★2015年 遠山の日に寄せて

「来春には、オトンや」

最初、和葉にそう言われた時
頭が真っ白になった

待ち望んでいた嬉しい報せに、思わ
ず固まってしまったんや

最初に思ったのは、ありがとう
次に思ったのは、和葉ひとりだけで
はなく、さらに護るべき対象が増え
たんや、と言う実感

オマケに、双子や、と聞いて、耳を
疑った

高校生の頃から、時々、夢に出て来
た2人に逢えるのかも、と思ったら
嬉しくて、和葉にハグとキスをしま
くってしまった

和葉と結婚出来た事に次ぐ幸せや

凛櫻(りお)と翔平(りょうへい)に逢え
るかも、と思うだけで、ワクワクし
たんやで?

でも、和葉の仕事が心配やった

まだ着任して、半年にも届かんタイ
ミングやし

「心配要らん、最初から、産休取得
の可能性も伝えてあるし、その辺の
サポートが手厚いから、選んだ職場
やねん」

さらり、と和葉に言われ、オレに
子供が欲しいと言う前から、ちゃん
といつ出来てもええように、休みを
調整したりもしとった事を知った

心底嬉しかった

本気で考え、行動してくれた事も
オレとの子供を、望んでくれた事も
1番に報せたかった、と思うてくれた
事も、ホンマに嬉しかった

上手く言葉に出来んかったから、
しっかり抱きしめて、キスをした

わかったから、もういいよ、と
和葉が笑い出しても、止めんかった
ホンマに嬉しかったから

両家の親も、初孫に大喜びで、その
誕生が現実のものになるんや、と
大騒ぎになった

ただ、初産で双子や言うことで、
友人知人への連絡は、安定期に入っ
てからにしようと決めた

唯一の例外は、晃たちやった

晃達は、来年子供が欲しいと、オレ
達より一足先に、子供を授かるべく
準備をしとったから

「よかったやないか、実はなぁ~」

和葉の妊娠を伝えた時、照れたよう
に晃は言った
翠も、ほぼ同じタイミングで出産予
定やと

安定期を過ぎるまでは、周囲に隠し
ておくことにした
年末年始で、お腹を見れば判るやろ
言うことで

晃の家の方が、1週間と少し早い予定
和葉は、色々初めてでわからんこと
も多いから、心強いと喜んだ

4人で食事をして、ささやかな祝い
の席でも、何となく気恥ずかしい
オレらを差し置いて、和葉達はとて
も喜んだ

和葉も翠も、幸いにして、つわりは
ほとんど無い様子で、オレと晃は
ホッとしてたんやけど、和葉はその
後、貧血とつわりに苦しむことにな
ったんや

げっそりやつれた姿に、こんなんで
産める体力残せるやろか、とオカン
と2人、ヒヤヒヤした

「大丈夫や、何があっても十月十日
ちゃんとお腹に居てもらわんとな」

医師の判断で、1度入院することに
なった時も、搬送される時、そう言
うて笑った

翠も、途中から少しつわりになった
けれど、こちらは症状も軽く済んで
順調な様子
それでも、味覚異常に悩まされて、
大変そうやった

「同じ妊婦でも、症状はまちまちな
んやなぁ」

「ホンマやな」

晃とはお互いに協力しあって、2人
の妊婦を見守り過ごすようになった

晃が先に帰れる時は、晃に
オレが先に帰れる時は、オレが

結季の時のことがあるとは言え、あ
れから5年が過ぎ、忘れてしもうて
ることもある

あの時の、黒羽に貰った育児書をこ
っそり読み返していたオレ

晃にも、同じ本と、昔作った積み木
を一組プレゼントした

「マジで嬉しい、平ちゃん、おおき
にな」

後で、黒羽の嫁さんに連絡して、あ
の時のような印を作って貰おう、と
思った

「子供が腹に居る間に、やりたい事
や、行きたいとこ、行っておいた方
がええで」

職場の上司には、言わなアカンから
晃と2人で報告した時、先輩パパと
して、アドバイスされた

和葉が入院したこともあり、もう少
し落ち着いてから、みんなに報告す
ることにしてもらった

入院中の和葉に、中々会いに行くこ
とが出来ずに居た
事件でバタバタしたのと、色々と
奔走しとったんや

短いメールをするのが精一杯

和葉と赤ん坊の頑張りで、数日で退
院する事が出来た

そんな中、オレは上司に呼び出され
たんや