▪️14:00 interval / side Kazuha 

St. Valentine’s Day がめぐり来た

私と平次は、このイベントにはどう
も縁が無いらしい

昨年は、留学中
今年は、ケガで、台所にすら立て
ないし、買い物にも出られない

結婚して初めての
St. Valentine’s Day だと言うのに

蘭ちゃんが、私に遠慮して工藤くん
にあげない、とか言うのを宥めて
今年は絶対、渡してあげた方がええ
とおばちゃんと2人で説得した

工藤くん達は、平次宛に届いた例の
チョコレートの山に仰天していた

落ち込む私に気が付いたおばちゃん
まだリハビリ中で、ぎこちない動き
しか出来ない私でも、出来ることを
教えてくれた

おばちゃんに少し手伝ってもらって
車椅子で運ぶのもちょっとだけ助け
てもらった

「おやすみ、おばちゃん」

部屋の小さなテーブルにお盆を置く
お揃いのカップが2つ、湯気が上が
っている

「ん?なんかええ匂いやな」

お風呂から上がって来た平次が
髪を拭きながら現われた

「ゴメンな、今年もチョコレート
作れんかったから」

ホットミルクに、チョコレートを
少しだけ溶かしてみた
平次は甘いのが苦手やから、ココア
を足すのはやめたのだ

「おおきに、うまいな、これ」

「ホンマやね、ココアより飲みや
すいかもな」

飲み終えたカップは、平次が片付け
してくれた

戻って来ると、ベッドに私を寝かせ
いつものようにマッサージをして
くれる

脚に触れた平次が、私を呼んだ

「和葉?オマエ気分悪くないか?」

「え?うーん、眠くて怠いかも」

私の首に触れたり、おでこを合わせ
た平次が慌て出した

ぎっちり私を布団に包むと、体温計
をセットして、部屋を出て行く
戻って来た平次は大荷物や

私の枕に氷枕をセットして、体温計
をチェックする顔は険しい

一緒に横になると、私の腕や背中を
さすってくれた

「平次?」

「オマエなぁ、もう少し気を付けな
アカンで?リハビリ頑張るのもええ
けど、熱出したらアカンやろ」

「ふぇ?」

あぁ、もう、と言いながら、柔らか
いタオルで私の目元を軽く拭う

「熱が出る時は、掌が冷たくなって
泣くんやな、小さい頃から変わらん
なぁ、和葉ちゃんは」

緩く抱き寄せてくれた

言われてみれば、寒気も少しする
平次の身体がいつもと違う温度に
感じた

今日は、平次のベストポジション
まで辿り着けないなぁ、と思って
いたら、緩く抱き寄せた平次が
ちゃんとその場所まで、身体を
寄せてくれた

ぴったりと合う、馴染む感触に
発熱に強張る身体が少し楽になる

冷える掌は、重ねられた平次の掌
で、少しずつ温められて行く

滲む涙は、平次の唇が全部拭う

頭がガンガン痛むし、身体が少し
震えるし、ゲガした脚も痛む
つらくて仕方がないけど、平次に
しがみついて堪えた

大丈夫、大丈夫、呪文のような寝言
を繰り返しながら、平次は私を抱え
半分は微睡んでいた

背中を撫ぜる掌が、ゆっくりと動き
を止めるのがわかった

疲れているのだ

平次と工藤くんがかなりキツイ目
にあって来たかは、大滝ハンから
話しを聞いたので、知っていた

帰阪してからは、ずっと私に付き添
っていたのだから、休む間も無いま
ま、今日まで来ている

休んで欲しい
安らいで欲しい

次の闘いに行くその日までは

熱が上がって来るのを感じながら
平次が寝苦しいだろうと、身体を
離そうとすると、条件反射で余計
に抱き込まれる私

仕方がないので、いつものように
身体を預けて眠ることにした

おやすみ、平次、また明日

痛む身体を必至で励まして、私は
無理矢理目を閉じた