『宴のあと』三島由紀夫著 新潮社

 

 「雪後庵」は政治家などがよく利用する高級料亭。その女将である福沢かずと初老の元外務大臣の男が結ばれることになる。男はやがて都知事選に革新系から立候補する。

かずは、その選挙に夢中になり、あげくのはて料亭を抵当にいれて選挙資金を捻出する。だが。保守系の金の力としたたかな選挙戦術の前に敗れ落選する。

かずはシヨックにうちのめされながらも、料亭を再開するために敵方であった保守系の昔馴染みの客から金を集めようとする。旦那である男はかずに離婚を申し渡す。小説の筋を簡単に要約すると以上のようになるだろう。

 

 都知事選という政治的イベントを小説の中心に置き、選挙とは政治とは何かを三島らしい皮肉な目で考察し分析するところがこの小説の特色であろう。一方で熟年の男女の愛の変遷を怜悧に描いているところも、つい読まされてしまう面白さがある。

 本小説で主人公となっているのは、かずという女性である。そのキャラクターは、今様にいえば一種の「天然」というべき奔放な可愛さがある。元外務大臣という男を冷厳で現実的な存在とすれば、リアルな政治的世界における一組の男女の人間模様が鮮明に浮かび上がって来る。

 

 現実を虚構化した小説、と見るのがこの小説の多分一般的な評価であろう。三島の目に映った現実、もっと具体的に言えば政治というもののリアリズムを三島流に浚いあげ、物語に構築しているとも言える。観念の世界ではなく、三島が見聞きした現実を想像力で膨らませながら再構築したものと考えたい。

 なお、本小説は元外務大臣有田八郎氏からプライベートを侵害したと告訴されたいわくつきの小説である。有田氏がモデルとなっていることは疑いないと思われる。裁判は第一審では三島側の有罪となったが、有田氏の死後和解が成立したことをつけ加えておく