名探偵コナンから、平和な2人を
思いつきメモ


Let it be


一生懸命に、努力しとる
勉強も、スポーツも、家事も、自分磨きも

でも、ちっとも追いつかへん

先日、また紅葉が現れた
きれいな事件関係者も

みんな、キラキラしとって
みんな、自信満々で、堂々と平次に猛アタックして

何か、凄かったんや

気後すると言うよりも、ドン引きするくらいに、
それはもう、絢爛豪華な戦いで

その様子を目の当たりにして、思うてしもうたんや

私、一生こんな人らと競って行けるんやろか?と

平次の私への評価なんて、ボロカスや

いっつも、姉ちゃんを見習えとか、あの人は綺麗や
けど、オマエが真似しても無意味やとか
褒められた事なんか、無い

今日もまた、目の前で始まった華やか女の子達の争
いに、何かもう、圧倒されてしもうて、気遅れどこ
ろか、全力でバックダッシュしたくなった

「葉っぱちゃん、アンタ何を自分は関係あらへんっ
て顔、しとんのです?」

現れた紅葉にそう言われて、一気に現実に引き戻さ
れてしまう

それまで、いがみ合うてた女の子達が、急に矛先を
私に変えて来た

昔から、ようこんな瞳で見られるけど

みんなが思うような、甘い事なん、何も無いねん
期待されとるような事も無い

悲しくなるくらい、何も無いねん、ホンマに

それやのに

平次に相手にされへんかった腹いせを
今日もまた、全力で私にぶつけて来る女の子達

私かて、鉄のオンナや無いんや

矢継ぎ早に、罵詈雑言を浴びせて来る面々を前にし
て、じわじわと自分が凍りついて行く感覚になった

「和葉!」

飛んで来た声に、はっとして身を交わしたけど、ぼ
んやりしとったせいで僅かに反応が遅れてしもうた

興奮した女の子がナイフを振りかざしたんや

お気に入りのマフラーが切れてしもうて

突然現れた鬼の形相の平次に、我に返ったんか、
女の子達は、悪いのは私やと言い捨てて逃げた

紅葉も、執事が連れ去ってしまう

私は、切られてしもうたマフラーを手に
茫然とするしかない

お母ちゃんに買うてもろうた、お気に入りやった
チェック柄が気に入ってたんやけど

これやもう使えへん

怪我してへんか?とか、慌ててる平次に
大丈夫や、いつもの事やし、と言うたら、顔色を変
えられた

「どう言う事や?」

怖い顔をした平次に、「構わんといて」と言うて

私は逃げた

自宅に帰って、切られたマフラーを手に、泣いた

何で、こんな目に遭うん?

