杉本博司 本歌取り① | 散策日記Ⅰ

散策日記Ⅰ

美術館&博物館で開催された展覧会の記録、それにまつわる散策記です。

姫路市立美術館では、「杉本博司 本歌取り―日本文化の伝承と飛翔―」を見ました。

 

 

大人になってからの大半の時間を海外で過ごした杉本博司(1948~)が、日本文化とは何かを咀嚼していく過程の中で辿り着いた、現代美術作家としての独自の方法論を駆使して組み立てられた展覧会。

 

 

本歌取りについて、杉本氏は次のように述べています。

 

 

西洋において、真似ることは「堕落」であった。日本において、真似ることは「昇華」であった。

 

 

 
和歌の伝統手法である「本歌取り」は、いにしえに詠まれた歌の心の一部を借り受けて、今の世の心のありさまを接木つぎきするという「うたよみ」の作法であった。

 

 

 

真新しい時代精神は、古き良き時代を否定することなく、昇華して、新しい時代へとその魂を引き継ぐのだ。

 

 

 

 

私はその作法は、和歌だけではなく、茶や花、香り(香道)や、かたち(建築)にまで連綿と受け継がれてきたのだと近頃思う。

 

 

 

いわば「本歌取り」は日本文化の通奏低音なのだ。私は現代美術作家として、その作法を受け継ぎたいと思う。

 

 

 

「見る」とともに「読む」展覧会。今回は「本歌取り」した作品とその関連作品を、目録順にピックアップしました。

 

 

《カリフォルニアコンドル》1994年

牧谿もっけい(生没年不詳)の《【国宝】松樹叭々鳥はっかちょう図(13世紀)》を想起した作品。写真作品の背景には、牧谿の《煙寺晩鐘図(13世紀)》に描かれた、夕暮れに煙る大気の気顔を写し取ることを試みました。

 

 

臨書《無準師範 墨蹟「東西蔵」》2022年

中国南宋の僧侶、無準師範ぶじゅんしはん(1178~1249)の墨蹟《東西蔵》を手本にした書。

 

 

《松林図屏風(左隻)》2022年

長谷川等伯(1539~1610)筆《【国宝】松林図屏風(16世紀)》をもとにした作品。皇居前の松林を撮影して生み出されました。

 

 

《月下紅白梅図》2014年

尾形光琳(1658~1716)筆《【国宝】紅白梅図屏風(18世紀)》をもとにした作品。

 

 

《放電場図屏風》2022年

俵屋宗達(生没年不詳)筆《【国宝】風神雷神図屏風(17世紀)》をもとに制作。建仁寺の塔頭・両足院に襖絵として奉納されました。

 

 

《天神像》室町時代(15~16世紀)

杉本博司(1948~)作《放電場図屏風(2022)》の関連作品。

 

 

《雷神像》鎌倉時代(13~14世紀)

杉本博司(1948~)作《放電場図屏風(2022)》の関連作品。

 

 

《華厳滝》1977年

作者不詳《【国宝】那智瀧図(13~14世紀)》をもとにした作品。

 

 

《日本海、隠岐》1987年

後鳥羽上皇(1180~1239)の和歌「我こそは 新島守よ 隠岐の海の 荒き波風 心して吹け」をもとにした作品。

 

 

三字の名号《御陀仏》と《御釈迦》2018年

 

 

罐鈴汁缶キャンペンシルカン》1974年

アメリカの画家、アンディー・ウォーホル(1928~87)の名作《32のキャンベルスープの缶(1962)》をもとにした作品。

 

 

《Past Presence 068》2014年

マルセル・デュシャン(1887~1968)の《泉(1917)》をもとにした作品。

 

 

《硝子茶碗 銘「泉」》2014年

マルセル・デュシャン(1887~1968)の《泉(1917)》をもとにした陶芸作品。

 

 

《無答故無問》2022年

マルセル・デュシャンの名言「答えは無いなぜなら問題が存在しないからだ」をもとにした書。

 

 

《常有他人死》2022年

マルセル・デュシャンの名言「されど、死ぬのはいつも他人」をもとにした書。

 

 

《札「塩小売所」》

おそらくマルセル・デュシャンに関連する作品。

 

 

《ポツダム宣言受諾 電報 第二次世界大戦中 1945年8月10日 テレグラフ》

戦時中の貴重な資料です。

 

 

《着服》と《憲法窮状》2022年

「憲法九条」じゃなくて「憲法窮状」。戦後の混乱期の中、日本国憲法が制定された事を示唆しているのでしょうか?

 

 

《天山飯店 品書》2022年

仮想の中華料理店。メニューもリアルでなかなか面白い作品です。

 

 

《喜妙庵 茶杓》2019年

 

 

《千家の竹茶杓》

千少庵(1546~1614)と千宗旦(1578~1658)の竹茶杓。杉本博司(1948〜)《喜妙庵 茶杓(2019)》のもとになった茶道具です。

 

 

《古銅花入 銘「咲甫太夫」》と《焼夷弾花入 銘「隣組」》2013年

 

 

須田悦弘よしひろ(1969~)作《屁糞蔓 掃溜菊(2015)》

おそらく、先ほどの花入の見本になった作品。

 

 

《硝子茶碗 銘「ムリ栗一号」》2014年

初代長次郎(生年不詳~1589)作《【重要文化財】黒楽茶碗「ムキ栗」(16世紀)》をもとにした作品。

 

 

《硝子茶碗 銘「ムリ栗ニ号」》2020年

初代長次郎作《【重要文化財】黒楽茶碗「ムキ栗」(16世紀)》をもとにした作品。

 

 

《江之浦焼 茶碗 銘「名が先」》2020年

《【重要文化財】堅手茶碗 銘「長崎」(17世紀朝鮮時代)》をもとにした作品。

 

 

《江之浦焼 茶碗 銘「夜色」》2020年

与謝蕪村(1716~1784)作《【国宝】夜色楼台図(17世紀)》をもとにした作品。

 

 

《江之浦焼 志野茶碗》2020年

《武蔵野図屏風(17世紀前期)》をもとにした作品。

 

 

《硝子茶碗 銘「私倉」》2014年

正倉院宝物《【国宝】白瑠璃碗(ササン朝ペルシア 6世紀頃)》をもとにした作品。

 

 

《ササン朝硝子茶碗(226〜651)》

 

 

《廃仏希釈》

 

 

《廃仏希釈より「広目天」》

文化庁所蔵《広目天(1331)》をもとにした作品。

 

 

《廃仏希釈より「多聞天」》

文化庁所蔵《多聞天(1331)》をもとにした作品。

 

 

《廃仏希釈より「持国天」》

文化庁所蔵《持国天(1331)》をもとにした作品。

 

 

《ヘンリー8世》1999年

ハンス・ホルバイン(1497~1543)《ヘンリー8世の肖像(1538年頃)》をもとにした作品。

 

 

《アン・オブ・クレーフェ》1999年

ハンス・ホルバイン(1497~1543)《アンナ・フォン・クレーフェの肖像(1539年頃)》をもとにした作品。

 

 

《英仏海峡、エトルタ》1989年

クロード・モネ(1840~1926)作《エトルタの断崖、日没(1882〜83)》をもとにした作品。

 

 

《観念の形0006 クエン曲面、負の定曲率曲面》2004年

 

 

《数理模型014 定曲率曲面、双曲型の回転面》2012年

アメリカの画家、マン・レイ(1890~1976)作《数理模型(1935頃)》をもとにした作品。

 

 

今回、杉本氏の書を初めて見ました。高尚なイメージが強い作家さんですが、意外にひょうきんな面もあったようです。

 

 

つづく