おかめ桜

 今年の冬は記録的な暖冬だったと言うが、本当にそうかなと思う。

先日は冷たい雨が降りしきり厚手のジャンバーの襟を立て暖房の部屋に閉じこもった。珍しく三月に入ってから雪も降った。毎日のように通う図書館でも、少し窓を開けて風通しをしているので、まったく暖かくない。部屋の中でもコートを着ている人も多いくらいだ。

 私がことのほか寒さを感じるようになったのは、やはり歳のせいであろうか。

何年か前から坐骨神経痛が出るようになり、腰から尻にかけてギクッとする痛みを感じ、思わず顔をしかめる日が少なくない。

こんな寒い日でも公園で飛び跳ね、遊びまわっている子供達が羨ましい、と妻に愚痴を言ったら、何を考えてるの、歳を考えなさい、歳を!と一蹴された。

老いとは歳を意識することであると今さらながら気づかされるのである。

 

 三月も半ばである。早春の兆しも感じられないことはない。公園の早咲きの桜(おかめ桜)は満開である。辛夷も白い蕾を膨らませ始めた。

「梅は咲いたか、桜はまだかいな」である。江戸の俗曲であり、このあと次のようにつづく。

  柳や なよなよ風次第

  山吹きや 浮気で色ばっかし

  しょんかいな

 日本人とくに庶民の自然にむけた目、その機知や洒落、つまり粋心が感じられる。

 

 ところで桜と言えば、近所の邸宅の広大な庭の道路沿いにあった八重桜が切り倒された。樹の周りが1メートルを超え、染井吉野の終わったあと見事な花をつけ私たちを楽しませてくれたのに残念でならない。どうやらマンション建設に伴い伐採されたようだ。

 また、近くの公園にある、これも太さ1メートルを超える巨大な桜もその太い幹を残してずいぶん大胆に剪定されてしまった。

「桜切るバカ、梅切らぬバカ」というが、なんとも勿体ない気がするが、概して桜は所有者に嫌われているのではないかという故なき疑いを持ってしまうのである。