何で、いっつも私の大事なもん、壊されないとアカ
ンのか、わからへん

中学受験が終わった時
お母ちゃんが色違いで平次と私に贈ってくれたやつ
やってん

もうそのメーカーの取り扱いもこの辺や無くなって
しもうて、手に入らへん

もっとも、平次は出先で無くしてしもうて、とうの
昔にお揃いやなくなってたんやけど

マフラーを畳んで、机に置いて
着替えて顔を洗うて、身支度を整える

予想通りのタイミングで、玄関のチャイムが鳴った

私は、深呼吸して、扉を開けた

一生懸命に普通を装って、何とか対応したけれど
きっとおばちゃんは、お見通し

お菓子のお裾分けを届けてくれたんやけど、長いつ
きあいやから、わかる

多分、平次に頼まれて、私の様子を見に来たんや

私が平次やったら、絶対に鍵を開けへんってわかっ
とるから、平次は自分やなくおばちゃんを遣わせた

おばちゃんやったら、私が対応せえへんワケ無いっ
てわかっとるから

もろうたお菓子をひとつ、封を切って口に運ぶと、
レモンの爽やかな香りと、甘味を感じる

檸檬ケーキやねん

優しい味のそれを食べて、気を取り直して家事やら
宿題をやって、今日は大好きな本と音楽に浸ってか
ら眠りについた

翌朝、いつものように登校しようと、マンションの
エントランスを出ると、平次が居た

私からいつも通り弁当の包みを受け取ると、鞄に入
れて、歩き出すので、ついて行こうとすると、いき
なり振り返り、私のダッフルコートの襟元を上まで
きっちりと締めた

風邪をひかれたらかなわんやろ、と言うて、背を向
けて歩き出す背中を見て、気がついた

平次の首に、最近お気に入りでしとったスヌードが
見当たらない

代わりに私にしたのと同じように、きっちり衿元を
締めとる

寒がりの平次にしたら、珍しい事や

それを見て、それが平次なりの詫びなんやなと理解
して、これ以上、くよくよすんのはやめようと思う

放課後

部活を終えて帰る支度をしとると、平次が現れて、
そのまま一緒に帰る事になった

寄り道するぞ、と言うた平次に連れられて行った先
で、平次がスヌードをふたつ買うた

「ホンマ、平次、それ好きやね」

「おう、バイクでも解けないし、ええで」

そう言うと、ひとつを身につけて満足そうな顔をし
て、いきなり私にもう一つをつけた

「暖かいやろ?」

そう言うて、にっ、と笑うと、さ、帰るでーと言う
て歩いて行ってしまう

慌てて後をついて行くと、これやったら、どっちが
どっち使うてもええやん、お得やろ、とニコニコ

平次がしとるのは、濃紺の編みが可愛いタイプで、

私に平次がつけたんは、グレーに細いパウダーピン
クのラインが端に入っているタイプ

どちらもユニセックスで誰がつけても浮かない感じ
のええスヌードやった

確かに平次が言うてる通りに暖かい

「なぁ、和葉」

オレは、探偵や

せやから、凄惨な現場に立った事もあるし
危険な目にも遭う

でもな、和葉

それでも、オレは、そんな現実が「当たり前」や
とは、絶対に思わへん

あってはならへん現実やと思うてる

銃を突きつけられるのは、怖い事や
ナイフや爆弾やってそうや

そんなん、絶対に、慣れたらアカンねん

「オレが知らんところで、和葉に嫌がらせが仰山あ
る事は、わかっとる
オマエのツレ達にもどやされたし、晃にも翠にかて
叱られたからな」

知らんふりしとったワケやない

出るタイミングを間違えたら、長引くやろうて考え
て、あちこち調整しとったんや

騒ぎの根本原因は、オレやからな
オレが落とし前つけなアカン事やねん

「和葉が悪いわけとちゃう
ホンマに悪いのは、嫌がらせをするやつであり、
オレやから」

ただ、一つだけ、和葉も悪い

ナイフ振りかざした奴と遭遇して
ようある事なんて、絶対に思うたらアカンで

嫌がらせを受けて
当たり前やなんて、思うな

怖かったら、怖いってちゃんと言うんや
嫌やったら、嫌やって、オレに言うたらええ

「せやないと、いつか死んでまう」

寿命を全うして召されるならええけど
そんなんで生命落としたらアカンやろ

和葉の生命は、和葉だけのもんとちゃう
せやから、ちゃんと最後まで使うんや

「解るか?オレが言うてる意味」

平次の双眸をじっと見ていた私は、頷く

「騒がしい奴等は、ただ単に騒ぎたいだけや
ホンマのオレを見たら、逃げ出すで?」

今どき、銃槍やら刀傷やら、槍の傷がある高校生な
んて、居らんやろ

見ても逃げへんのは、和葉だけや

オマエは、全部、知っとるからな
オレの身体に出来た傷が、何で出来たんか

理由も意志も知っとる和葉以外、たじろぎもせず、
直視出来るオンナは居らん

「オレは、そう思うてる
せやから、いちいちまともに相手なんせんでええ
オマエがいちいち呼び出しに応じる必要もない」

贔屓や、言うやつには、言うておけ
オレが、エコ贔屓しとるんやから、当たり前やって

特別扱いや、言うやつには、言うておけ
オレが、特別扱いしとるんやから、そらそうやろって

狡いって言うやつにも、
オレが、ズルしとるんやから、当然やなぁってな

「そんなん言うたら、嫌なオンナやないの」

「ええんやないか?オレも大概、嫌なオトコやし?
丁度、釣り合うてるやろ?」

オレは、そんな事よりも、和葉に諦められる方が何
倍も嫌や

期待されへんようなオトコにはなりたく無い

せやから、オマエは少し堂々として、嫌なオンナに
なれ

ええな?

そう言うと、よし、ホンマに帰らんと、オレの黒歴史
が一般公開されてまう、と言うた平次が、私の手を繋
いで走り出した

ホンマ、勝手なオトコで困る

困るけど、アホなオンナの私は、この恋の諦め方が、
わからへん

どこまで頑張れるか、ホンマにわからんけど

もう少しだけ、このわがままな傷だらけのオトコに
ついて行こうと思う

傷のひとつをつけてしもうた犯人として
私なりの、愛情表現として

力一杯のツッコミを入れて、追い越してやった

to be continued