ArtScapeのオススメ展覧会情報を見て西宮市大谷記念美術館へ。
今回見たのは「石内都―見える見えない、写真のゆくえ―」。チラシも数種類あり、気合いが入っています。
恥ずかしながら私はこの展覧会で石内都を知り、その立派な経歴に驚きました。
以下の文章、チラシからの引用です。
石内都は昭和22年(1947)群馬県桐生市に生まれ、多摩美術大学で染色を学んだ後、写真を始めました。独学で技術を習得した石内は、従来の写真形式に縛られることなく、粒子が浮かび上がるモノクロームの写真で独自の表現手法を身につけます。
昭和52年(1977)、幼少期から青春時代までを過ごした横須賀の街を撮った<絶唱、横須賀ストーリー>を初個展で発表。
昭和54年(1979)に<APARTMENT>で木村伊兵衛賞を受賞すると、一躍世間の注目を集めます。
以後、石内は赤線跡の建物、身体にのこる傷跡、母親の下着や口紅といった遺品などを撮ることで、目には見えない「時間」を写真に写し込む試みを続けてきました。
独自の世界観を築いてきた石内の写真は、やがて国内外で高く評価されるようになり、平成17年(2005)にヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家として選出されました。
平成26年(2014)には、写真の世界で偉大な業績を残した者に授与されるハッセルブラッド国際写真賞を受賞します。
平成30年(2018)、石内はそれまで活動の拠点としてきた横浜から生まれ故郷の桐生市へと移り、新たな一歩を踏み出しました。
時の移ろいのなかで様々な意味を持つようになった自作を前に、石内は写真の持つ記録性や役割と改めて向き合い、これからの「写真のゆくえ」について想いをめぐらせています。
展示室は4室。今回は作品にキャプションが無く、配置図と目録の番号を照合しないと作品名が分からないという、とても面倒な観覧方法でした。
以下、展示室で見た主な作品です。なお、シリーズの説明は目録からの引用です。
<ひろしま>
広島原爆資料館に寄贈された、被爆者が身につけていた衣服、鞄、靴などを撮影したシリーズ。遺品の背景に存在した人々の姿を想い浮かべながら撮影することで、新たなイメージの写真を生み出した。広島原爆資料館には今なお遺品が寄贈されており、現在もこのシリーズの制作は続いている。
ひろしま #53 donor:Abe,H.(2007)
ひろしま #131 donor:Masaki,S.(2020)
<Frida Love and Pain><Frida by Ishiuchi>
メキシコを代表する女性画家フリーダ・カーロ(1907-1954)の博物館より依頼を受けて制作されたシリーズ。自然光のもと撮影されたフリーダの衣服や愛用品は、よく知られた壮絶な人生を送った画家としての姿ではなく、生を謳歌した一人の女性の姿を想起させる。
Frida by Ishiuchi #36(2012)
Frida by Ishiuchi #40(2012)
Frida Love and Pain #85(2012)
<連夜の街>
横須賀、東京、大阪、京都、名古屋、仙台など、全国の赤線跡に残る元遊郭を撮影したシリーズ。画面全体を覆うざらりとした粒子は高温現像によるものであり、それら一粒一粒を、目には見えない空気や匂い、気配、そして時間が顕現されたものとして捉えた。石内は現在も街中で遊郭跡に出会う度にシャッターを切り続けている。
連夜の街 #2「洞泉寺(奈良県大和郡山市)」(1978-80)
<絹の夢>
銘仙の着物と、絹織物工場の風景を写したシリーズ。銘仙の着物はクズ繭と化学染料を使用しているため安価で買い求めやすいうえに、鮮やかな色遣いや大胆な図柄が人気を呼び、大正から昭和初期にかけて女性の間で大流行した。出身地の桐生は絹織物の名産地であり、銘仙は親しみを感じさせる素材であった。
絹の夢 #27 解し絣銘仙 桐生(2011)
<Scars><INNOCENCE>
どちらも身体の傷跡を撮影したシリーズだが、<INNOCENCE>は女性に限定して撮影された。病気や事故など傷の理由は様々だが、それらの傷跡は、生きていた時間の結晶として見出した。
INNOCENCE #14(2006)
INNOCENCE #77(2006)
<sa・bo・ten><Naked Rose>
サボテンと薔薇は石内がこよなく愛する植物。かさぶたのようにヒビ割れの痕が残るサボテンの表皮や、朽ち始めた薔薇の縮れた花弁が、これまで撮影してきた傷跡が刻まれた皮膚のディティールと似ている。
sa・bo・ten #3(2013)
sa・bo・ten #38(2013)
<Yokohama Days><One Days>
日常の何気無い光景を写したシリーズ。テーマやモチーフを決めて撮影に臨んだ他のシリーズとは異なり、「写真を撮る」ことを目的とせず気の向くままに撮られた写真は、リラックスした雰囲気が全体に漂う。画像はネットから拝借。展示室にあったかは不明です。
<Moving Away>
生まれ故郷の群馬県桐生市に居を構え、40年以上活動の拠点としてきた横浜を離れる時期に撮影された。多くの作品が生み出された暗室や、アトリエのあった実家周辺の風景が映し出されている。
Moving Away #18(2015-18)
<The Drowned>
2019年10月に到来した台風19号により、神奈川県にある川崎市市民ミュージアムの収蔵庫が被災し、多くの収蔵品が被害を受けた。被災から3ヶ月後、石内は被害に遭った自身の作品を確かめるべく訪れた現地で、その光景に言葉を失いつつも、その姿をカメラにおさめた。
The Drowned #2(2020)
綺麗というより、何か訴えかけているような作品。ソーシャルディスタンスを保つためかもしれませんが、頭を使う観覧方法でとても疲れました。
7月25日(日)まで。巡回はナシです。