■scene:01_side Kazuha

imaging from  sign/JUJU

私と平次の誕生日は3日違い
私の方が3日だけ早う生まれた

せやから、小さい頃から誕生日は、
2人の誕生日の真ん中の日に、両家
揃ってお祝いする

今年は、嫌な予感がした

高校に入ってから、バイクに乗るよ
うになってから、平次の行動範囲は
一気に広がって、事件に飛び出した
ら、連絡はほとんどつかん

事件に飛び出す前、釘は刺した
誕生日、忘れんといてやって

判ってる、と言うてたけど、アレは
判って無い

もう生まれた時から一緒やから、
平次の返事の仕方や仕草で、
どうでもええわ、と思うてるかどう
かなん、簡単に判るねん

「今年は何もせんでええよ
たぶん、平次、帰って来ーへん」

おばちゃんには、無駄にならんよう
事前にそう言うた

「平次はどうでもええわ
あれはオマケやし、和葉ちゃんのは
ちゃんとしような」

優しいおばちゃんは、そう言うて、
例年通り、お祝いをしてもらえる事
になった

お父ちゃん達が仕事で飛び回ってい
て、今年はおばちゃんと2人だけ

17歳の誕生日は、怒ったおばちゃん
が、私を連れて買い物に出掛けて、
山の様に服を買ってくれた

平次からは、電話一本、メールも来
なかった

ホンマは、2人で海遊館行く約束や
ったんに

それも誘ったのは、平次やったのに

私の誕生日が過ぎて、平次の誕生日
になっても、何の連絡も無かった

私はええ
でも、アンタを産んだおばちゃんに
は失礼過ぎやろ、と怒りを覚えた

絶対、自分からかけるもんか、と思
うてたけど、さすがに頭に来て電話
をかけた

ま、すぐ、切られてもうたけどな

何故かすぐに蘭ちゃんから電話
平次、東京まで出張ってたらしい

「和葉ちゃんに用事聞いておいてく
れって、コナンくんと飛び出して行
ったよ」

蘭ちゃんによれば、数日前からずっ
と蘭ちゃんの家に滞在しているんや
って

「お誕生日おめでとうって言うてお
いてや」

せめて、おばちゃんには礼を言えと
伝言を頼んだ

「あれ、服部くんが今日なの?え?
じゃぁ、和葉ちゃん、もう誕生日、
過ぎちゃったんじゃない??」

「うん、もうとっくや」

「ええ!何で言ってくれなかった
の?お誕生日おめでとう!今度会っ
たら、絶対。お祝いするからね」

「おおきに」

蘭ちゃんは知らんかったんよ
ただ、話の流れで、平次より3日前に
生まれた、とは話した事があった

「ちょっとまって!」

「ん?」

「服部くんから連絡、ちゃんとあっ
た?こっちに来てる事も」

「何もないで?府警の呼び出しに、
飛び出して行ったきりやし、一度も
その後連絡も無い」

は?と蘭ちゃん
誕生日に連絡は、と言われたので、
全く無し、と素直に教えてあげた

電話越しに、天使が怒り狂っている
優しいなぁ、蘭ちゃんは

「ええの、いつもの事やから、もう
諦めとるし」

今度また遊ぼうな、と約束して電話
を切った

平次から、誕生日プレゼントなん
ロクにもらった事無いし
誕生日やって、いっつも面倒や、そ
ろそろ止めようやって言うてたし

ちょうどええ機会なんかもな

無理矢理祝ってもらったって、辛く
なるだけやし

でも、私は言うてあげたかったんよ
たとえ、返してもらえへんでも

平次の机の上に、誕生日プレゼント
を置いておいた

擦り切れていたバイク用の手袋

お父ちゃんが戻られんから、平次の
家に泊まる

隣の部屋に人の気配は無い

明日はお休み

海遊館のリベンジを強請ろうと思う
て、友達の誘いを断って予定を空け
ていたんやけど、無駄になってもう
たなぁ

おばちゃんも用事がある言うてた

家にひとりで居るのもつまらんし、
思い切って、ひとりで出掛ける事に
しよう

めっちゃめかしこんで、出掛けよう
おばちゃんに買うてもろうた新しい
服を着て

携帯の電源を切って、戻って来る
服部家のリビングに置いて出掛けた

口先だけの謝罪なんて聞きたく無い
どうせ、昨日、蘭ちゃんにめっちゃ
怒られたはずやから

行きたかった場所に、全部行って
見ようと思った

ひとつひとつ巡る場所
見たかった景色も全部

気が付けば、どれもこれも平次と
行った場所やった
それも、楽しかった想い出の場所
ばっかりや

気が付いて、立ち竦んでしまった

I miss you 逢いたくて ただ、逢い
たくて
あなたの背中 探すの
ふたり重ねた 想い出の場所を
ひとつ、ひとつ…と 辿りながら

あぁ、あの歌の通りやん、と思って
自然と涙が滲む

結局、意地張ってひとりで頑張って
も、辿るのは平次と想い出のある
場所ばっかりなんや、と気が付いて

街中で、ひとりで泣き出しそうにな
ったのを必死で我慢して、しつこい
ナンパを撒いて、意地になって、
それでも行きたいところを回った

海遊館もひとりで回ったし、植物園
最後に、プラネタリウムも行った

こんなに楽しい場所ばかりなのに、
ちっとも楽しくなかったし、ただひ
たすら、淋しかった

平次が居らんようになったら、私、
こんなに淋しいの、我慢せなアカン
のやなぁ、と思って

でも、プラネタリウムは良かった
涙が落ちても、ひとりで拭えたから

思いのほか外が暗くなり始まって
いて、慌てて帰宅を急いだ
