そろばんは室町時代の終わり頃、中国から長崎に伝わりました。1612(慶長17)年、大津の片岡庄兵衛は長崎でそろばんの技法を習得し、日本人に合うように改良を重ねたのが、大津そろばんの始まりだとされています。大津は商業地の大坂や京都に近く、そろばんの製造が盛んに行われました。
1580(天正8)年、豊臣秀吉が三木城を攻略した際、一部の住民は大津に逃れ、大津でそろばんの製造を手伝って暮らしました。戦も落ち着き故郷に戻った彼らが、そろばん作りを始めたのが、播州そろばんの始まりです。
播州そろばんの特徴は、部品ごとに作業工程を分業化していることです。生産量の多さと技術の高さから、兵庫県を代表する伝統工芸品になりました。今では全国シェアの70%を占めています。
100以上ある製造工程を大まかに分けると8つになります。①枠材作り ②珠作り ③軸(ひご)作り ④枠加工 ⑤軸の差し込みと珠入れ ⑥組み立て ⑦目竹どめ・裏棒どめ・すみどめの穴あけ ⑧磨き。そろばん博物館の資料室に、それぞれの工程で使われる材料や道具が展示されていました。
そろばんの枠材には、アフリカやインドネシアから輸入している堅い黒檀(こくたん)の木が使われています。木を大きく割り、裁断して、各部位に合わせた板に加工されます。
珠に使用する木はオノオレカンバ。「斧が折れる」とも言われる堅い木材です。高級そろばんには、柘植(つげ)や黒檀、紫檀(したん)などが使用されています。
原木を輪切りにした後、丸い形に木を打ち抜き、珠の形へと削りこんでいきます。
こちらは珠に穴を開ける機械。
軸(ひご)の材料は、真竹(まだけ)です。高級そろばんの軸には煤竹(すすだけ)を使用します。竹を寸法に合わせて切断した後、小さく割っていき、丸く加工して磨きます。
こちらは、枠板や「はり(上枠と下枠の間に入る板)」に穴を開ける機械。
はりに軸を差し込み、軸に珠を入れ、枠板に下の枠と右の枠・裏板・裏棒を取り付けて組み立てます。
上下枠に裏棒どめ、目竹どめ、すみどめ用の穴を開け、アルミニウムの針金を刺して、はさみで切ります。この作業によって、裏棒、軸、左右枠がしっかり押さえられて丈夫なそろばんになります。
枠の部分を磨き上げ、針金を切った後にやすりがけをします。紙やすりや椋の葉で擦り磨きをして艶をもたせ、播州そろばんの完成です。