名探偵コナンから、平和な2人のたまにはこん
なお話を
「手紙」に纏わるお話を連載で

手紙 -3

論文執筆の手を止めて、気分転換に書斎の整理
を始めた

私と平次の書斎は同じ部屋

片側の壁に、一枚板のテーブルと、左右に同じ
大きさの本棚
椅子も、引き出しキャビネットも全く同じ

平次がこだわって、桜の木で作られたこの書斎
を、私も平次も愛用しとんねん

反対側にはソファベッドが置いてあって、私は
ようそこで寝てしまい、平次に苦笑されるんや
けどな

大人になって、机をまた並べられるって、何や
めっちゃ贅沢な気分になんねん
磨きあげてピカピカの机も、ええ感じの色合い
になりつつある

不要になった書類をシュレッダーして、片づけ
ながら、ふと、引き出しの中の箱を開けた

大事な手紙はここに全部あんねん
その中に、懐かしい名前を見た

ー白馬優

私は知らんかったんやけど、皐月堂の事件の後
私と白馬くんの見合い話が進んでいたらしく

この手紙は、平次が私との婚約を発表した雑誌
が発売された直後、お祝いの花籠と共に届けら
れたんや

おばちゃんには見せたけど、おばちゃんに言わ
れて、平次には見せてへん手紙

”きっと、良い夫になると思いますが、万が一
そうではなかった時は、ご連絡ください
約束違反だと、厳しく罰します”

そう結んであった手紙には、お見合いを阻止す
るために、平次が訪ねて来た事や、そこで交わ
された約束が、詳細に書いてあんねん

”彼は性格上、決してこの事を明かさないと思
いますが、僕は、君は知っておくべき事だと思
い、筆を取りました”

と言う書き出しに、私は緊張しながら読んだ日
の事を忘れてはいない

自分が思うてた以上に、平次はとても深く自分
との事を考えて、慮って行動してくれとった

その優しさや、覚悟を、私は忘れてはいけない
し、知らないままで居てええはずはないと思う
たし、報せてくれた白馬くんに、感謝してる

実は、焼もち妬きの旦那さんには言うてないん
やけど、この手紙をもろうた後、私はおばちゃ
んと一緒に、白馬邸をご挨拶に伺ってんねん

ちゃんとおばちゃんからもろうた指輪もつけて
服もおばちゃんと吟味してな

工藤くんも中々王子キャラやなぁ、思うてたけ
ど、そのはるか上を行く王子っぷりに、帰りの
車でおばちゃんが、和葉ちゃん、ホンマにええ
の?と言うたくらいやねん

優しい紳士やったけど、私にはやっぱり平次が
ええって、思うたし

現在は、弁護士探偵として活躍中と聞いた
平次も、事件で東京に行った時、何度か遭遇し
たと言うてたし

きっと、ええ家庭を持って、元気に活躍しとる
事やろうと思う

挙式披露宴にも顔を出してくれた時、ロングヘ
アの大人っぽい美女を同伴していたから、多分
あの人と一緒になったんやないやろか

何せ、平次が機嫌が悪くなるんで、あんまり詳
細を訊けて無いんや

お見合いを上手くなかった事にしてくれて、お
かげでお父ちゃんは今日も刑事をしとるし、私
は平次のところへちゃんと嫁ぐ事が出来て

もう間もなく、2人の我が子と対面出来る

ぽこぽこのお腹を蹴られて痛い
最近は、手形まで浮き出てくんねん
暴れ馬の予感しかせえへんけど

もうすぐ、この胎動も感じなくなるんかと思う
と淋しい気もする

ぴろん、と音がして、平次からのメールの着信
に気が付いた

どうやら、もうすぐ帰って来るらしい

ホンマは非番やったんやけど、ちょっと手助け
に行って来る、言うて飛んで行ったんや

幸い、幼なじみん時の口の悪さは何やったんや
と思う程、平次はええ旦那さんになった

忙しいのは相変わらずやけど、休みの日はたく
さん私の相手をしてくれる

オレの子が疲れるから、重いモノを持つなー
とか
オレの子が疲れるから、ちょこまか動きまわ
るなー、とか

…まぁ、煩いけどな(笑)

