Ⅲ 高速道路
もしあなたが、まだ仄暗い朝の高速道路を走ってみれば、黒衣の老婆たちが緩慢な手つきで、ある作業をつづけているのに気がつくかもしれない。
じつは彼女たちは高速道路の汚物処理係なのである。車に無残にひき殺された猫、犬鼠などそれら小動物たちの死骸処理の専門である。
老婆たちは、もっとも交通量の少ない夜明け方を見計らって高速道路に上る。
数キロも行かないうちに、内臓が飛び出し脂ぎった腸がまだ幽かに脈打っているもの、頭部を潰され脳漿が華のように散ったもの等々で、彼女たちの汚物袋は一杯になってしまうのが常であった。
それらをゴムの手袋で拾って歩く老婆たちの物腰は、おそろしく機械的で一片の感傷、一片の敬虔さもなかった。黝ずんだ肉片と、それに付着したわずかな毛、ほとんどコンクリートの染みになったものを発見した老婆たちは、何故か意味もなく舌打ちするのである。
その朝も作業はいささかの滞りもなくすすめられた。二キロも進んだであろうか、道路を遮断する巨大な塊を発見した。馬の死骸であった。外傷はなく、大きな杏のような眼が開けられたままであった。彼女たちは一瞬たじろぎ、深い困惑の皺を浮かべるばかりである。
高速道路の向こうから太陽がまぶしく昇ってきた。老婆たちは、まだなすすべを知らないまま立ち尽くしている。
若き日に書いた散文詩(のつもり)です。ご笑読いただければ幸いです。