ルポ『新大久保-移民最前線都市を歩く』 室橋裕和著 角川文庫

 

 

 

 ルポ『新大久保』をたいへん面白く読んだ。

   新大久保は、山手線では高田の馬場と新宿の間の駅である。若い頃、新大久保といえば「連れ込み宿」のイメージがあって、なんとなく好ましくない印象を持っていた。私の記憶では山手線からロッテの大きな工場が見えるぐらいの何もないところであった。たぶん、山手線の駅の中で現在まで一度も降りたことのない駅のひとつである。

 本書によると、現代の新大久保は国際的な町で、多様性に満ち溢れ混沌とした街のようだ。

地理的に新宿歌舞伎町にほど近く、そこで働くホステスの住むアパートが多く、最近でもそうだが、歌舞伎町と言うと何やら風俗の臭気が強く漂う街である。新大久保もその影響と無縁ではないだろう。

 ターニングポイントは、韓流ブームによるコリアタウン化である。若い女性がこの街に殺到するようになった。さらに転換期が来る。東日本大震災の原発事故により多くの韓国・中国人が帰国してしまった。日本政府がベトナム人、ネパール人等のビザの要件を緩和したことを機に、この地に東南アジア系、イスラム系の多くの国の若者が増えていった。

今や新大久保の通りは多種多様な言語の看板で埋め尽くされているという。モスクがあれば教会やヒンドゥー廟、神社も共存する宗教のルツボと化しているようだ。

 著者はこの新大久保に自ら住むことによって、同じ住民の目線でこの街をつぶさに描いていく。下駄箱都市論とでも言うべきもので、暖かい人間と人間のふれあいが本書の面白いところであろう。

私が興味を引いたのは、この街特有の送金会社と行政書士の存在である。

母国へ送金やビザの更新・変更など煩わしい手続きを代わりにやってくれる専門の送金会社や、行政書士がこの街では必須の存在であるという。なんと送金会社はコンビニの数より多いそうで、驚くやら納得するやらである。

 ベトナム人が経営する韓国料理屋に日本人、ベトナム人、ネパール人、韓国人などが日本語で語りあい、韓国料理をつつく。まさにカオスの街新大久保なのである。

  機会があれば一度、新大久保駅で降りて散歩してみようかなどと考えているが・・・はたしてそんな機会があるかな?