三馬鹿恋愛狂想曲01
三馬鹿恋愛狂想曲02

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【三馬鹿恋愛狂想曲03】

 彼は待っていた。
彼女がいそいそと手料理を携えて、近寄ってくる時を、ただただ待ちわびていた。

「あ、あの…正則さん、お疲れ様です」
「んぁー? 誰だお前」
「え、ええと、その……良かったら、コレ食べて下さい」

 華奢な両手から差し出された風呂敷に包まれた箱の中身は、重箱一杯に詰められたお握りだった。

「オ! 握り飯じゃねぇか!! いいのか?! 悪いな」
「い、いえ…あまり美味しくないかもしれないんですけど…」

 その場にどっかりと座りこんでガツガツと食べだした正則の隣にぎこちなく
彼女が腰を下ろした時も、彼はこう思っていた。

『そうか、まずは外堀を埋めようってことなんだな。敏いぜ』

「お口に合いますか?」
「んー、ああ、悪くねぇ」

 良いも悪いもあったものではない。
正則にとっては、味は二の次。まず必要であり、重要なのは量だ。
幼い頃から味わってきたねねの手料理とそれ以外の区分は付くが、それ以外に分類される
料理について、区分を付けられたことなど一度もない。

「その……今度頑張って、煮込み料理とか…作ろうと思ってて…」
「へぇ」

 聞いてない。恐らく正則は口の中に入ってゆくお握りに夢中だ。

「もし良かったら……それも食べてもらえませんか…?」
「んあ、いいぜー」

 話半分に聞いて、相槌を打つ。

「俺、この時間は何時もここで鍛錬してるからよー。好きな時に来いよー」
「いいんですか!?」
「ん、おう。別にかまわねぇ。邪魔だけはすんなよな」
「ハイ!」

 桜が満開ななったように、彼女の顔は綻ぶ。
そんな彼女の姿を遠巻きに見ていた左近は、現実逃避でもしたくなったのか遠い目だ。

『そうか、そういうことですか……まさか、どぉしようもないバカが相手とはね…』

 彼の前に立つ彼の主は、先の失態をどう補ったものかと考えに考え抜いた揚句、
友である真田幸村と直江兼続を巻き込んで今日も奇行に及んでいた。
細い腰にがっつりと巻かれた荒縄。
結われた先は左近の更に後方に立つ、兼続と幸村の手に続いている。

「本当にこんなことでいいんでしょうか?」
「本人が望んでいるのだから仕方があるまい」
「まぁた、滑稽なことになってんなぁ。あの御仁。本当に生きにくい奴だねぇ」

 彼ら二人の後方には更に傍観の慶次が立っている。

「何も襲いかからぬように荒縄で結うこたぁないだろう。これじゃ犬だぜ?」
「そう申し上げたのですが…」
「うるさい、黙れ!! お前らは言われたとおりにしていればよいのだ!!」

 正則の傍から離れた彼女が、こちらに気がついた。
熱弁をふるう三成の後方へととぼとぼと歩み寄ってくる。

「大体お前達にはあの娘の身からわき立つ芳醇な香が分からんのか!!」
「あの、三成殿…」
「それはもう良い香りで、すぐにでもむしゃぶりつきたくなるような香なのだぞ!!」
「殿…」
「あれに心擽られぬ男など、男ではない!!!」
「三成」
「俺は悪くはない!! 強いてあげるとするならば、アレがあんなにも可愛らしいから、
 だから抑えが利かなかっただけなのだ!!!!!」

 はぁはぁはぁと肩で息をつくくらいの勢いで一気にまくしたてた三成の視線の先では、
部下、友人がひきつった笑みを浮かべて彼の後方を指し示す。

「なんだ?」

 怪訝な顔をした三成に、慶次が言う。

「今の全っっっっ部、聞こえてたみたいだぜ?」

 指摘に目を見開き、恐る恐る三成が振り返れば、それはそれは爽やかな笑みを浮かべて、
彼女が立っていた。

「!」

 ゆるりと振り上げられた掌が物凄い勢いで振り下ろされる。

「最ッッッ低」

 バシン!! と音が鳴って三成の秀麗な頬にくっきりと紅葉が浮く。
彼女の後方には何時の間にかニヒルな笑みを浮かべて立っていたのは清正だ。

「本当に馬鹿だな」

 さりげない仕草で彼女の肩を抱き、清正は言う。

「正則の好きな料理なら、俺が教えてやれるぜ?」
「本当!?」
「ああ」

 清正は、何も分かってはいなかった。
彼女が外堀を埋めるべく、正則を餌付けしてるとしか思っていないのだ。

「清正さん、頼りになりますね!!」
「そうかそうか、まぁ、俺だからな。どっかの馬鹿とは出来が違うさ。
 作り方教えてやるから、板場に行くか?」
「はい、行きます!! あ、でも重箱…」
「大丈夫だ、あいつだって後片付けくらいできるさ」
「そうかな、そうかな」
「ああ。さ、行こうぜ」

 傍観者一同は体よく清正にかっ浚われた彼女の背を見て、続いてその場に残されたままの三成を見やった。

「最低って言われた……もうダメだ……俺は生きていけない…」

 案の定、三成がその場で体育座りして涙に暮れていた。

「…三成…」
「いい加減面倒くさい御仁だねぇ」
『すごく、めんどくさいです。三成殿』

 労う者、思いを口にする者、口にはせずに心で思う者と三者三様の反応であったが、
左近だけは違った。
彼はどうしょうもないこの上司を、捨てられた子犬を保護するかのように、柔和な面持ちで、言った。

「大丈夫ですよ、殿…。清正殿も、まだ殿とどっこいどっこいです」
「左近?」
「むしろ、殿よりも状況悪いと思いますがね。墓穴掘りまくってますから」
「そうなのか?」
「ええ。だから今度こそ、きちんと謝りましょう。ね?」
「あ、ああ。頑張る」

 ガシィと音でも鳴りそうな勢いで差し出された腕を三成は掴んだ。
落ち込んだかと思えば、すぐに立ち直る。
そんな三成の感情のブレの激しさを目前に、柔らかな笑みを絶やさずに幸村だけが心で呟いていた。

『本当にこの人うっとうしいなー』
 
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何故か幸村さんが腹黒キャラになっとる。Σ(O O !!!!
ま、まぁ、本編では純情熱血青年まっしぐらだから偶にはこういうのもいいかもね。