『ドイツ流、日本流』川口マーン恵美著 草思社

 

 ドイツと日本は同じ第二次世界大戦の敗戦国だが、その復興は目覚ましく瞬く間に世界をリードする国になった。両国は、勤勉さとか職人文化とかでどこか似通ったところがあるような気がする。とりわけ自動車産業では、両国で世界のシェアの多くを占めるよきライバルでもある。(EVの普及により、少し状況が変わってきた?)

 本書は「30年暮らして見えてきたもの」という副題がつくように、ドイツ暮らしの長い著者によるドイツ・日本の比較文化論である。

 

 まず驚いたのは、ドイツ人は食より住に関心があり、食に金をかけることはなく極めて質素だということだ。夕食のおかずがサラダだけのこともあるという。

 ドイツ人は後に残るものには金を出すが、サービスやすぐ消えてしまうものには金を出し渋るそうだ。

日本のようなおにぎり一つにも付加価値をつけ高級化し、食を楽しむ文化とは大変な違いだと思う。

 また、日本の「福袋」について、絶対に損をすることはないという売り手買い手の暗黙の信頼が前提になっているので日本人は福袋を買う。ドイツ人はそんな信頼関係は誰も信じないから中身のわからないものなど買う筈がないという。

 ドイツ人がケチなのか合理的なのかは別にして、国民性に大いなる違いがあるように思う。

「先生が生徒と一緒に給食を食べること、生徒が学校の掃除をすることは素晴らしいことだ」                             

私たちにとって、なんでもないことだが、おのずと教師と生徒のつながり、信頼感が生まれるという。こんなところにも日本人の「相和す」の精神が働いているのかもしれない。

「日本人は、水はタダだと思い、ドイツ人は駐車はタダだと思っている。」

「新幹線が二分おきに時刻表どおり一分の誤差もなく発着することを信じられないという」

 これらは日本文化論の定番のようなもので、やっぱりドイツ人もそう思うのかと日本人の正確さを改めて思う。

 

 その他著者は、セックス観や教育制度など広範囲にわたり両国の比較文化論を展開しているが、日本人のことを次のように定義していることに注目したい。

「暴力のエネルギーの極端に低い国、互いの信頼関係でなりたっている社会、暴動も略奪も起こらない文化的土壌、優しい心根を持つ国民」

 いささかくすぐったい気持ちにもなるが、もし世界からそういう目で見られているとすれば嬉しく思う。

最後に、心にとどめておきたい言葉があったのでそれを挙げて締めくくりたい。上の「優しい心根を持つ国民」のバリエーションとも言える。

「世界の大国の真似をして軍事力で勝負したり、情報操作をしたりする必要はない。喧嘩慣れしていない私たちが他国と同じ土俵に乗って喧嘩腰になっても勝ち目はない」