福田美術館で見た「伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ⁈」展より、第1章前半を振り返ります。以下の文章は展示パネルから引用しました。
第1章 若冲と影響を受けた画家たち(1~15)
江戸時代中期の画家・伊藤若冲(1716~1800)は、京都の錦市場にある青物問屋「杵屋」の長男として生まれました。23歳の時、父が亡くなったのを機に家業を引き継ぎます。
その後も、商いのかたわら絵を描き続け、40歳頃、自身が真に追及したい絵画の道に専念するため隠居を決意しました。42歳頃から約10年かけて完成させた《動植綵絵》はその集大成といえるでしょう。
以下、第1展示室で見た作品です。
1.呂洞賓図
民衆から絶大な尊敬を集めていた呂洞賓を描いた作品。画面左上には、相国寺の115代住職で若冲に絵を習った維明周奎(1731~1808)が、若冲筆であると証する極書があります。
右から左へ吹く風に翻る衣の堂々として力強い線、背景を黒くすることで人物を強調する「外隈」の技法などから、維明の鑑定どおり若冲が描いたと考えられる作品です。
2.牡丹に蝶図
百花の王とも評される牡丹のかぐわしい香りに誘われて飛んできた1羽のモンシロチョウ。牡丹の花びらは、中国から輸入された画箋紙の特長を活かした「筋目描き」という技法が使われています。
賛を書いた片山北海(1723~1790)は若冲と同時代の儒者です。
3.竹図
幅が狭く細長い画面に、右下から上に向かって一筆で描かれた竹。先端は筆を速く動かしたため墨が擦れており、上へ上へと伸びる竹の生命力を見事に表現しています。
画面上の賛の筆者は若冲が若い頃から親しかった大典こと梅荘顕常(1719~1801)。勢いよく描かれた竹から龍を想像して、賛を添えています。
4.大角豆図
土手近くに植えられた大角豆。墨の濃淡を利用して、莢の中にある豆を見事に表現しています。風に揺れる長くて立派な莢は30センチもの長さに成長します。
江戸時代に出版された『農業全書』には「豇豆」という字で登場し、多くの種類や栽培法について記されていました。
5.花鳥図
岩場から上へ伸びる立葵。6月から咲き始め、花は垂直に伸びた茎の下から順に咲いていきます。
画面右上から急降下するのは鎌のような翼を持つアマツバメでしょうか。白と黒の混じった羽を墨の滲みによってうまく表現しています。若冲40代の作品です。
6.牡丹図
富貴の象徴とされる牡丹を、若冲も他の画家と同様、好んで描きました。2021年に国宝に指定された《動植綵絵》30幅の中の1幅にも、画面を埋め尽くすように牡丹が咲き誇る《牡丹小禽図》が含まれています。
本図は1本の枝にクローズアップして描く、中国南宋時代に流行した「折枝画」に学んだ作品。少し開きつつある花の中には、「筋目描き」を使った蘂が見えています。
7.菊図
ひときわ目を惹く大輪の花には、若冲ならではの「筋目描き」の技法が存分に発揮されています。筆に含む水分をコントロールし、墨がどのように滲むかを十分に把握していなければできない高度な技です。
左下から突き出た岩と菊を描いた構図は、《動植綵絵》の中の1幅である、《菊花流水図》にも見られます。
8.馬図
右前脚を曲げて立つ馬の前半分という珍しい構図の作品。
胴体は輪郭線を濃墨で引き、たてがみには紙の性質を利用した「筋目描き」が用いられています。また、頸の部分は薄墨を擦れさせ、大胆かつ繊細な筆遣いによって質感を表現しているのが分かります。
9.柳に雄鶏図
上からしなやかに垂れ下がる柳の下で、正面を向いて立つ雄鶏。墨線で輪郭を引いた鶏冠と頭部を中心に、頸の羽を広げています。その真上に積み重なるように、長さや模様の違う羽を墨色の変化によって描き分けています。
この図に月は描かれていませんが、薄墨が塗られた背景と、墨色の違う枝葉で、葉の間から漏れる月光を表現しているようです。
10.瓦に鶏図
巴紋のある瓦の上に、片脚で立つ雄鶏。若冲は鶏を描き続けながら、己の脳内にある羽の形や色を自由に組み合わせることで、実際の鶏とも違う、自分だけの雄鶏を描いていることが分かります。
11.月下芦雁図
満月が空に昇り始めた夕暮れ時、芦の生える水辺で1羽の雁が右上を向いて鳴いています。仲間と共に巣へ帰るところでしょうか。
満月は周囲に薄い墨を付けることで紙本来の白色を利用し、雁は輪郭線を用いない「没骨法」という技法で仕上げており、創意工夫した形跡が見られます。
12.芦雁図
1羽の雁が頸を伸ばして餌を啄んでいます。雁の羽に見られるように、淡い墨の上に濃墨を付けることで羽の重なりを表現する手法は、若冲の水墨画の特徴の一つです。
芦の穂の部分は、墨が擦れるように表現。この微細なテクニックにより、まるで風に揺れているかのような動きが感じられ、若冲の細部への拘りが際立っています。
13.雲龍図
真っ黒な雲の中に真上を向く龍の頭が見え、大きな口、鼻、耳、角などが上下逆に描かれています。画面の上部にあたる、頭部の右側から画面下の部分は紙本来の色のまま残して、墨を塗っていません。
さらに雲との境界線を擦れさせたり、滲みによって微妙に色を変化させ、雲の立体感と動きを増すように工夫が凝らされた作品です。
14.鳳凰図
本作は真横を向いた鳳凰を描いたもの。頸を上に伸ばすことで、礼儀正しく姿勢の良い姿となり、どことなくユーモアが感じられます。
頸や翼など全身の羽は「筋目描き」の技法を使い、重なりを表現しています。長く伸びる尾羽の先端にある丸い形は、孔雀の羽の目玉模様に似ています。
15.鯉魚図
右幅には水中を泳ぐ鯉、左幅では水しぶきを上げて空中に飛び上がる鯉を描いた作品。右幅の鯉はさらに深いところへ潜ろうとし、左幅の鯉はさらに上へ跳ねようとしているようです。
頭部は濃墨で塗り、鰓より後ろの鱗は、当時若冲しか行っていなかった「筋目描き」の技法を使って1枚1枚表現しています。
精密な鶏の絵のイメージが強い若冲ですが、こうして見ると漫画チックで親しみやすい作品が多いなと思いました。
つづく