取り敢えず、結婚して10年目が近くなっとる
けど、今のところ、白馬くんに出動願う事態に
はなってへんよ

そっと手紙箱を引き出しにしまって、私はよい
しょ、と立ち上がって、昼食を作るべく、キッ
チンへと向かう

さすがに重いお腹に、足腰が悲鳴を上げてはい
るけれど、これもあと少しや

キッチンに辿り着いた途端、玄関からドタバタ
と物凄い音を立てて平次が飛び込んで来た

「あー、間に合った…」

春先やと言うのに、額に汗が浮かんでる
それをタオルで拭うてやると、ただいま、と言
うてちゅーする平次

「おかえり、平次」
「おう」

ぎゅ、として、私のお腹を見て、オマエら、邪
魔が出来るんも、今だけやで、と言うて不敵に
笑う

アンタ、お腹に居る我が子に、何をライバル心
燃やしてんねん

「当たり前やん、オレの和葉を、特別に、貸し
てやんねん」

我が子と言えど、そのレンタル期間はもちろん
有限、や

どや顔で笑う平次に、私は唖然

なぁ、平次
アンタ、いったいどんだけ私の事、好きなん?

「せやから言うたやろ、オレを独占しとんのや
当然、オレも和葉を独占するでーって」

悪びれる様子もなく、爽やかに笑う旦那に、何
となく、バックダッシュしたくなるけど

「お昼、何にする?」

とくっついて聞く私に、今日はオレが、と言う
て、私をダイニングの椅子に座らせると、さっ
さとエプロンして支度を始めた

どうやら、おばちゃんから差し入れをもろうて
来た様子

「あ!おそうめんや!」
「おう」

服部家と遠山家のそうめんは、賑やかやねん

錦糸卵、海苔、おネギにミョウガに大葉やろ
シイタケやかんぴょうの甘辛く煮た奴とか、

細切りキュウリ、揚げ玉などなど、たくさん
トッピングを用意して、各自が好きな具を入
れて食べるんや

おつゆも、ストレートのやつと、胡麻の2種
あんのやけどな

「「いただきます!」」

つるつる食べるおそうめんは美味しい
ちょっと食欲が落ちてる私には、もって来い
やけど

さすがおばちゃん、平次はそれだけや足りな
いと踏んだらしく、かんぴょう巻きとお稲荷
さんも持たせてくれとった

私も子供ん頃から大好きなお稲荷さんをひと
つもろうて食べる

程よい甘さのお稲荷さんは、今も変わらずに
美味しかった

「夕方、オカンが来る言うてたわ
何や、和葉に食べさせたいもんがあるとか言
うてたで?」

「ホンマ?何やろ、めっちゃ楽しみやー」

食べ終わったお皿を、2人で片づけすると、
平次が上に掛けるものを手にして来て、2人
でソファに並んで座った

「たまには、一緒にのんびりしようや」

元気玉が2つも飛び出て来たら、暫くはこん
な時間は無理やからな、と笑う平次が、私の
肩を抱いて、上に掛けてくれて、一緒にくっ
ついて撮りためていた番組を見た

お腹を撫でたりしながら、キスをする平次と
贅沢な時間を過ごす

「めっちゃ楽しみやー
まぁ、大変やろうけど、何とか頑張ろうや」

「うん」

平次に撫でられると気持ちがええんか、つい
さっきまで大暴れしとった2人の動きもゆっ
くりとなる

眠いんかな?
どうやろな?

ゆらゆらと微かに動く2人を感じながら、そ
っと思うた

白馬くん、白馬くんがくれたこの日々を大事
に2人で生きてます

これからは、4人で、生きていきますよって
ーホンマに、おおきに

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to be continued