■scene:09_side Heiji


事件を追って、何処よりも早く初雪
が舞う街に居る

早う帰りたいんやけど、雪で交通機関
もマヒしとるし、バイクも無いので、
思わぬ足止めをくらったのだ

「平次?事件、解決したん?」

手持ち無沙汰で、たぶんそろそろ家に
帰った頃やろうと思って、和葉に電話
したんや

「おー、そっちは解決したで」

学校の様子を和葉から聞いて、テスト
の予定や、剣道部のスケジュールを
チェックする

雪景色を写メで和葉に送ると、はしゃ
ぐ声が聞こえる

「すごいなぁ、キレイやな」

顔は見えなくても、どんな顔で笑って
いるかはようわかる

雪が綺麗と笑うのは君がいい
でも寒いねって嬉しそうなのも

さっきまで聴いていた曲が頭に響く
せやな、何でかわからんけど
オレは和葉がええな

和葉は元気にしていて、オレがケガ
してへんか気にしてたけど、どこも
ケガしてへんと言うと、ほぅっと
ため息を吐いた

「早う帰って来て欲しいけど、事故
に遭ったら困るから、雪が落ち着く
までガマンやな」

さらり、と言われて、オレはドキッ
とした
帰って来て、逢いたいって思っても
らえんのや、と

和葉に事件の報告をして、こっちで
見つけた変な広告の話をしたり、
帰ったら食べたい物の話をしたり

「帰って来る日、連絡してや
ちゃんと、用意して待ってるから」

「ん?あ、あぁ、そうやな」

「あ、アカン、こんな時間や
お父ちゃんが帰って来てまう、夕飯
な支度せな」

平次、ちゃんと食べなアカンよ?
家に無事着くまで、油断したらアカン
ええね、と言い、電話は切れた

「小っさい子とちゃうって」

ため息を吐いたオレ

窓の外は深々と雪が舞い落ちて
降り積もっていた

結局、オレは3日間足止めをくらった
帰阪できた時は、もうへろへろ

自宅に辿り着いて、自室のベッドに
横になろうとすると、先客が居た
丸まって眠る和葉や

先ほどまで台所で奮闘していたと
オカンが言うてた
布団の上で丸まってる和葉の頬に
触れる

「ただいま、和葉」

こめかみに、頬にキスを

スヤスヤと寝ている姫は起きては
くれへんけど

好まれるような 強く優しい僕に
変われないかな

雪が綺麗と笑うのは君がいい
出しかけた答え胸が痛くて
渡し方もどこに捨てればいいかも
分からずに君から見えてる景色に
ただ怯えているんだ

最近、気になって仕方が無い
オレは、和葉から、どう見えてん
のかなって

和葉への自分の気持ちに気付いて
から、段々と、じゃあ、和葉から
オレはどう見えてるんか、と

眠る和葉は、安心しきった顔
心を許してくれとるのは嬉しいけど
少しは警戒、してくれへんかな

指先で頬を撫ぜ、柔らかな唇をそっ
と撫ぜた

「和葉、起き?風邪引いてまうで」

軽く頬を抓る
むずがるけど、目を覚まさない和葉

ちゅっと軽くキスをした

うにうに動くけど、まだまだ夢の中

両手で小さな顔を挟んで、声をかけ
てみる

漸く開いた瞳が段々と焦点を合わせ
驚いたように大きな瞳が開かれる

「目、落ちてまうで?
驚くのは、オレの方やろ、帰って
来たらベッド占領されとんのやから」

あ、ごめん、と真っ赤になってあわ
あわしとる和葉を腕に抱き起こす

「腹減った」

「あ、おかえりなさい、平次」

ごはんの支度するから、と慌てて
飛び出そうとした和葉は、自分が
ベッドの上に座っとると言うのを
失念した様子

寝起きと言う事もあって、脚がも
つれて転倒したんや
オレの上に

部屋の床に仰向けに倒れたオレ
乗っかる和葉
普段とは見える景色が逆

真っ赤になった和葉の柔らかな
身体を全身に感じる
これはアカン
さすがのオレも、理性が焼き切れる

上手く立ち上がれへん和葉を、思い
切って担ぎ上げて階下に降りる
これ以上2人きりは無理や
オレも、さすがに耐えられん

オカンは、真っ赤な和葉を担いで
降りて来たオレにギョッとした顔

「オカン、こいつ寝ぼけて敵わん
ベッド占領しとるわ、起きたら
転けてか弱いオレ、押し倒すわ」

「お、押し倒すなん、してへん
アンタの上に乗っかってもうた
だけやん」

「あら、平次、そんなサービス
してもろうたん?ご褒美もらえ
るような事、何かしたんか?」

「さ、サービスって」

「ご、ご褒美って」

「ま、どうでもええわ
和葉ちゃん椅子に置いて、アンタ
手伝いなさい」

和葉を椅子に座らせ、オカンの
手伝いをする

ホンマに、オレの好物ばかりが並び
目の前で、ほんのりピンクに染まる
和葉と、ひたすら飯を食べるオレを
交互に見ながら、夜叉は意味深な
笑みを浮かべていた