名探偵コナンから、平和の2人の平和な日
常をさらりとお届けします

Hello my… 1

皐月堂からの脱出劇に、工藤くんの修学旅行
騒動と、大騒ぎの秋が過ぎて

相変わらず事件に飛んで歩く平次と、合気道
や剣道部、かるた部の活動に忙しくなった私
は、なかなか一緒に居られんようになった

今日も、おばちゃんに言われて立ち寄ったけ
ど、服部邸に肝心の男は居らず

もしかしたら、帰って来るかも、と期待して
いた分、帰り道の足取りは重くなった

そんな中、平次のファンクラブの面々が騒ぎ
始めたんや

平次が女連れでとある商業施設内を歩いてい
たと

私も行ってみたい、と強請ったけれど、オマエ
には似合わんと一蹴された場所やった
おしゃれなお店がいっぱい入ってるところで、
気になるお店が何店か入ってたんやけど

案の定、数分で、私の元へも問い合わせが殺到
したし、ご丁寧に、証拠写真も山のように届く

寄り添い歩く様子は、ホンマに恋人同士のよう
で、穏やかな笑みを浮かべる平次の横顔は、そ
の時間を心底楽しんでる顔やった

ひっ、と息をのんだんは
その平次の笑顔を受け止めてる人を、私はよう
知っていたから

紅葉ちゃんや

しかも、立ち寄っている店は、どこもかしこも
私が雑誌を見ながら、行ってみたいとお願いし
たお店ばかり

一番、恐れていた事が現実になると言う事は、
こう言う事なんか、と、他人事のように受け止
めた私

そうか、平次は紅葉ちゃんと付き合う事にした
んやね

ホンマは、私、あの後、平次に告白しようとし
たんや

頑張ったんやけど、何や毎回、上手い事かわさ
れてしもうて、ちゃんと伝えられへんかった

でも、今になって思うと、平次は私の様子から
告白されるってわかって、避けてたんやろうな

言うてしもうたら、
聞いてしもうたら、
もう、ただの幼なじみには、戻られへんって

あぁそうか、と思うたら、何もかも、スッキリ
して、腑に落ちた

私、告白も出来んまま、失恋してしもうたんや

その日、学校からどうやって家に帰ったのか、
わからんかったけど、気が付いた時は、自分の
部屋で大泣きしとった

夜になって、久しぶりに蘭ちゃんから電話があ
った

工藤くんは、あの後も事件ばっかりで一向に帰
って来ては無いと言い、このままやと、留年に
なるかも、と蘭ちゃんは心配しとった

「和葉ちゃんは、最近どうなの?」

「それがなぁ、」

平次もずっと不在が続いてて、学校の授業には
最低限顔を出すんやけど、すぐに出かけてしも
うたりで、全然話も出来てへんの、と言うと、
そうなの?と言う

蘭ちゃんが言うには、先週末はずっとそっちに
来ていて、私は忙しいから置いて来たと言うて
たらしい

誘われても無い

それに、先週末は、久しぶりに稽古もなくて、
平次とどっか散歩でも行こう思うて服部邸を
訪ねたんやけど、誰も居らんかったんや

結局、ひとりで散歩して、家に帰って勉強し
てお休みは終わってしもうたんや

「そんな!だったら、私、和葉ちゃんと遊び
に行きたいところ、たくさんあったのに」

「ごめんな、蘭ちゃん」

「和葉ちゃんが謝る事ないよ」

蘭ちゃん、私な、告白もしてへんけど
振られてしもうたみたいや

「は?」

平次が、紅葉ちゃんとデートしとる写真がこっ
ちで出回っている事

平次が、嘘ついて、私を置いて週末東京へと行
った事

メールもメッセージも電話も無視されたまんま
ここ3週間近くは、学校でもあんまり話をして
へん事を蘭ちゃんに伝えた

「私な、紅葉ちゃんには悪いけど、もうこれ
以上は待てへんと思うて、何遍か平次告白をな
挑戦してみたんよ」

でも、ものの見事に全部かわされてしもうてん

そのうえ、この仕打ちや
空気、読んでくれっちゅう事やろ?

「待って、和葉ちゃん、まだそう結論づけるの
早いよ!」

優しい蘭ちゃんは一生懸命私を励ましてくれた
何か、理由があるはずやと
せやから、もう少し、待ってろって

「ううん、もうええねん
平次ん事、困らせたいワケとはちゃうし
それに、幼なじみやって事まで否定されたくは
ないから」

蘭ちゃんは、事件がらみで和葉ちゃんと距離を
置いて護ってるんじゃないか、と言うてくれた
けど、平次が現在事件を追ってるワケや無い事
は、知ってんねん

あんまりにも不在が続くから、大滝ハンにかま
かけて聞き出したんや

案の定、最近は平次を呼び出してへんと言う事
がわかった

私がそんなん知ってるとも知らず、平次は堂々
と嘘を吐いて学校を飛び出してるんや

これはもう、確定やろ?

翌朝、酷い頭痛がしたけれど、テスト前の大事
な時期やから、頑張って登校した

最近、歩くのもしんどい時がある

食べてもらえへんお弁当を持って行って、結局
放すしか無いのも、正直、辛い
でも、今日は来るかも、と思うと、作らんワケ
にも行かず

今日も2つのお弁当を持って、登校した

待ち合わせ場所に居らんかった平次は、もう教
室に居った

「よお、和葉、何や朝からめっちゃ不細工な顔
しとるで?」

けけけ、と意地悪な顔をして無邪気に笑う平次
に、どうしようもない怒りがこみ上げた

お弁当と鞄を全力で平次に投げつけて、私は
全速力で教室を飛び出した

すれ違う友達に、和葉?と呼ばれた気もしたけ
れど、私は振り返りもせず、学校を飛び出して
街へと出た

いきなり走ったせいで、くるくると目が回る
公園で少し呼吸を整えて、私は家に帰った

玄関の鍵をかけ、万が一、平次が追いかけて来
たら、合い鍵を持ってるからチェーンもかけた

鞄の中に携帯も御守りも財布も入ったまんまや
と気が付いたけれど、もうどうでもええと思う

朝からの片頭痛は、さらに酷くなって、眩暈も
激しいけれど、ぎゅっと布団の中で丸まって、
必死に堪えた

家の電話がずっと鳴ってたけれど、立ち上がる
力も無くて、私はそのまま意識を手放した

どれくらい気を失ってたんか、部屋に差し込む
日差しが、変わっていたけれど、家の電話は、
まだ鳴り続けていた

表示される番号を見て、平次の携帯やってわか
った私は、問答無用でコードを抜いた

留守電も、目いっぱい入ってるみたいやけど、
聞く気力は無い

制服を脱いで、部屋着に着替えようと思うたけ
ど、身体が重くてのろのろしか動かれへん

どないしたんやろ、風邪でも引いたんやろか

ぼんやりしながら着替えた後、洗濯物を洗濯機
に放り込んで部屋に戻ろうとしたんやけど

「あ、アカン…」

急に腰が抜けてしもうて、廊下で座り込んでし
まう私

ぐるぐる目が回って、壁に背をあてて座って
いたんも、辛くなって、ぺたん、と廊下に顔を
くっつけて横になる

怖い、気持ち悪い

電話、と思うけど、携帯は持ってへんし、家の
電話は自分でコードを抜いてしもうたし、それ
にもう、1ミリも動ける気はせえへんかった

「迷った時は、動くな
じっとして、体力温存しとくんや」

いつかの日に、平次に言われた事を思い出す
せや、少休んだらきっと大丈夫や

怖いけど、ぎゅっと目を瞑って手を握った

to be continued