名探偵コナンから、平和な2人をべったべた
に平和に


微睡みの中で 3


偽装とは言え、疑似妊婦の和葉と街に出た
ふんわりとしたワンピースの和葉は、普段の
溌剌とした雰囲気とは真逆で、何やちょっと
先の姿を見せてもろうてるみたいや

オレ達が、最初に向かったのは神戸

オカンが予約しとってくれた部屋に入ると、
時間差でSPも現れた

寝室で、和葉の身体から疑似妊婦の装置を外
してやって、肩や背中、脚をマッサージして
やった

「めっちゃ楽になった」

平次、おおきに、と笑う和葉は、やはり一日
中、数キロの重たい重りをいきなり身につけ
ていた反動か、かなり疲れた様子

「オレ、街中で見かけたオカンらに、もっと
優しゅうせんとアカンな」

これを臨月まで護り抜いて出産するって、や
っぱり大変や、と思うたんや

交代で風呂に入って、折り重なるようにして
ソファに倒れ込んだ

オレもな、普段と勝手が違う和葉を護りなが
ら歩くのに、神経使うて疲れたんや

深く身体をソファに沈めて座り、同じく隣で
同じようにして座る和葉を抱き寄せた

「平次?」

「予行練習や、思うとけ」

胸元に抱き寄せた和葉の髪にわからんように
キスをして、回した腕の先で、揃いの指輪を
した手を重ねた

「色々、わかっとるつもりやったけど、実際
に街を歩いてみて、わかる事もあるんやな」

妊婦には、ちょっとした段差も、お腹で見え
へん事もあって危ない、とか

「せや、それは私も始めて知った!」

あれやと、足の爪なんか絶対、自分や切れへ
んと思うし、と言う和葉

「歩調とかも、やっぱり変わるよな」

そうやね、と笑う和葉の身体から力が抜けて
重ねた手も、ほんのり暖かくなる

すうっ、と眠りに入るまでは、あっと言う間

こて、とのんきに眠り始めた和葉に、オトコ
としては、複雑な気持ちになった

眠り姫を片腕に収めたまま、オレは明日から
の予定について、SPに報告、打ち合わせをし
てから、和葉を抱き上げて寝室へと入る

昨日までの部屋は、ツインみたいな寝室やっ
たけど、今日はダブルの部屋みたいやった

仕方がない、と言う振りをしながら、和葉を
ベッドの真ん中に寝かせて、オレもその隣に
滑り込んだ

ふと、眠る和葉の眦から、キラキラしたもの
が滲んだ事に気がついた

そっとそれを抑えてやった

和葉はあの後、一言も訊いてへんのや
自分の親は、大丈夫なんか、と

自分の親を、それを助けている面々を信用し
てへんワケやない

それでも、一人娘としては、案じてへんワケ
や無いねん

今日も、慣れない疑似妊婦の装置が重くて、
それだけで大変やったワケや無い

オレに、一生懸命くっついて歩いて、話をあ
わせて演じる事と、行方を聞けない親をずっ
と案じていた事に、疲れたんやと思う

ケガ、せえへんように護ってやる事は出来た
としても、そのココロまで護ってやる事は、

「現在のオレでは、まだまだ役不足っちゅう
ワケやな」

少なくとも、いつかの将来、和葉がホンマに
オレの嫁になってくれて、母になる日を控え
るようになる頃までには、

オレも、研鑽を積み、精進させてもらう

足りない力は、寄り添う事で免じてもらおう
少なくとも、現在は

そう思うて、和葉を抱き寄せて、オレも微睡
みの中へ堕ちる

おやすみ、和葉
お疲れさん

きっと、和葉の両親だけやのうて、オレのと
ころも、夫婦揃って案じているハズや

取り敢えず、逃亡初日は乗り切ったで

そう思いながら、オレもいつしかその意識を
ゆっくりと手放していた

to be continued