▪️25:00 easygoing  / side Kazuha 

黒羽くん達がやって来て、宴会が開か
れたり、相変わらず賑やかな服部邸

そんな中、おばちゃんからこっそり
呼び出された

「まだまだ先やけど、そんな先でも
無いんや、一応目を通して置いて」

手渡されたファイルには、建設予定の
戸建てやマンションの資料

おばちゃんと2人、目を通すけれど
あまりの高額に眩暈がする

「家って、こんなん高いんやな」

「せや、これ以外にも税金やら手数料
引っ越し費用やら色々かかるんや」

「英国の家はどう?」

「コンパクトやし、掃除しやすいし、
最近部屋に観葉植物も置いたから、
とっても過ごしやすいで?」

この家で、中庭や、おばちゃんが飾る
花を見て育ったせいか、植物をどうし
ても身近に置きたくて、観葉植物を
買った事を話した

「せやねぇ、平次も和葉ちゃんもずっ
と見てたんやもんねぇ」

平次とは、帰国後の事はどう話しとん
のか、と聞かれたので、素直に応えた

「平次も私も、ここから近いところに
家捜そうと思っとるんや

さすがに最初から同居は、私は良く
ても、平次とおっちゃんが気まずい
やんか」

「せやねぇ、ホンマに
職場での問題があるから、平次が在る
程度一人前になるまでは、平蔵さんと
一緒はアカンやろ」

おばちゃんとは、将来的にはこの家に
帰りたい、でも、仕事の都合でどう
なるかは判らん、と話した

「どうせなら、マンションの方がええ
かもね?借り手も付きやすいやろうし」

「平次と住宅ローン折半したとしても、
すごい事になるなぁ」

「まぁ、お金は何とかなるけど
あとは、ちょうどええタイミングで、
ええ物件が出て来るか、やな」

平次は大学卒業後、大阪で警官になる
ために試験を受けると決めとる

採用されれば、半年は警察学校やし、
赴任も経験せなアカン
1年から2年は落ち着かない生活が続く

私はその間に経験を積んで、科捜研の
研究員を目指す予定やったんやけど…

実は、哀ちゃんから、もうひとつ別の
お誘いを受けとんねん

哀ちゃんの研究所では、今後民間企業
として、総合的な調査研究を専門とす
る部門を新たに立ち上げるらしい

警察関係への捜査協力はもちろん、
遺留品の調査鑑定も含め、総合的で
科学的な検証を出来る機関として動く
組織となるみたいやねん

哀ちゃんは、その部門でとても重要な
ポジションで仕事をするらしく、私に
英国に居る間だけでもいいから、手伝
って欲しいと言うんや

「おもしろそうやんか」

「でも、研究施設は英国やねん」

「平次は1~2年はまともに家にも居
られんやろうし、ええんちゃう?
そのくらいの期間、別居になんのは
あの子、覚悟しとると思うよ?」

「え?」

「大学はな、あの子、ホンマにどこで
も良かったみたいなんよ
学部があって、それなりに面白いライ
バルが居るところやったらどこでも」

それは平次もそう言うてた

「でもな、海外進学に舵を切ったのは
和葉ちゃんと一緒に居たかったからや

社会に出たら、すれ違う事もあると
思うし、どうしても離れなアカン期間
もあるからって」

離れなアカン期間?

「自分は、配属されたらしばらくは家
にも戻れんやろ?
その間、和葉ちゃんには和葉ちゃんの
生活に集中させてやりたい、言うてた
んよ?」

付き合います、一緒に海外行かせてく
ださい、とおばちゃんらに頭を下げた
時、平次はそう言うたらしい

いずれ、別々に生活せなアカン時期が
ある以上、一緒に居られる間は可能な
限り一緒に居たい、と

「嘘や思うんやったら、直接平次に聞
いてみたらええわ
たぶん、反対せえへんよ」

おばちゃんはそう言うて笑った

「平次が日本に帰国するタイミングで
家は用意する
和葉ちゃんは、1-2年遅れて帰国する
にしても、帰る家があった方がええ
やろ?」

「おばちゃん」

「誘われるうちが華やで?やりたかっ
たんやろ?精一杯、やったらええやん」

「うん」

「それになぁ、ええ稼ぎになると思うで?」

「え?おばちゃん?」

「哀ちゃんの事や、ちゃんとその辺も
考えた上でのお誘いやと思う
稼げる間に目一杯稼いだらええ

子供が出来て、休まなあかん時期は
いずれやってくるんやから」

穏やかに笑うおばちゃんは、何気に
凄い事をさらり、と言う

確かに、警官になる平次の稼ぎは、
私もお父ちゃんと生活しとったから
よう判っとるし、仕事にお互い慣れた
頃には、子供も持ちたいと思う

家でぽつん、と平次を待つよりも、
戻れない平次を応援しながら、私も働
いて居った方が、平次も安心するやろ
と思った

平次に哀ちゃんから仕事に誘われとる
事を話して見た

正式には、大学2年になってから、
定期的にラボに通う予定

「ええやんか、めちゃくちゃええ経験
出来ると思うで?

