『女系天皇』天皇系譜の源流 工藤隆著 朝日新書

 

  皇位継承問題も先送りされたままで、依然として綱渡り状況であることは否めない。この問題の根底にあるのは、男系天皇でなければならない、いや女系であってもいいのではないかと議論が蟠っていることである。

本書は男系でなければならないという説に対する有力な反論をなすものである。

 

 著者は男系か、女系かという問題をわかりやすくするために、次の歴史区分を設ける。

 ①古代の古代(縄文、弥生、古墳時代)

 ②古代の近代(七、八世紀)

 ③明治新政権時代

 

 ①の時代は、卑弥呼を象徴として女性リーダーが跋扈した時代だという。少なくとも九州、群馬、茨城県等では女性首長の古墳が見つかっており女系の系譜があったことが推定できる。また弥生時代には、東南アジア諸民族一般に顕著な母系制が存在したという説を展開する。

②の時代には、「大宝律令」で女性天皇はもちろん女系天皇も容認されていたと説く。

たしかに推古、皇極(斉明)、持統、元明,元正,孝謙(称徳)天皇という六人(八代)の女性天皇を輩出したことでも、男系天皇は絶対的なものではなかったことが容易にわかる。

③の時代に初めて男子継承絶対主義が確立された。「万世一系」の系譜を作りあげ政治装置として確立させた。この男系でなければならないという思想は中国漢族の皇帝制度からの輸入であると著者はみなしている。

 この著者の視点に立てば、長い日本の歴史の中で男系天皇が正統となったのは、たかだか二百年前にすぎない。

右翼・保守派が主張する二千年も男系継承が続いてきたという説は、一種のイデオロギーにすぎなくなるように思わざるを得ないのである。

 

 加えて、継体天皇(26代)についてである。

前にもこの継体天皇を取り上げたことがあり繰り返しになるが、応神天皇の五世孫で北陸の地から請われて天皇を継承した。このことからも、地方豪族による新しい王権の誕生とする見方もないわけではない。

著者も同様の視点から継体天皇を論じており、むしろ仁賢天皇(24代)の皇女手白香皇女の婿として皇位についたことから「女系天皇」によって皇統が維持されたとみるのである。「男系」が絶対ではない明らかな事例である。

 

 私は神話や伝説を全否定するつもりはないが、本書はそれら神話や伝統に寄りかかった明治以降の男系天皇論に対して、文字のなかった時代、本書の時代区分で言えば「古代の古代」を重視した、考古学的、民俗学的見識に拠った天皇論であるように思う。

 イデオロギーの男系天皇か、土着の女系天皇か、あなたならどちらを支持しますか。

       

 愛子様が天皇になれば女性天皇,その子供が天皇になれば女系天皇