三島由紀夫は昭和41年8月、ドナルド・キーンと2人で京都・奈良の旅行をしていることに
就いて以前このブログに書いた。
【在りし日の三島由紀夫とドナルド・キーン】
三島の最後の作品、「豊饒の海」四部作の第二巻「奔馬」は昭和42年2月から43年8月
に月刊新潮に掲載されたが、この作品の為の所謂取材旅行だ、三島の取材旅行の拘りは
良く知られるところだ。 この時は京都東山蹴上の”都ホテル”に宿泊し、古事記に登場
する日本最古の大神神社(おおみわ)を訪れ、巫女の『杉の舞』を板の間に正座して観劇
し、三島はドナルド・キーンに「It’s Ecstasy !」つまり宗教的恍惚状態だと、深く感動
して話したのだった。
三島は昭和8年頃の神社の建物の様子や、神社で起こった奇跡的な不思議な現象と神道学
などを取材した。この神社には本殿は無く、御神体は三輪山自体なので本殿参拝は即ち
”三輪山登拝“となる訳だ。勿論、三島由紀夫とドナルド・キーンは三輪山にも登拝した。
しかし、あれ程自然を美しく描写する三島由紀夫が、木や花、動物の名前を殆ど知らない
事に驚いたとキーンが語っている。
大神神社の裏山で 「これは何の木ですか?」 と訊かれた庭師はビックリし「松です!」
と。ナント三島は松の木を知らなかったのだが、誰しも松の木位は分かる訳だが、 三島
と雖も知らないものはあるのだ。
翌朝、三島は三輪山の三光の滝に打たれ、そして座禅をして。僧侶に依頼されて”清明”
と揮毫して大神神社を後にした。
(参考文献:三島由紀夫全集/悼友紀行/豊饒の海/三島由紀夫研究年表/
三島由紀夫未発表書簡)