和葉の黒くて大きな瞳は、光に照らされると
仄かに蒼い光を放つ

平次の切れ長の黒い瞳は、光に照らされると
仄かに碧色の光を放つ

蒼と碧、互いの瞳に映るのは



~蒼と碧~


京都からの来襲者に、ぐちゃぐちゃにされた
オレの計画を立て直すべく、身体は疲れ切っ
ていたものの、和葉を攫うようにして連れ出
したオレ

今度こそ、と意気込むのがアカンのか、また
しても事件に遭遇してしまい、思わぬ足止め
をくらったオレら

和葉のナイスアシストで、早々に事件解決を
出来たんは良かったんやけど…

土砂降りの雨の中、長時間犯人らと対峙した
んが最後のダメ押しやったみたいや

どうにか宿泊先のホテルに辿りついて、危う
く宿泊拒否されそうになったんを、和葉の機
転で切り抜けて、部屋に入った途端にオレの
意識は途絶えた

-**-**-**-**-

部屋に入るなり、ぐらり、と揺らいだ平次の
身体を、支えようとした私は、そのまま押し
倒されてしもうた

恥ずかしいとかそんなんよりも、のしかかる
平次の身体の異常な冷たさに、私は慌てた

どうにかこうにか身体の下から這いずり出て
大慌てでバスルームに飛び込んで、湯船に
お湯を張り、タオルをかき集めて部屋に戻る

まずは自分もぐしゃぐしゃな服を脱ぎ捨てて
バスローブを羽織り、平次からも服を剥ぎ取
って、バスローブとバスタオルで身体を包み
布団に押し込んだ

平次は滅多に熱は出さへん代わり、一度出
すとめっちゃ高熱になんねん

真っ青な顔でガタガタ震え始めてるから、
こらアカン、と思うた私

フロントに電話して、加湿器貸してくださいと
言うのと、アイスノンみたいの借りれません
かとお願いすると、すぐにタオルと一緒に持
って来てくれた

着ていた服を2人分、そっくりクリーニングに
預けて、私はとりあえず、持って来た服に着
替えたんやけど、平次の荷物を見てタメ息
を吐いた

…パジャマ、どないするつもりやってん

ジーンズの替えはあるものの、ジャージっぽ
いものもはひとつも持ってへん

室内を探して、浴衣を見つけた私は、平次が
目を覚ましたら着替えさせるために用意した

とりあえず、私がやっつけ仕事で平次に着せ
たバスローブをちゃんと直してやって、余計
なタオルとかはどかして、平次をベッドに寝か
せてから、私は電話をかけた

「たくさん水飲ませて、ぐだぐだ言うたらな
張り倒して気絶させてやったらええわ」

汗かいてしまえばすぐに熱は下がる、と言う
豪快なおばちゃんのアドバイスを、私はどこ
までホンマにしてええんかと思いつつ、判っ
た、と返事をした

「どうして、こない無理したんや、平次」

どう考えても無理やと言うたんや、私は

だって、紅葉ちゃんの一件で、大変な事件と
騒動に巻き込まれた私達
特に平次は、めっちゃ大変やってん

だから、出かけるで、と誘われた時も、少しは
休まなアカンよ、平次、と言う私に、オレは若
いし心配すな、言うてな、珍しく意地になって
たんは平次の方やったんや

おばちゃんも、最後は呆れ顔で、和葉ちゃん
やって疲れてんのになぁ、ゴメンな少しだけ
付き合うてやって、と言うてたくらいなんや

苦しげに眠る平次の顔にかかる髪を、そっと
指先でのぞいてあげた

何か、平次にとってはどうしても行きたいと
思う理由があったんやろうけど
私には思いつかんかった

平次の眠りを妨げんように、そっと私は湯船
に身体を沈めた
私まで、ダウンするワケには行かないから、
ちゃんと身体を温めてから、部屋に戻る

ドライヤーは諦めて、タオルドライにして、
平次の熱を測ったり、加湿器の調整をしたり
しながら、様子を見守った

ホンマは湯船に入れてあげたいんやけど
その方が温まるのが早いから

でも、熱を出す直前やし、と私は熱めの湯に
浸したタオルで、足先から丁寧に拭ってあげ
る事にした

両足をタオルで温めてから、両手を少しずつ
温めてあげると、カタカタ震えてた身体が、
少しずつ落ち着いた

しっかり布団をかけて、首筋や顔もそっと拭
ってあげると、ちょっとだけ、血の気が戻る
寝顔に、ちょっとだけほっとした私

タオルを片づけて、寝るための支度をした私
は、色々考えて、行動に出た

自分の分のベッドから、上掛けを外して平次
に掛けて、自分も支度して、平次の布団に、
一緒に潜り込んだんや

よいしょ、と平次の身体にくっついて、その
震える背中をさすってあげた

やっぱり、熱が上がる直前の寒気や悪寒に
襲われてる様子で、すぐにまた、カタカタとな
震え始まったからやねん

寒い、寒いと呟く平次が、私の事を布団か何
かと間違えとんのか、ぎゅうぎゅうと抱きつ
いて来た

ひゃぁ!

