■scene:00_side Kazuha

imagining from 春雪/JUJU


今年の春は、この歌の歌詞のよう

平次が、捜し続けとった初恋の人を
とうとう、見つけてしもうたんや

終わりと始まりが揺れる

嫌でも意識せなアカンかった

平次は、私には教えへん、と言い、
蘭ちゃんらを新幹線で見送った後、
私をもう一度、あの寺へ連れ戻した

…アンタの初恋の想い出の場所に
何で私を連れ戻すん?

いくら幼なじみやから言うて、耐えら
れる事と、耐えられん事があるの

舞い落ちる桜の花びらはキレイ
でも、私には涙雨に見えた

桜の想い出なら、私にだってたくさん
あるんやで?

小さい頃は、おばちゃんらに手を引か
れて、
少し大きくなってからは、2人で、
毎年大阪にある名所を巡ったやん

「幼なじみの時間は、どちらかに恋人
が出来るまでや」

友達に、耳が痛くなるほど言われ続け
た言葉

その時間が来てしまったと言うのか

お姉さん役も、ここで終わり
私はただの幼なじみになるんやね

いつか大人になって、あの頃は、とか
思うようになんのかな

現在は辛すぎて、そんなん出来んよ

おめでとう、も、ばいばい、も、
どっちも出来そうに無い私はどないし
たらええのか、教えてや、平次

俯いたら、涙が溢れそうやから
頑張って空を見上げた

私の心何て知らん言うみたいに青く
澄み渡る空に、尚更泣きたくなる

もう限界や、私は帰る
思い出遊びしたかったら、ご自由に

そう思うて、背伸びをして、振り返ろ
うとした私は、平次とぶつかった

抱きとめた身体は、また背が少し高く
なったみたい

「ゴメン」

先に帰るな、と言うつもりで、倒れた
体勢を直そうとすると、ふいに平次の
両腕が私の身体に絡まる

「平次?」

抱擁と呼ぶには刹那の時間
抱き締めると言うには緩すぎる拘束

「遅うなってまうから、帰るで」

「う、うん」

くるり、と背を向けてメットを被って
しまった平次の表情は見えない

でも

いつものように渡されたメットを被っ
て、その後ろに座った私が身体に腕を
回し、手を組むと、いつもより少し強
く握られた

離れて行く指先が、私の左の大事な指
を掠めたのは気のせいやろか

いつもよりスピードを上げる平次に、
ちゃんと捕まっとけと何度も合図され
た私

だから、普段より力を入れてその背中
にしがみついた

この場所だけは、誰にも譲りた無いん
やけどな
それでも、譲らなアカンよね

でも

それでも、思ってしまうよ

あなたのいない明日などいらない

そう、平次が居らんなら、明日など
要らんし、どうでもええ、そう思う
てしまうんや

込み上げる涙を、必死に堪えていた私
は、震えていたみたい

掌をトントンして、寒いんかって訊か
れた

首を振って、指先を軽く握り返事を

大丈夫、寒くない、と

指先を絡めるようにぐっと握られる掌
は、ちゃんと掴まっとけや、の合図や

震え出す身体に気付かれたくなくて、
ぎゅっと抱き締めるようにしがみつい
て目を閉じた

お願いや、もう少しだけ、このまま
あと少しでええから
せめて、自分の足で歩き始めるまで

だから、今は側に居させてや

祈るように、願うように
組んだ指先に力を入れた

終わりも始まりも、もう少しだけ
待ってや、と

背中に顔を埋めるようにしてくっつい
た私を、平次は振り返りはしなかった

よりスピードが上がって行くのをええ
事に、私はそのまましがみついていた

言えない言葉は、飲み込めば飲み込む
ほど、思いは深くなって行くんや

私はもう、何も考えられん

最後に心に残ったのは、行き場のない
恋心と、それでもなお、愛おしいと
思うてしまう気持ちだけやった