、隠し方が雑やった
からなぁ」

体調が悪かったから、意識は曖昧なところがある
んやけど

でも、移動中の車の中の様子や何かは、断片的に
はあんねん

工藤くんと平次が、私と蘭ちゃんの無事を確認し
合う様子やったり、平次が私を毛布に隠したりし
たんはわかってん

「だよなぁ、アイツ、和葉ちゃんが絡むと、まあ
どこか抜けてるんだよなぁ」

自分で和葉ちゃんにあんだけ話しかけといてさ、
それ、すっかり忘れてんだから

ホンマに、あほやなぁ、平次

「ゴメンな、和葉ちゃん」

探偵事務所が爆破されたのも、オレが煙を吸い
込んでしまったのも、事実だ

でも、服部が言ってない事がある

犯人の狙いは、オレや服部、もしくは和葉ちゃ
んかもしれないって、冴羽達が心配して、ここ
まで、秘密裏に運んでくれたんだ

「せやな、私も何と無くそう思うたから、敢え
て平次を追及せんかったんや」

「だろうな、まぁ、服部も、上手く騙せたとは
思っていないと思うぜ、あの顔は」

確かに、平次はバツの悪そうな顔をしていた

「私らは、大人しく、静養しとこうや」

工藤くんは、早う身体治さんとね、と言うと、
和葉ちゃんもだぞ、と返された

工藤くんと事件の話をしながら、私はまたウト
ウトとしてしもうた

目が覚めると、工藤くんの様子を見ていたかず
えさんが振り返った

「和葉ちゃん、脚、見せてもらっていい?」

ケガの残る脚を丁寧に診たかずえさんは、まだ
もう少しかかるわね、と言う

「今はまだ、無理しちゃダメよ?
もう少しだけ我慢したら、リハビリのメニュー
を少しずつ変えて、頑張ればまた合気道も出来
るようになるから」

「はい」

私らの点滴を調整すると、かずえさんは部屋を
出て行った

その行方を見ていた私に、工藤くんがどうした?
と声を掛けた

「何かな、かずえさんも、教授も、私、以前に
何処かで会ったような気がしてん」

それがいつで、何処やったかが思い出せへんの

「その記憶には、服部は居るか?」

「平次?うーん、居た、ような気もするけど、
何やようはっきりせんの」

そう、平次が一緒にと言うか近くには居た気が
するんやけど、何や記憶が曖昧やねん

「そっか…でも、ひとつだけヒントがある」

「ヒント?」

「あぁ、恐らく、その和葉ちゃんの記憶が曖昧
なのは、もしかすると、和葉ちゃんの意識が、
朦朧としていたのかも」

「私?」

あぁ、と言う工藤くんの言葉に、記憶を巻き戻
して見る

「一番、直近で、和葉ちゃんの意識が朦朧とし
ていて、服部が正常心では無かった時と言うの
は、オレが記憶している中では1つだけだ」

あぁ、と思った
私が怪我で入院した時や

搬送されてすぐに到着した平次は、そのまま私
が退院するまで、ずっと病院に居た

でも、その内、1週間前後は、私の記憶は曖昧な
ままなのだ

出血多量で、まさしく生死を彷徨っていたから

ICUと病室の間も何度か行き来があったしい事も、
周囲から訊いては知ってはいるけれど、その間の
記憶は非常に曖昧で

ただ、目を覚ました時、必ず平次が居た事だけは
記憶してんねん

「服部のあの行動は、誰にでも出来る事じゃ無い
とオレは思ってる」

それくらい、必死に和葉ちゃんの回復だけを信じ
て傍に居たんだ

それは、わかってるだろう?

工藤くんは優しくそう言うた

「うん、わかっとるよ」

何度も繰り返す手術は怖かったし
苦しい治療もあったけど
最後の最後に力をくれたんは、平次やった

「服部の場合は、理屈じゃねーんだ
もう、本能的に身体の方が先に動いちまう
皐月堂の時も、日売テレビの時もそうだったろ?」

まぁ、蜘蛛屋敷の時みたいに、和葉ちゃんも、
そう言うタイプみたいだけど、と笑う

「あの時の事は、勘弁して、工藤くん
あの後、平次とどうにか崖、よじ登った後にな
めっちゃ怒られてん」

「当たり前だろ、オレ、蘭がそんな事したら、
マジでキレるよ?」

うっ

「あの後の事、教えてやろうか」

絶対、内緒だぞ、と言うて、工藤くんが教えて
くれた

あの後、気絶した私を背負って屋敷に戻った平次
は、工藤くんと事件の話をしている間、ずっと、
手がと言うより、腕が震えていたらしいのだ

「もし、一瞬でもオレが気を抜いたら」

平次の手を、私がすり抜けて行く感覚が抜けずに
怖い、と言うたらしい

もしちょっとでも油断しとったら、落としてしも
うてた、と言うて

「ケガした手、蘭には反対側を見せたんだ」

服部の手には、肌の色もあってわかりにくいけど
僅かに傷、残ってるぜ?

和葉ちゃんの、愛情の証拠

本当は、傷跡を残らないように消す事も出来たん
だけどさ、服部がその必要な無いって断ったって
静華さん、言ってた

「そんな」

私は知らんかった
おばちゃんも、平次も、誰も、そんな話、一度
もせんかったもん

「どうしてだかわかる?」

首を振った私に、工藤くんが言った

「これは、大事な証拠やから、オレが死ぬまで持
って行く」

だってさ、と言うて、穏やかな笑みを浮かべた
工藤くん

和葉ちゃんから貰った、生命を繋いだ証拠だから
絶対に消さないって

天寿を全うするまでは、絶対に死なせてはならな
きのが、和葉ちゃんなんだってさ

「それって、好きだとか、愛してるより重いよね
大事な告白だと思わねぇ?」

思わず涙が溢れた
そうなんや、そんなん思うてくれてたんや

「何たって、和葉ちゃんがツライ時は添い寝が
出来ちゃうくらいぞっこんだからね」

服部の気持ちについて、和葉ちゃんが心配するよ
うな要素はひとつも無いよ

そう言うて、ウインクする工藤くんは、やっぱり
優しいと思うた

カーテン越しやったけど、私がきつかったんも、
平次が気を使ったんもちゃんとわかっててん、
自分かて具合、悪かったのに

「オレのさ、マニアックな趣味について来られる
数少ない友人なんだ」

だから、和葉ちゃん、大事にしてやって?

ちょっと面倒なところもあると思うけど、君を想
う気持ちは、きっと誰にも負けないと言う事は、
オレと蘭が証人だ

「ふふふ、蘭ちゃんと工藤くんやったら、
最強やな」

涙を拭いて、鼻をかんだ

その後は、工藤くんに蘭ちゃんとの事を色々と話
を聞いてたら、香さんと蘭ちゃんが戻って来た

「あ、和葉ちゃん、目が覚めた?」

これくらいなら、食べられるかなって思ってと言
うて持って来てくれたんは、香さんのお手製の、
プリンやった

教授とかずえさんにもおすそ分けしてくると、私
や工藤くんと蘭ちゃん、香さんで、一足先にと、
そのプリンを食べる事に

「あれ、平次は?」

「あぁ、リョウがね、和葉ちゃんにちょっと貸
してって言っておけって言ってた」

力仕事、ひとりでやりたくないんじゃない?と
笑う香さんは、ゴメンね、と言う

香さんのプリンは甘すぎず美味しい

みんなで食べながら、香さんが東の名探偵である
工藤くんを質問攻めにしているのがおかしくて、
蘭ちゃんと大笑いしてしまった

to be continued