どっちみち、採用試験後はオレも警察
学校入るし、その後は赴任も続くから
オマエが家でぽつんとしとるより、
オレも知ってる場所で、ちゃんと仕事
しとってくれた方が何倍も安心や」

平次は快諾やった

それに、結季ちゃんの事もあるから、
オマエはむしろ少し残った方がええ
て言うた

「その代わり、オカンが言う通り、
家捜しはオマエも参加やで?」

「当たり前や、アンタがアカン事して
へんか、帰国は抜き打ちにさせても
らいますー」

「おぉ、ええでー!その代わりに、
オレも休み取れたら、抜き打ちで行く
からな」

淋しくなるやろうな、1-2年も離れる
なんて、初めてやし

でも、近くに居て、一緒に居られんの
やったら、離れて居ても同じやと思う
し、お互い、一緒に生活出来るように
なるまで、精一杯自分に出来る事、
頑張ったらええよ、とも思う

どっちにしても、私と平次の試練は
お互いが大学を卒業する時期やろう
と思った

それまでは、これでもかって言う
くらい、2人の生活を楽しもう

平次が言う通り、英国に2人で居られ
る間にしたい事、しておきたい事、
ちゃんと真面目に考えて、後悔せん
ように全力で挑もう

私や平次がそう決意した時、黒羽夫妻
も何やら決断した様子

青子ちゃんが、正式に大学を転学する
事を決断したのだ

黒羽くんは大学進学をしてへんのかと
思うたら、通信課程の大学に籍を
ちゃんと置いているらしく、単位も
順調に取得しとるらしい

「青子に負ける訳にはいかないだろ?
オレのプライドが許さねー」

そう言うて、笑っていたけれど、彼の
忙しさを知っとる身としては、よう
勉強時間を捻出出来とるな、と感心
する外ない

おまけに、いずれは正規の大学に籍を
移して、ちゃんと通いたいと言う野望
もあるらしい

「青子も、快斗くんも、精一杯自分が
思う通りに頑張ったらいい」

中森警部は、酔っぱらって笑いながら
そう言うてた

青子ちゃんにも、黒羽くんにも優しい
お父さんやった

「淋しくないん?」

「それが、意外と忙しくて、淋しがっ
ているような時間が無くてね
本当に、自分でも驚いてるんだ」

「お父ちゃんには聞いてくれんのか」

「せやかてお父ちゃんには近くに
おばちゃんもおっちゃんも居るやん」

「なぁ、冷たいやろ?うちの娘」

「お父ちゃん!」

「まあまあ、いいじゃないですか
元気に学校も頑張ってるみたいだし、
うちの青子がとっても頼りになるって
言ってましたよ」

「お父ちゃん、忙しくて大阪にほとん
ど居られんのやろ?」

遠山家は、おばちゃんが定期的に
メンテナンスしてくれとるのは、私も
知っとるんやで?お父ちゃん

拗ねるお父ちゃんを、私と平次で宥め
すかしてると、おばちゃんが笑った

実は、私とおばちゃんが最有力候補と
して狙ってる物件は、遠山家の入居し
とるマンションやねん

今は全室埋まってしまっていて、空室
待ちしとる人も多いらしいねんけど、
あそこやったら服部邸も近いし、お父
ちゃんも近くやし、上層階には広い
タイプの部屋もあんねん

上手い事空室出来てくれるとええけど
なぁ、とおばちゃんと言うとるんや
けど、どうなるかは判らん

せやから、お父ちゃんには内緒や

期待させて、アカンかった時可愛そう
やからな

黒羽くん達も、黒羽くんの欧州での
修行が終わったら、全米での修行を
経て、いずれは日本へ帰りたい、と
言うてた

「青子と育ったあの街へ帰りたいけど
それが出来なかった時は、出来るだけ
警部の傍に行く」

自分にとっても、青子ちゃんにとって
も、大事な人やから、と黒羽くんは
笑った

黒羽くんは、それが難しい事も判って
いるのだ

あの閑静な住宅街に居を構えるには、
黒羽くんは有名になり過ぎてしまっと
んねん

セキュリティ上も、周囲への迷惑を
考えても、おそらくあの街で住む事
は難しい

現に、青子ちゃんの家の隣にあった
黒羽家は、解体して更地にして売却
してしもうたくらいやから

「実はな、中森家も同じ様にして
売却する事になったんだ」

青子ちゃんらは淋しそうに頷いた

警部ひとりで生活するには広すぎるし
色々と物騒だと言う事で決断した

「家にはお別れ言って来たんだ」

青子ちゃんは、淋しさを振り切るよう
に笑ってそう言った

父親の身の安全には変えられない、
そう言って

遠山家同様、中森家も職場に近い
マンションへと引越しを終えて来たと
言う

「コンパクトだけど、住みやすいし、
お手入れもしやすいから、お父さんも
大丈夫だと思う
私や快斗の部屋もあるんだよ」

青子ちゃんはにっこり笑った

「一足早く、オレは見て来たんや」

お父ちゃんはそう言うて笑った

物件選びの日、たまたま東京に居た
らしく、付き合ったみたいやねん

お父ちゃんと中森警部は、お互い1人
娘をとられた者同士、何やら通じる
ものがあるらしく、仕事以外でも交流
が出来たらしいねん

「いずれあの2人にもう一人加勢する
んやろうな」

「もう一人?」

「あぁ、元が付くけどな、居るやろ?
間もなく娘を取り上げられる探偵」

「あぁ、毛利のおっちゃんや」

「嫌なグループやな
オレ、絶対いじめられるわ」

「何でよ?」

「オマエがぴーぴー泣いたら、オレ
あのグループに締めあげられるんや
で?無論、黒羽もな」

「オレ、絶対嫌だ」

「快斗、あきらめなさい」

「せや、平次、あきらめ?」

本気で嫌そうな顔をした2人を見て
私は青子ちゃんと一緒に笑った