11月25日(水)、京セラ美術館を再訪問。
「KYOTO STEAM 2020 国際アートコンペティション スタートアップ展」を見に行きました。
STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもの。アート×サイエンス・テクノロジーをテーマに開催する新しい文化・芸術の祭典です。
現在第2回目(2022年開催)のコラボレーション企業とアーティストを募集中。企業は素材や技術、データ、知見等を提供し、アーティストは1つの企業を選択し、その企業が提供したデータをもとに作品プランを提出。その後10作品程度のプランを選定し、4月から制作が始まるとの事。
スタートアップ展の展示数は27点とかなり少なめですが、説明を読んだり動画を見たりAR体験をしたりで、結構時間がかかりました。
公式サイトに公開されている動画を聞くと、出展者の作品に対する思いや、コラボレーションの過程が分かります。今回は1~3番の作品を振り返りました。
① 久保ガエタン×(株)コトブキ・(株)タウンアート 「きのどうぶつ」
パブリックスペースの賑わいを作ることを目指して製品やサービスを開発してきた(株)コトブキと、パブリックアートの設置などの空間プロデュースを手がけてきた(株)タウンアートと、久保ガエタン氏のコラボ作品。
作品のモチーフは、中世ヨーロッパの伝説の半動物半植物の「バロメッツ」。バロメッツから採れる羊毛とされた繊維は木綿の事。木綿を知らなかった当時のヨーロッパ人は「綿の採れる木」を「ウールを産む木」だと勘違いし、この植物の伝説が生まれたとか。
久保氏が考えたバロメッツによく似たモノが、このおなじみの遊具。
久保氏は(株)コトブキの工場に保管されていた使い古しの遊具を選び、立体作品を制作。それを(株)タウンアートが日頃の見識を活かし、サポートしたとの事。
また、久保氏は緊急事態宣言の時、あらゆる遊具にロープが張られ、その後子供達の遊び方が変わった事に興味を持ち、動画を作成したとか。今までに無い異様な光景。得体の知れないウイルスを恐れ、国民全員が神経質になっていた時期を思い出しました。
② 京都市立芸術大学×京セラ(株)みなとみらいリサーチセンター 「perspective0→1」
京都市立芸術大学大学院を卒業したアーティスト達の話によると、京セラ(株)みなとみらいリサーチセンターとのワークショップは、火葬場に残った人工関節の話から「人間拡張」という概念がキーワードになったとの事。
「技術が人間の限界を拡張する」という考え方にアーティスト側が投げかけた「問い」、この「問い」について、京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之氏と、京都大学大学院工学研究科教授の富田直秀氏が加わり、ディスカッションを重ねて思いを凝らし、生まれてきた「思考」。
京都市立芸術大学日本画教育の核心である「みる力の拡張」が融合し、辿り着いた「答え」を三者三様に形象化し、作品にしたとの事。なお、題名の「perspective」は「視点」。0から1へ、視点が大きく変わった事を伝えたかったよう。
1つ目の作品が森萌衣氏の「perspective0→1 関係存在」。題材は宝箱。宝物は必ずしも綺麗なものとは限らず、ミシン練習布は家庭科の授業で使ったもの。森氏の中で、小学生時代の思い出が蘇ります。
それぞれに込められた記憶の中に美を見出し、新たな出会いの関係を紡ぐように絵を描く。そして完成したのが、一番奥に飾られた日本画です。
2つ目の作品が、幸山ひかり氏の「perspective0→1 自立存在」。題材は鶏頭の花。
鶏頭の煌々たる立ち姿を亡き祖父に重ね、筆で和紙に刻んだとの事。自立存在が祖父とは、幸山氏にとって祖父は、かげかえの無い存在だったのでしょう。
3つ目の作品が、川嶋渉氏の「perspective0→1 時間存在」。題材は、時をかけて劣化し、本来の機能を失いかけた墨。時に面白い表情を見せることがあるとは、川嶋氏ならではの感性。
こちらの作品群は、時間の経過によって起こる現象を拡張させ、和紙に造詣として取り出したもの。真っ黒のものが真っ白に変わるプロセスが緻密。そこに至るまでに、どれだけ時間がかかったのでしょう?
③ 森太三×太陽工業(株) 「膜のはざま」
軽くて丈夫な「膜」の特性を活かし、建築はもとより土木や物流、さらには環境分野などで広く事業を展開する太陽工業(株)。
森氏が同社工場を見学し、協議を重ねた上で様々な種類・素材の「膜」の提供を受け、それらを半ば即興的に組み合わせることで生まれたのが、「膜のはざま」。膜は競技場の屋根のようにぴん!と張られたものが一般的だが、あえてしわくちゃの状態で使ってみたとの事。
そして膜を支えている内装。
膜や木片の端材を活用。ゴミの集まりがアートになり、崩れず2ヶ月近く耐えているのもこの作品のすごい所です。
東山キューブの廊下にある椅子も森氏の作品。椅子を見た時の人の反応が面白くて作成したとか。
ここまでの作品は、現代アートにしてはアナログで、なんだかほっこりしました。