名探偵コナンから、平和な2人を
服部家の受難、別視点から

[chapter:CASE 1]続き


帰宅して来たオカンに、オレは素手で一発、
思いっきり殴られた

生まれてこの方、扇子で叩かれる事はあって
も、素手で殴られた事は一度も無かった

「申し訳ありませんでした」

正座して、頭を下げたオレに
オカンは言うた

爆破で家を失ってけがさせた事だけでも最悪
の事態やっちゅうのに、更に上乗せして

長年かけて、和葉が大切に護って来た事を、
台無しにしたのは、どう考えても許せへんと

たとえ遠山家が許したとしても

そう言うたオカンの手は、怒りで震えていた

その怒りは、ごもっともやし
殴られるだけの事をしでかした自覚もある
せやから、ちゃんと、オカンにも詫びた

「おっちゃんとおばちゃんには謝罪した
誠心誠意、詫びたけど、気にしてへんって言
われて、むしろ、頑張れって言われたんや」

顔向け出来ひん事をしてもうた事もわかっと
るし

和葉には、詫びるだけやなく、ちゃんと自分
の気持ちも伝えるし、今後の進路についても
話すつもりや

せやけど、一番は、和葉の傍にちゃんと居る
今まで寄り添ってもろうてた分、今後はオレ
がそうする

和葉との生活がちゃんと整うまでは、当面、
探偵はせえへん

謹慎が解けたら、まずは部活を先にやり切る

和葉が護ってくれたから、除名されずにここ
までやれたんや

引退するまで、ちゃんと遣り切りたい


そう言うたオレに、オカンは言うた

それだけや足りひん
和葉ちゃんの将来も、ちゃんと護りなさいと

和葉が将来、何をやりたくて、どう生きて行
きたいのか、ちゃんと話を聞いてやれ、と

「わかった」

和葉は今、おっちゃんと赴任先に居るおばち
ゃんを訪ねて行っとると言うて、週明けには
学校に戻るはずやと教えてくれた

なんや、まだ和葉に逢えへんのか

ガッカリしたオレに、オカンは情け無い、し
っかりしろ、と叱り、府警に行って来ると言
うて、屋敷を出て行った

工藤から連絡が入って、妃弁護士にオレと同
じように叱られて、手続きを済ませたと言う

「この後、帰国して来た両親からも、多分、
何らかの罰を課せられるだろーな」

それはいいんだけど、和葉ちゃんは?と言う
工藤に、まだ会わせてもろうてない事を説明
した

工藤も、まだ姉ちゃんな会わせてもらえてな
いと言うて、あと少しが一番辛いなと苦笑し
たんや

府警から戻って来た親父とオカンと3人で
久しぶりに家族だけの夕飯となった

いつもやったら、途中でおっちゃんや和葉が
顔を出してくれるのになぁ、と思う静かな、
食卓やった

明日は日曜日
和葉に逢えるのは、月曜日

オレは、停学明けの初日やし、色々あるから
学校で和葉を上手く捕まえられるやろか

なんて色々考えていたら、中々眠りにつけず
オレは、変な緊張感に包まれていた

翌朝、眠れへんまま早く起きて、オカンの手
伝いをして、朝稽古をして、シャワーを浴び
漸く、身体が解れた

「すまんけど」

オカンに、昨夜寝てへんから、少し眠ると言
うて、部屋に戻ってベッドに潜り込み仮眠を
取った

「へーじ?」

和葉の声がした気がして、目を開いて
覗き込む顔を見て、手を伸ばした

きゃっ、と言う声と共に腕に転がり込む身体
を、しっかりと抱きしめた

柔らかくて、温かくて、ええ匂いがする

首筋に顔を埋めて、その温さに涙が出そうに
なった

「和葉、おかえり」

ぎゅっと抱きしめる和葉を抱えて、身体を起
こした

ホンマに、ごめん、と言うオレに、
ごめんで済んだら警察要らんで、と言う声が
返って来る

うん、オレの和葉や
良かった、ちゃんと帰って来た

その幸福感に溺れてしまいそうになるけれど

オレにはやらなアカン事だらけ

血の涙を流す気持ちで、抱きしめていた和葉
から身体を離して、オレは和葉を座らせて、
その対面に正座したんや