もっと早う帰るつもりやったんよ

今日はおばちゃんも遅くなる言うて
夕飯は私が作ると約束しとったん

携帯も、リビングに放して来てしも
うた事を、めちゃくちゃ後悔した

急いで夜の献立を考えながら、服部
邸を目指して走っていたら、急に
背後から腕を掴まれて、反動で転け
そうになった

そのまま、相手にぶつかってまう

反射的に投げようとした時、オレ
や!と怒鳴られた

「このアホ!携帯放してどこほっつ
き歩いとんのや!!!」

痛いくらい掴まれた腕に、涙が滲む

せやって、私だってたまにはアンタ
に仕返ししてやりたかったんやもん
私がいっつも、どんだけ心配しとる
か、わかってよって

私がそう言うても、掴んだ腕を解い
てはくれへんかった

離せと暴れる私を、もの凄く怒った
顔のまま、腕を掴んで引きずるよう
にして歩き出す

つんのめって転けそうになった私を
荷物持つみたいな気軽さで担ぎ上げ
ると、ずんずん歩いて行く

話も聞いてくれん
離してもくれん

もう一日中歩き通しやった私は、
抵抗する気も無くなって、そのまま
荷物みたいに運ばれた

玄関で降ろしてもらえると思うたの
に、怒り狂っとる平次は、担いだ私
の脚から靴を取って、玄関に放して
そのまんまソファに私を降ろした

「オマエなぁ、ええ加減にせえや!
これ、見てみい!」

テーブルに投げられた平次の携帯

おばちゃんやおっちゃんからの履歴
が鬼のように並んどる

「平次やって、連絡せんのが悪い
んや!
たった1日だけやん、私が連絡せん
で飛び出したん
アンタなんか、しょっちゅうや!」

今までに見た事無いくらい怖い瞳で
睨まれた、と思うたら、そのまま私
はソファに組み敷かれた

「ちょっと腕に覚えあるからって
男の力、舐めんなや!
オレは男やからどうなってもええ
オマエは違うやろ!
同じや言うんなら、自分の力で解い
てみんかい!」

技をかけようにも、平次に全身を抑
え込まれて、一ミリも動けんかった

口惜しくて、泣き出した私は、平次
に抱き起こされて、そのままもの凄
い力で抱きすくめられた

「オレかて心配するやろうが、この
どアホ!
こんなん、他の男にされたいんやっ
たら、なんぼでもほっつき歩いたら
ええわ」

でもなぁ、そんな事したら、オレも
オマエも親父達に殺されてまうから
覚悟しとけ、アホ!と怒られた

「でも、今回はオレが悪い、ゴメン
ちょぉ、面倒な事件やったんや」

夕飯はオレが作るし、オマエはそこ
で休んどけ、と言って私を座らせる
と、平次は台所へ消えて行った

おばちゃんからの電話に慌てて出る
と、めちゃくちゃ怒られた私

夜、騒ぎを聞きつけたお父ちゃんが
顔を出して、何故だか私やなくて、
平次がスンマセンでした、と謝り倒
していた

「平ちゃんは、謝らんでええねん
大変やったやろう、あの事件
和葉ん事、たまにはキツく叱っと
かなアカンで?」

ワガママで、ホンマに手がかかる
お姫様で困るわ、とお父ちゃん

でも、私にはわかる

仕事が終わって戻ってきたら、私
めっちゃ叱られるな、確実に、
平次に免じて許してくれただけや

淋しいて敵わんかった1日を過ご
しただけでもキツかったんに、
平次にも、おばちゃんにも
お父ちゃんにも怒られた

「和葉」

「おっちゃん?お帰りなさい」

「たまには、ワシに付き合うて
くれるか?」

「うん」

縁側でお茶をすするおっちゃん

こっそり私にプリンをくれた
私が大好きな、たまにご褒美で
食べる瓶プリン

「後でちゃんと歯磨きすんのや
で?静に怒られてまうからな」

もぐもぐプリンを頬張る私に、
誕生日はスマンかったな、と
笑った

「ええの
みんな、大事なお仕事やった
し、仕方ないわ」

「ええことないやろ
和美さんが、一生懸命頑張って
和葉を産んだ日なんやから
ちゃんと祝ってやらんかったら
申し訳無いやんか」

「おっちゃん、私のお母ちゃん
の事、覚えとる?」

「当たり前や、静が1番仲良う
しとった人やし、遠山が今でも
大好きな人やからな」

ふっと相好を崩したおっちゃん

「和葉も、段々と似て来たで?
やっぱり血は争えんなぁ」

「え?私、お母ちゃんに似て来
たん?嬉しいなぁ!」

いっつも、お父ちゃんは、お母
ちゃんが1番美人や、言うてた
写真の記憶しかなくなって来て
しもうたけど

あ、と思うて涙が出そうになる

今日、私がひとりで歩いた道は
全部平次との思い出に繋がる道

そして、お母ちゃんと巡った、
思い出の場所やねん

アホやな、私
平次、平次言うて、後を追うの
あの頃から少しも変わらんのや

あなたから 愛されてた sign 探し
たいから

ここから歩いてゆく

もう一度、ひとつ ひとつ 辿って
みよう

今度は、もっと違った景色が見
えるかもしれんから

久しぶりのおっちゃんとの時間
は、ぐちゃぐちゃになりかけて
た私の心を、静かに満たしてく
れた

「おっちゃん」

「ん?」

「おおきに」

強面やけど、とっても優しい
特に、平次に優しく出来ん分、
私には甘いおっちゃん

眠る前、携帯に気が付いた

おおきに

それだけ、メールに書いてある

平次らしい、多分これで謝って
るつもりやねん

平次なりのお詫びのsignを受け
入れて、私は安心して眠った