冷たい掌が、カットソーの裾から侵入して、
私の背中を撫でまわしてんねん💢

温いんか、触れてるとおとなしくなった平次
に、平次のスケベーと、耳元で囁いてみたけ
ど、くっついたまんま、すうすう眠り始めた
王子様には届かんようやった

くっついてたんが効果的やってんか
人の背中弄ってたんが効いたんか

間もなく平次は盛大に熱を出し始めた

でも、腕は解いてもらえへんかったから、用
意しとったタオルで汗を拭ってあげたりしな
がら、私は抱えられたまんまやってん

(服に突っ込んだ手はどかそうと思うたけど
動かれへんかったんや)

背中にくっついた掌は、もう十分温まってて
熱いくらいやねんけど

こんなにくっついて居られるなん、無いから
そのまま平次の胸に頭を預けて目を伏せた

早う元気になってな
せやないと、アンタがホンマは何処に行きた
かったんか、私は判らんよ

震えが止まった背中をそっと撫でながら、私
は眠りについた

-**-**-**-**-

不意に目が覚めた
身体が燃えるように熱いのを感じて、あぁ、
やっぱり熱が出たか、と思うオレは、腕に抱
えた枕に顔を埋めようとして、固まった

さらに、自分の手の在り方に気付き、完全に
思考が停止した

オレは何をしてん?
そして、のんきに眠るコイツは、何や?

自分の両手は、幼なじみの服の中や
そして、さっきから気持ちええな、と思うてた
んは、その背中で、その素肌やねん

幼なじみのカットソーは、オレが手を突っ込
んだせいで、裾が捲れ上がり、滑らかな薄い
腹が見えてん

はっ、と思うと、オレは何とバスローブ姿やし
ギリギリ、パンツは自分が穿いて来たものや
ったけど、濡れた服は全部、脱がされた様子

(脱がす事は何度も想像しとったけど、まさか
脱がされるとは想像もしてへんかったな)

ゴメン、と思いながら、ホンマは離したくは無
い掌を滑らせて、服を直してやって、手を外
した

…コイツ、こない小さかったっけか?
あ、そうか、オレが大きいなったんか

子供の頃は、どんぐりのせいくらべやった
いつしか、これだけ、対格差が生まれてた
と言うわけか

すうすう眠る顔は、まだどこかあどけない
でも、オレにぴったりくっついてる身体のそ
のラインは、もう、子供や無い

…オレも、もう、子供のそれや無い

何も考えず、こうして無邪気に一緒に寝てた
なんて信じられんくらい、オレも、和葉も成長
したんやな、と改めて思うと、少しだけ感傷的
な気持ちになった

嬉しいような、淋しいような

そっと腕を深く差し込んで、眠る和葉を深く
抱きしめてみた

普段とは違う香りやけど、見飽きる程にずっ
と近くに在った温もりに、不意に泣きそうにな
るオレがいた

何でやろな

しばらくそうしとってから、オレはそっと抜け
出してシャワーを浴びて、身体の火照りを
沈め、部屋に戻った

ドアノブに、洗濯物が届いていたので、受け
取ったり、着替えたりしてから、オレは荷物
から本を取り出してまた和葉の隣へと潜り
こんだ

まだ付き合うても無いのに、こんなに近くに
居る機会など無いから、傍を離れたくなかっ
たんや

さすがに向き合うと衝動を抑えられる自信
が無かったので、うつ伏せになって本を読
みながら、時々和葉の寝顔を確かめる

付き合ったり、結婚して、こうしてパートナー
の寝顔を傍に見る男の気持ちが、少しだけ
判るような気がした

何とも言えん、穏やかな気持ち
ずっとこのまま、こうしててくれへんかなと
思う気持ち

なんとなく、我慢できずに、頬に軽くキスを
ひとつ落としてみた
すると、うにうに動き出す和葉

ゆるゆると瞳が開くのをじっと見ていた

「へえじ?」

寝起きのまだぼんやりした瞳
へぇ、コイツこんな感じで目、覚ますんやと
思うオレ

(そら、いくら家によう泊まってるとはいえ、
一緒に寝落ちでもせん限り、同じ部屋で
眠らんし、寝起きを拝むなんて機会、無い
からなぁ)

「オレや無かったら、誰やねん」

うにっとその柔らかな頬を軽く抓ってみたら
痛い、と抗議を受けた

「熱、下がった?」

伸びてきた小さな掌が額に触れる
いつも思うけど、心地ええんよな、この指

もう大丈夫や、と言うて、おおきに、と言う
とふにゃりと笑う

「平次」

「ん?」

「おなかすいた」

…オマエはそれかい(笑)
ったく、しゃーないな

「せやかて、平次が倒れたから、私も夕飯
食べ損ねたんやもん」

言われてみれば、オレの腹も鳴り出した

「飯、食いに行くか?」

「うん、平次はもう大丈夫なん?」

「あぁ、大丈夫やって」

オレはもう支度出来てるから、オマエ、
早う支度して来いや、と言うと、うん、と言う
てさっさとベッドを離れて行く

あまりにあっさり飛び出されて、オレとして
は淋しい限りやけど

窓の外を見て、近くに喫茶店があるのを確認
したので、和葉の支度が済んでから2人で行
ってみる事にした

to be continued